最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
化粧品タレントコラボ企画契約事件
東京地裁平成27.6.25平成26(ワ)19866名誉回復措置並びに損害賠償請求事件PDF
別紙PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 清野正彦
裁判官 藤原典子
*裁判所サイト公表 2015.08.13
*キーワード:写真、著作物性、著作者、複製、送信可能化、同一性保持権、謝罪広告
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■事案
化粧品販売会社とタレントのコラボ企画契約終了後の写真やコラムの利用について紛争となった事案
原告:タレント
被告:化粧品企画販売会社代表者
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、20条、21条、23条、115条
1 本件写真5ないし17の著作物性及び著作者
2 同一性保持権侵害性
3 損害論
4 謝罪広告の要否
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■事案の概要
『本件は,別紙原告著作物目録記載1〜17の各写真(以下,これらを「本件各写真」と総称し,各写真を目録記載の番号により「本件写真1」などという。)及び同18〜25の各コラム(以下「本件各コラム」と総称する。)の著作者であると主張する原告が,被告に対し,(1)被告が本件各写真をパンフレット及びウェブサイトに掲載したことが原告の著作権(複製権及び送信可能化権)の侵害に当たるとして,不法行為による損害賠償金(使用料相当額)80万円の支払を求め,(2)被告が本件各コラムに付されていたタイトルを変更したことが原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たるとして,不法行為による損害賠償金(慰謝料)100万円の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求めた事案である。』(1頁以下)
<経緯>
H24.09 原告が本件会社の女性用ローション(本件商品)販促写真を撮影
H24.11 原告と本件会社が顧問契約
H25.02 原告がイベントを撮影
H26.05 原告が顧問契約解除通知
H26.06 被告が本件各コラムのタイトルを変更
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■判決内容
<争点>
1 本件写真5ないし17の著作物性及び著作者
(1)本件写真(5ないし17)の著作物性
タレントである原告は、メンタル心理カウンセラーの知識経験を活かして被告が代表を務める本件会社が展開する事業の商品開発やPR業務における助言、支援及びこれに付随する業務を行うことを内容とする顧問契約(顧問料月額20万円)を本件会社と締結していました。
この業務のなかで原告は、本件会社が主催あるいは出店するイベントの会場を写真撮影していました(本件写真5ないし17)。
被告は、本件写真5ないし17はスナップ写真にすぎず著作物とは認められないと反論しましたが、裁判所は、
「原告は,本件写真5〜17の撮影に当たり,写真を撮影する目的を踏まえて撮影対象を選び,背景,構図,撮影のタイミング等に工夫を加えて撮影しており,その画面上に原告の個性が表現されているということができる。したがって,これら各写真は原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性を有すると認めるのが相当である。」(10頁)
として各写真の著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定しています。
(2)本件写真(5ないし17)の著作者
被告は、これらの写真は原告が本件会社の業務として被告の補助者的立場で撮影したものであるから原告が著作者であるとはいえないと反論しましたが、裁判所は、原告がこれらを撮影しているとして、被告の主張を認めていません(10頁以下)。
結論として、本件写真1ないし4を含め、本件顧問契約終了後の被告による本件各写真のパンフレット及びウェブサイトへの掲載は、原告の複製権及び送信可能化権を侵害すると判断されています。
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2 同一性保持権侵害性
本件各コラムは、原告と被告が本件各コラムの各回のテーマに沿うアンケートの内容を打ち合わせ、原告の提案を一部被告が修正したアンケート項目について、本件会社がインターネットを利用してアンケートを実施し、原告は、被告から提供を受けたアンケート結果を踏まえてメンタル心理カウンセラーとしての知識経験を生かしながら文章部分を作成していました。
本件各コラムは、文章部分とアンケート結果を示すグラフ部分から構成されており、タイトルが付されていて、文章部分にはプロローグ、心理テスト(アンケート項目)、アンケート結果の紹介、心理分析等が含まれていました。
本件各コラムのタイトル変更について、裁判所は、本件各コラムは、文章部分を主、グラフ部分を従とするウェブサイト上の記事であり、文章部分を執筆した原告が著作者であり、被告によるタイトル変更は原告の意に反していることは明らかであると判断。
被告の行為は、著作物の題号を著作者の意に反して改変したものとして、原告の同一性保持権侵害(20条1項)に当たると判断しています(11頁以下)。
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3 損害論
(1)著作権侵害による損害額
本件顧問契約終了後の被告による本件各写真の複製権及び送信可能化権侵害に関わる使用料相当額の損害金について、裁判所は、本件写真1ないし4(原告の著作物であることについて争いはない)については、パンフレット利用といった用途、画質等に照らして1枚当たり1万円と認定。これに対して、本件写真5ないし17については、撮影目的及び被写体の性質上、本件会社のウェブサイトへの掲載以外の使途がない等の事情に鑑みて1枚当たり5000円と認定しています(13頁以下)。
結論として、著作権侵害による原告の損害は、合計10万5000円(1万円×4枚+5000円×13枚)と判断されています。
(2)著作者人格権侵害による損害額
被告による本件各コラムのタイトル変更に関わる著作者人格権(同一性保持権)侵害による慰謝料について、裁判所は、被告がタイトルを変更したのは本件顧問契約が被告による顧問料不払等を理由に解約され、原告から本件各コラムを削除するよう要求された後のことであり、被告の行為は軽率かつ不適切とのそしりを免れないものの、変更の具体的内容は変更後の各タイトルは特段不適切な表現ではない上、従前のタイトルと全く異なっているというものではないこと、さらに、変更前のタイトルも原告の提案に被告の修正が取り入れられていたといった作成の経緯も勘案して、慰謝料として10万円が認定されています(14頁以下)。
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4 謝罪広告の要否
原告は、名誉回復措置として謝罪広告掲載を求めましたが、裁判所は、本件において原告が主張する著作者人格権侵害は本件各コラムのタイトルを変更した行為のみであり、変更の程度が小さなものであること、そして、こうした変更により原告の社会的な評価ないし声望が害されていることをうかがわせる証拠もないとして、原告の謝罪広告の掲載を求める請求は理由がないと判断されています(15頁)。
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■コメント
タレントと化粧品販売会社との間のコラボ企画について、業務委託契約が終了したあとの写真やコラムの取扱いが争点となった事案です。
通常、商品販促目的のタレントコラボ企画の契約では、契約終了に伴ってタレントのパブリシティは一切使用できなくなるため、別段の取り決めがない限り、タレント提供の画像や文章の使用は契約後は困難となります。
なお、どのような企画だったのか知りたいところですが、別紙にコラムのタイトル一覧が掲載されているためネット検索をしてみましたが、問題となったコラムにたどり着くことができませんでした(原告は法人を相手に提訴しておらず、その点からも情報不足でした。もしかしたら、ですが、原告画像にユリが入っていること、女性用ローションが対象商品であることから、「女性のためのラブローション」商品に関する企画だったかもしれません)。
化粧品タレントコラボ企画契約事件
東京地裁平成27.6.25平成26(ワ)19866名誉回復措置並びに損害賠償請求事件PDF
別紙PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 清野正彦
裁判官 藤原典子
*裁判所サイト公表 2015.08.13
*キーワード:写真、著作物性、著作者、複製、送信可能化、同一性保持権、謝罪広告
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■事案
化粧品販売会社とタレントのコラボ企画契約終了後の写真やコラムの利用について紛争となった事案
原告:タレント
被告:化粧品企画販売会社代表者
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、20条、21条、23条、115条
1 本件写真5ないし17の著作物性及び著作者
2 同一性保持権侵害性
3 損害論
4 謝罪広告の要否
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■事案の概要
『本件は,別紙原告著作物目録記載1〜17の各写真(以下,これらを「本件各写真」と総称し,各写真を目録記載の番号により「本件写真1」などという。)及び同18〜25の各コラム(以下「本件各コラム」と総称する。)の著作者であると主張する原告が,被告に対し,(1)被告が本件各写真をパンフレット及びウェブサイトに掲載したことが原告の著作権(複製権及び送信可能化権)の侵害に当たるとして,不法行為による損害賠償金(使用料相当額)80万円の支払を求め,(2)被告が本件各コラムに付されていたタイトルを変更したことが原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たるとして,不法行為による損害賠償金(慰謝料)100万円の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求めた事案である。』(1頁以下)
<経緯>
H24.09 原告が本件会社の女性用ローション(本件商品)販促写真を撮影
H24.11 原告と本件会社が顧問契約
H25.02 原告がイベントを撮影
H26.05 原告が顧問契約解除通知
H26.06 被告が本件各コラムのタイトルを変更
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■判決内容
<争点>
1 本件写真5ないし17の著作物性及び著作者
(1)本件写真(5ないし17)の著作物性
タレントである原告は、メンタル心理カウンセラーの知識経験を活かして被告が代表を務める本件会社が展開する事業の商品開発やPR業務における助言、支援及びこれに付随する業務を行うことを内容とする顧問契約(顧問料月額20万円)を本件会社と締結していました。
この業務のなかで原告は、本件会社が主催あるいは出店するイベントの会場を写真撮影していました(本件写真5ないし17)。
被告は、本件写真5ないし17はスナップ写真にすぎず著作物とは認められないと反論しましたが、裁判所は、
「原告は,本件写真5〜17の撮影に当たり,写真を撮影する目的を踏まえて撮影対象を選び,背景,構図,撮影のタイミング等に工夫を加えて撮影しており,その画面上に原告の個性が表現されているということができる。したがって,これら各写真は原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性を有すると認めるのが相当である。」(10頁)
として各写真の著作物性(著作権法2条1項1号)を肯定しています。
(2)本件写真(5ないし17)の著作者
被告は、これらの写真は原告が本件会社の業務として被告の補助者的立場で撮影したものであるから原告が著作者であるとはいえないと反論しましたが、裁判所は、原告がこれらを撮影しているとして、被告の主張を認めていません(10頁以下)。
結論として、本件写真1ないし4を含め、本件顧問契約終了後の被告による本件各写真のパンフレット及びウェブサイトへの掲載は、原告の複製権及び送信可能化権を侵害すると判断されています。
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2 同一性保持権侵害性
本件各コラムは、原告と被告が本件各コラムの各回のテーマに沿うアンケートの内容を打ち合わせ、原告の提案を一部被告が修正したアンケート項目について、本件会社がインターネットを利用してアンケートを実施し、原告は、被告から提供を受けたアンケート結果を踏まえてメンタル心理カウンセラーとしての知識経験を生かしながら文章部分を作成していました。
本件各コラムは、文章部分とアンケート結果を示すグラフ部分から構成されており、タイトルが付されていて、文章部分にはプロローグ、心理テスト(アンケート項目)、アンケート結果の紹介、心理分析等が含まれていました。
本件各コラムのタイトル変更について、裁判所は、本件各コラムは、文章部分を主、グラフ部分を従とするウェブサイト上の記事であり、文章部分を執筆した原告が著作者であり、被告によるタイトル変更は原告の意に反していることは明らかであると判断。
被告の行為は、著作物の題号を著作者の意に反して改変したものとして、原告の同一性保持権侵害(20条1項)に当たると判断しています(11頁以下)。
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3 損害論
(1)著作権侵害による損害額
本件顧問契約終了後の被告による本件各写真の複製権及び送信可能化権侵害に関わる使用料相当額の損害金について、裁判所は、本件写真1ないし4(原告の著作物であることについて争いはない)については、パンフレット利用といった用途、画質等に照らして1枚当たり1万円と認定。これに対して、本件写真5ないし17については、撮影目的及び被写体の性質上、本件会社のウェブサイトへの掲載以外の使途がない等の事情に鑑みて1枚当たり5000円と認定しています(13頁以下)。
結論として、著作権侵害による原告の損害は、合計10万5000円(1万円×4枚+5000円×13枚)と判断されています。
(2)著作者人格権侵害による損害額
被告による本件各コラムのタイトル変更に関わる著作者人格権(同一性保持権)侵害による慰謝料について、裁判所は、被告がタイトルを変更したのは本件顧問契約が被告による顧問料不払等を理由に解約され、原告から本件各コラムを削除するよう要求された後のことであり、被告の行為は軽率かつ不適切とのそしりを免れないものの、変更の具体的内容は変更後の各タイトルは特段不適切な表現ではない上、従前のタイトルと全く異なっているというものではないこと、さらに、変更前のタイトルも原告の提案に被告の修正が取り入れられていたといった作成の経緯も勘案して、慰謝料として10万円が認定されています(14頁以下)。
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4 謝罪広告の要否
原告は、名誉回復措置として謝罪広告掲載を求めましたが、裁判所は、本件において原告が主張する著作者人格権侵害は本件各コラムのタイトルを変更した行為のみであり、変更の程度が小さなものであること、そして、こうした変更により原告の社会的な評価ないし声望が害されていることをうかがわせる証拠もないとして、原告の謝罪広告の掲載を求める請求は理由がないと判断されています(15頁)。
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■コメント
タレントと化粧品販売会社との間のコラボ企画について、業務委託契約が終了したあとの写真やコラムの取扱いが争点となった事案です。
通常、商品販促目的のタレントコラボ企画の契約では、契約終了に伴ってタレントのパブリシティは一切使用できなくなるため、別段の取り決めがない限り、タレント提供の画像や文章の使用は契約後は困難となります。
なお、どのような企画だったのか知りたいところですが、別紙にコラムのタイトル一覧が掲載されているためネット検索をしてみましたが、問題となったコラムにたどり着くことができませんでした(原告は法人を相手に提訴しておらず、その点からも情報不足でした。もしかしたら、ですが、原告画像にユリが入っていること、女性用ローションが対象商品であることから、「女性のためのラブローション」商品に関する企画だったかもしれません)。