最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

1級建築士受験テキスト事件

東京地裁平成27.7.16平成26(ワ)26770損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      清野正彦
裁判官      中嶋邦人

*裁判所サイト公表 2015.7.28
*キーワード:受験テキスト、複製、翻案

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■事案

資格試験予備校が発行する1級建築士受験テキストの複製翻案等が争点となった事案

原告:資格試験予備校運営会社
被告:資格試験予備校運営会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法21条、27条

1 複製権及び翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,別紙原告書籍目録記載の書籍(以下,それぞれを同別紙の番号により「原告書籍1」などといい,これらを「原告各書籍」と総称する。)の著作権及び著作者人格権を有するところ,被告による被告各書籍の発行が原告各書籍に係る原告の著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,(1)著作権法112条1項に基づく被告各書籍の発行等の差止め,(2)民法709条に基づく損害賠償金7623万円及びこれに対する不法行為の日の後(訴状送達の日の翌日)である平成26年11月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(1頁以下)

原告書籍:「平成25年度 1級建築士設計製図受験テキスト」など
被告書籍:「建築士講座 2013年目標 1級建築士 新体系テキスト 設計製図」など

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■判決内容

<争点>

1 複製権及び翻案権侵害の成否

被告各書籍の各表現が原告各書籍の各表現を複製ないし翻案したものかどうかについて、裁判所は、まず、複製ないし翻案の意義について触れた上で、複製権等の侵害について検討を加えています(5頁以下)。
結論として、23点に及ぶ原告各表現は、いずれも、ありふれているか、アイデア部分、事実部分である(原告表現20については、依拠性を否定)などとして、創作性がある部分での同一性などは認められないと判断。複製権及び翻案権侵害の成立を否定しています。

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2 同一性保持権侵害の成否

被告各表現は原告各表現の複製又は翻案のいずれにも当たらないことから、複製権又は翻案権の侵害を前提とする同一性保持権侵害の主張も認められていません(13頁)。

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■コメント

予備校の一級建築士資格取得講座で使用されたテキストの複製性、翻案性が争点となった事案ですが、オリジナルの一級建築士本試験問題から大きく離れることができない試験問題再現受験対策本制作という制約のなかで、独自の表現、創作といっても(一般不法行為論による保護は別として)著作権での保護は限界があるのではないかと思われるところです。