最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
大阪拘置所死刑確定者原稿事件
大阪地裁平成27.6.11平成26(ワ)7683損害賠償請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 田原美奈子
裁判官 大川潤子
*裁判所サイト公表 2015.7.1
*キーワード:裁判手続等における複製
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■事案
死刑確定者として大阪拘置所に収容中の原告の原稿について、大阪拘置所による複製行為の違法性などが争点となった事案
原告:死刑確定者
被告:国
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法42条、国家賠償法1条1項
1 本件原稿を提出させて詐取したか
2 著作権侵害性
3 財産権あるいは信書の秘密を侵したか
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■事案の概要
『本件は,死刑確定者として大阪拘置所に収容中の原告が,(1)大阪拘置所職員等が,信書を発信する手続に際し,原告の著作物である原稿を騙して提出させた行為,(2)同職員が同原稿の写しを原告の許諾なく作成した行為,(3)同職員が,その写しを大阪法務局訟務部職員に交付した行為,(4)同訟務部職員が同原稿の写し等に基づき書面を作成した行為が,いずれも違法な行為((2),(4)については著作権侵害行為として)であると主張し,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,損害金300万円及びこれに対する原告が前記原稿を提出した日である平成26年5月26日から本件の判決確定の日まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁以下)
<経緯>
H25.04 原告が大阪拘置所長に対し原稿同封信書送付発信申請
大阪拘置所長が不許可処分
原告が別件不許可処分の取消しを求める訴訟を提起
(大阪地裁平25(行ウ)96発信不許可処分取消請求事件)
H26.05 不許可処分違法取消し判決
原告が出版社との外部交通を願い出
大阪拘置所矯正処遇官が本件原稿の写しを作成
H26.06 被告が大阪高裁に控訴(別件控訴事件)
P10が本件報告書作成
原告の願意受け入れない旨の告知
大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に本件報告書写し交付
H26.07 大阪法務局訟務部職員が別件控訴理由書提出
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■判決内容
<争点>
1 本件原稿を提出させて詐取したか
原告は、大阪拘置所矯正処遇官副看守長P22が本件原稿を取得した経緯が犯罪に類する行為であり違法であると主張しました(12頁以下)。
この点について、裁判所は、P22が大阪拘置所矯正処遇官P10統括の了解を得て原告に本件原稿の提出を求めた行為は、所轄の統括において発受の可否を判断するために本件原稿を必要があると認めて本件原稿を提出させた行為と評価でき、刑事収容施設法139条1項により当然に発受できない信書の発信を求める本件願箋への対処として適法なものであると判断。
原告の主張を認めていません。
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2 著作権侵害性
原告は、大阪拘置所職員等が本件原稿の写しを原告の許諾なく作成した行為や大阪法務局訟務部職員が別件控訴理由書を作成した行為がいずれも原告が本件原稿について有する著作権を侵害する違法な行為である旨主張しました(14頁以下)。
この点について、裁判所は、P10統括の本件原稿の写しの作成については、著作権法42条1項本文に定める「行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合」に該当すると判断。
また、本件原稿の写しを利用した別件控訴理由書の作成については、本件報告書作成行為そのものは判読が困難な自筆のものを簡潔かつ正確に報告するための複製であること、そして、本件報告書は別件控訴事件に提出するために作成されたものであり、その作成のためにした複製行為は著作権法42条1項本文に定める「裁判手続のために必要と認められる場合」に該当すると判断。同項但書も問題とならないとして、原告の主張を認めていません。
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3 財産権あるいは信書の秘密を侵したか
原告は、大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に対して本件原稿の写しを交付した行為が財産権あるいは信書の秘密を侵すなどとして違法である旨主張しました(17頁以下)。
この点について、裁判所は、大阪拘置所の在監者が国を相手として同拘置所における処分の取消しを求める訴訟を提起した場合、大阪拘置所長が国の指定代理人である大阪法務局訟務部職員に対して同拘置所長が訴えに関する事実関係や背景事情等について意見を述べ、参考となる資料を交付する行為は、自らの所管する事務について訴訟が提起された行政庁として当然なすべき行為であること、また、大阪拘置所も大阪法務局も、いずれも国家行政組織の一機関にすぎないことから、大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に対して資料を交付する行為等は行政庁内部の事務手続にすぎないと判断。
大阪拘置所長が本件原稿の写しを大阪法務局訟務部職員に交付した行為は、適法な職務の一部であって原告の財産権に対する侵害や信書の秘密に対する侵害とはならないと判断しています。
結論として、大阪拘置所職員等の行為が違法な行為であることを理由とする国家賠償法1条1項に基づく原告の損害賠償請求は認められていません。
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■コメント
1984年の京都・大阪連続強盗殺人事件で死刑判決が確定した神宮(旧姓広田)雅晴死刑囚が原告の事案です。
原稿を出版社に送ることを認めなかった大阪拘置所の処分が不当だとして提起した別件訴訟の一審では、不許可処分は違法であるとして取り消す旨の判決が出ていましたが、控訴審では原告の請求が棄却されています。
大阪拘置所死刑確定者原稿事件
大阪地裁平成27.6.11平成26(ワ)7683損害賠償請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 田原美奈子
裁判官 大川潤子
*裁判所サイト公表 2015.7.1
*キーワード:裁判手続等における複製
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■事案
死刑確定者として大阪拘置所に収容中の原告の原稿について、大阪拘置所による複製行為の違法性などが争点となった事案
原告:死刑確定者
被告:国
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法42条、国家賠償法1条1項
1 本件原稿を提出させて詐取したか
2 著作権侵害性
3 財産権あるいは信書の秘密を侵したか
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■事案の概要
『本件は,死刑確定者として大阪拘置所に収容中の原告が,(1)大阪拘置所職員等が,信書を発信する手続に際し,原告の著作物である原稿を騙して提出させた行為,(2)同職員が同原稿の写しを原告の許諾なく作成した行為,(3)同職員が,その写しを大阪法務局訟務部職員に交付した行為,(4)同訟務部職員が同原稿の写し等に基づき書面を作成した行為が,いずれも違法な行為((2),(4)については著作権侵害行為として)であると主張し,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,損害金300万円及びこれに対する原告が前記原稿を提出した日である平成26年5月26日から本件の判決確定の日まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(2頁以下)
<経緯>
H25.04 原告が大阪拘置所長に対し原稿同封信書送付発信申請
大阪拘置所長が不許可処分
原告が別件不許可処分の取消しを求める訴訟を提起
(大阪地裁平25(行ウ)96発信不許可処分取消請求事件)
H26.05 不許可処分違法取消し判決
原告が出版社との外部交通を願い出
大阪拘置所矯正処遇官が本件原稿の写しを作成
H26.06 被告が大阪高裁に控訴(別件控訴事件)
P10が本件報告書作成
原告の願意受け入れない旨の告知
大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に本件報告書写し交付
H26.07 大阪法務局訟務部職員が別件控訴理由書提出
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■判決内容
<争点>
1 本件原稿を提出させて詐取したか
原告は、大阪拘置所矯正処遇官副看守長P22が本件原稿を取得した経緯が犯罪に類する行為であり違法であると主張しました(12頁以下)。
この点について、裁判所は、P22が大阪拘置所矯正処遇官P10統括の了解を得て原告に本件原稿の提出を求めた行為は、所轄の統括において発受の可否を判断するために本件原稿を必要があると認めて本件原稿を提出させた行為と評価でき、刑事収容施設法139条1項により当然に発受できない信書の発信を求める本件願箋への対処として適法なものであると判断。
原告の主張を認めていません。
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2 著作権侵害性
原告は、大阪拘置所職員等が本件原稿の写しを原告の許諾なく作成した行為や大阪法務局訟務部職員が別件控訴理由書を作成した行為がいずれも原告が本件原稿について有する著作権を侵害する違法な行為である旨主張しました(14頁以下)。
この点について、裁判所は、P10統括の本件原稿の写しの作成については、著作権法42条1項本文に定める「行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合」に該当すると判断。
また、本件原稿の写しを利用した別件控訴理由書の作成については、本件報告書作成行為そのものは判読が困難な自筆のものを簡潔かつ正確に報告するための複製であること、そして、本件報告書は別件控訴事件に提出するために作成されたものであり、その作成のためにした複製行為は著作権法42条1項本文に定める「裁判手続のために必要と認められる場合」に該当すると判断。同項但書も問題とならないとして、原告の主張を認めていません。
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3 財産権あるいは信書の秘密を侵したか
原告は、大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に対して本件原稿の写しを交付した行為が財産権あるいは信書の秘密を侵すなどとして違法である旨主張しました(17頁以下)。
この点について、裁判所は、大阪拘置所の在監者が国を相手として同拘置所における処分の取消しを求める訴訟を提起した場合、大阪拘置所長が国の指定代理人である大阪法務局訟務部職員に対して同拘置所長が訴えに関する事実関係や背景事情等について意見を述べ、参考となる資料を交付する行為は、自らの所管する事務について訴訟が提起された行政庁として当然なすべき行為であること、また、大阪拘置所も大阪法務局も、いずれも国家行政組織の一機関にすぎないことから、大阪拘置所長が大阪法務局訟務部職員に対して資料を交付する行為等は行政庁内部の事務手続にすぎないと判断。
大阪拘置所長が本件原稿の写しを大阪法務局訟務部職員に交付した行為は、適法な職務の一部であって原告の財産権に対する侵害や信書の秘密に対する侵害とはならないと判断しています。
結論として、大阪拘置所職員等の行為が違法な行為であることを理由とする国家賠償法1条1項に基づく原告の損害賠償請求は認められていません。
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■コメント
1984年の京都・大阪連続強盗殺人事件で死刑判決が確定した神宮(旧姓広田)雅晴死刑囚が原告の事案です。
原稿を出版社に送ることを認めなかった大阪拘置所の処分が不当だとして提起した別件訴訟の一審では、不許可処分は違法であるとして取り消す旨の判決が出ていましたが、控訴審では原告の請求が棄却されています。