最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「プロ野球ドリームナイン」ソーシャルゲーム事件(控訴審)
知財高裁平成27.6.24平成26(ネ)10004損害賠償等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設楽楼
裁判官 大寄麻代
裁判官 岡田慎吾
*裁判所サイト公表 2015.6.26
*キーワード:著作物性、複製、翻案、一般不法行為論
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■事案
プロ野球トレーディングカードを題材としたSNSゲームの類否が争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :エンタテインメントコンテンツ企画制作会社
被控訴人(1審被告):コンテンツ制作配信会社
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■結論
原判決変更
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、民法709条
1 被控訴人ゲームの製作、配信行為が控訴人の著作権を侵害するか
2 被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか
3 損害額
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■事案の概要
『本件は,「プロ野球ドリームナイン」というタイトルのゲーム(以下「控訴人ゲーム」という。)をソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で提供・配信している控訴人が,「大熱狂!!プロ野球カード」というタイトルの原判決別紙ゲーム目録記載のゲーム(以下「被控訴人ゲーム」という。)を提供・配信している被控訴人に対し,主位的には,(1)被控訴人が控訴人ゲームを複製又は翻案して,被控訴人ゲームを自動公衆送信することによって,控訴人の有する著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害していることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求,又は,(2)被控訴人ゲームの影像や構成等は控訴人ゲームの影像や構成と同一又は類似しているから,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は3号の不正競争に該当することを理由とする不競法4条に基づく損害賠償請求として,被控訴人に対し,5595万1875円及びこれに対する平成23年9月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに弁護士費用相当額として260万円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,(3)著作権112条1項又は不競法3条の規定に基づき被控訴人ゲームの配信(公衆送信,送信可能化)の差止めを求めるとともに,予備的に,(4)被控訴人ゲームの提供・配信は,控訴人ゲームを提供・配信することによって生じる控訴人の営業活動上の利益を不法に侵害する一般不法行為に該当すると主張して,民法709条に基づく損害賠償請求として1716万4696円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,原審における上記(1)及び(4)の各請求を棄却した部分を不服として,控訴人が本件控訴をした。控訴人は,上記(2)及び(3)の各請求を棄却した部分については不服を申し立てておらず,したがってこれらの請求については,当審の審理の対象となっていない。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 被控訴人ゲームの製作、配信行為が控訴人の著作権を侵害するか
(1)選手ガチャにおける著作権侵害の成否について
控訴審は、まず、著作権法2条1項1号の著作物性、同項15号の複製、さらに翻案の意義について言及した上で、個別表現ごとに著作権侵害の成否を検討し、さらに、ゲーム全体について著作権侵害の成否を検討しています(21頁以下)。
まず、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャ(控訴人ゲームが約2.7秒、被控訴人ゲームが約3.2秒の動画)を対比した上で、共通点については、単なる事実の表現にすぎない、あるいは、ありふれた表現にすぎないとして、創作性がないか又は表現上特徴的とはいえない表現にすぎないと判断。
両ゲームの選手ガチャは、一連の流れの中の個々の具体的な表現内容において大きく相違し、その相違点は創作性がある共通点の部分から受ける印象を大きく上回るものとして、両ゲームの選手ガチャに接する者が、その一連の動画全体から受ける印象は異なるものであり、被控訴人ゲームの選手ガチャから控訴人ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないと判断しています。
結論として、被控訴人ゲームの「選手ガチャ」は、控訴人ゲームの複製又は翻案に当たらないと判断しています。
(2)選手カードにおける著作権侵害の成否について
控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける4選手(中島選手、ダルビッシュ選手、今江選手、坂本選手)カードの表現について、両ゲームの選手カードで使用された写真は、日本野球機構からそれぞれが提供を受けた複数の写真の中から選択したものを使用していました。
(a)中島選手について
(ア)中島選手の本体写真について、その具体的なポーズ、大きさ及びそのカード上の配置
(イ)本体写真の上半身を大きく拡大し、本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が、多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置
(ウ)本体写真の下部に本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに、全体の背景としても炎が描かれ、カード中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線(後光)が四方へ向けて描かれている
(エ)カード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている
といった点で具体的表現が一致すると判断(28頁以下)。
中島選手の力強いスイングによる躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められると判断。
そして、被控訴人ゲームの中島選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手カードと同一のものとはいえず、別の写真を使用し、全体として金色を基調とした色味に変更することで新たな表現を加えたものといえるから、複製に当たるものとは認められないものの、控訴人ゲームの同選手カードを翻案したものと認められると判断しています。
(b)ダルビッシュ選手について
ダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められると判断。
被控訴人ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは、中島選手についてと同様に、控訴人ゲームのダルビッシュ選手のカードを翻案したものと認められると判断しています(30頁)。
(c)坂本選手について
控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、選手の二重表示がないため、躍動感や迫力に乏しく、放射線状の閃光もないこととあいまって、他のカードと比較すると全体的に落ち着いている印象を与える。これに対して、被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、二重表示及び背景の閃光により、選手写真全体に動きと力強さが与えられており、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当であると裁判所は判断。
被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえないと判断しています(30頁以下)。
(d)今江選手について
控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手がバットを立てて構えており、相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し、被控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手が既にバットを後ろに引き、相手の投手の投げるボールに合わせてスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものであるため、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当であると裁判所は判断。
被控訴人ゲームの今江選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえないと判断しています(31頁以下)。
その他、依拠性、過失も肯定されています。
以上から、被控訴人ゲームの中島選手及びダルビッシュ選手の各選手カードは、控訴人の選手カードの翻案権を侵害したものであり、また、被控訴人は、これらの選手カードのデータをインターネットを経由して、利用者の携帯電話に送信し、これに表示させており公衆送信権を侵害したと判断されています。
(3)選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害について
控訴審においても、選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害性否定の原審の判断を維持しています(39頁以下)。
控訴審は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現にすぎないというべきであるし、共通点を全体のまとまりとしてみても、ありふれた表現の域を出ないから、これらの共通点自体が控訴人ゲームの「強化」等における具体的表現における表現上の本質的な特徴とはいえないし、仮にアイデア以外の表現部分の組合せに創作性が認められるとしてもそれ以外の具体的な表現は大きく相違するなどと判断しています。
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2 被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか
控訴人は、「ガチャ」、「クエスト」、「デッキ」、「バトル」、「合成」の五つの要素を絶妙なゲームバランスをもって相互に関連づけて組み合わせている点や、野手、投手ともに能力に関連する情報を三つに絞り、情報を付与することとした点に、ゲームシステムとしての特色があり、そのような控訴人ゲームシステムは、法的保護に値すると主張しました(41頁以下)。
しかし、控訴審は、控訴人が主張するような各ゲームにアレンジして適用することが可能な「控訴人ゲームシステム」とは、ゲームのルールというアイデアというべきところ、各種知的財産権関係の法律で保護の対象とされていないそのような無形のアイデアが、不法行為上保護すべき法益と認められるためには、単に、そのようなゲームシステムと全く同一のものは従前存在せず、それが控訴人に営業上の利益を生み出しているというのみでは足りず、そのような一般に公開されているゲームシステムのルールないしアイデアを他の同業者が採用して独自にゲームを製作することが禁じられるという規範が、法的規範として肯定できるほどに成熟し、明確となっていることが必要であると説示。
この点、控訴人の主張からは、「膨大な時間と労力をかけて検討を尽くして」という具体的な内容は不明であり、その立証もなく、仮にそのようなものが存在するとしても、控訴人が主張するゲームシステムが、それによって控訴人が利益を得ているということを超えて社会における法的に保護されるべき利益とされるべきような事情は認められず、そのような検討により編み出されたゲームとしての工夫が、著作権法や不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律による保護を超えて、不法行為法上の保護法益として認められるだけの特段の事情があるとは認められないと判断。
控訴人の主張を認めていません。
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3 損害額
(1)著作権法114条2項に基づく損害
114条2項により控訴人が受けた損害の額と推定される額について、
・被控訴人ゲームにおけるレアパックの販売により被控訴人が得た利益:1541万5312円
・本件2選手カードの販売により被控訴人が受けた利益の割合:8%
として、123万3225円(1541万5312円×0.08)と判断。その上で、さらに、114条2項の推定覆滅事由(利用者の被控訴人ゲームと控訴人ゲームとの選択に際して選手カードの表現以外の要素が寄与している割合)としてその9割を認定。
結論として、12万3322円(123万3225円×10%)を114条2項に基づく損害として認定してます(42頁以下)。
(2)弁護士費用相当額
不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円と認定されています。
結論として、合計32万3322円が損害額として認められています。
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■コメント
原審では全部棄却の判断でしたが、控訴審では一部認容の結果となりました。被控訴人ゲームの選手カードのうち、中島選手及びダルビッシュ選手の選手カードについては、控訴人ゲームの選手カードの著作権(翻案権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求が認められています。
控訴人ゲームの選手カードに使用された選手の写真は、球団から提供された複数の写真(ダルビッシュ選手については数百枚、中島選手については3枚(36頁))からなので、カードのデザインについては、表現の選択の余地が狭いとも言えますが、判決文末尾にある別紙には「選手カード」の画像が掲載されていて、両社製品の比較をしてみると、一部カードについては確かに類似している印象を受けます。

控訴人カード(中島選手)

被控訴人カード(中島選手)
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■過去のブログ記事
原審記事
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知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設楽楼
裁判官 大寄麻代
裁判官 岡田慎吾
*裁判所サイト公表 2015.6.26
*キーワード:著作物性、複製、翻案、一般不法行為論
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■事案
プロ野球トレーディングカードを題材としたSNSゲームの類否が争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :エンタテインメントコンテンツ企画制作会社
被控訴人(1審被告):コンテンツ制作配信会社
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■結論
原判決変更
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、民法709条
1 被控訴人ゲームの製作、配信行為が控訴人の著作権を侵害するか
2 被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか
3 損害額
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■事案の概要
『本件は,「プロ野球ドリームナイン」というタイトルのゲーム(以下「控訴人ゲーム」という。)をソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で提供・配信している控訴人が,「大熱狂!!プロ野球カード」というタイトルの原判決別紙ゲーム目録記載のゲーム(以下「被控訴人ゲーム」という。)を提供・配信している被控訴人に対し,主位的には,(1)被控訴人が控訴人ゲームを複製又は翻案して,被控訴人ゲームを自動公衆送信することによって,控訴人の有する著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害していることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求,又は,(2)被控訴人ゲームの影像や構成等は控訴人ゲームの影像や構成と同一又は類似しているから,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は3号の不正競争に該当することを理由とする不競法4条に基づく損害賠償請求として,被控訴人に対し,5595万1875円及びこれに対する平成23年9月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに弁護士費用相当額として260万円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,(3)著作権112条1項又は不競法3条の規定に基づき被控訴人ゲームの配信(公衆送信,送信可能化)の差止めを求めるとともに,予備的に,(4)被控訴人ゲームの提供・配信は,控訴人ゲームを提供・配信することによって生じる控訴人の営業活動上の利益を不法に侵害する一般不法行為に該当すると主張して,民法709条に基づく損害賠償請求として1716万4696円及びこれに対する平成24年2月21日(同月14日付け訴え変更申立書の送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,原審における上記(1)及び(4)の各請求を棄却した部分を不服として,控訴人が本件控訴をした。控訴人は,上記(2)及び(3)の各請求を棄却した部分については不服を申し立てておらず,したがってこれらの請求については,当審の審理の対象となっていない。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 被控訴人ゲームの製作、配信行為が控訴人の著作権を侵害するか
(1)選手ガチャにおける著作権侵害の成否について
控訴審は、まず、著作権法2条1項1号の著作物性、同項15号の複製、さらに翻案の意義について言及した上で、個別表現ごとに著作権侵害の成否を検討し、さらに、ゲーム全体について著作権侵害の成否を検討しています(21頁以下)。
まず、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャ(控訴人ゲームが約2.7秒、被控訴人ゲームが約3.2秒の動画)を対比した上で、共通点については、単なる事実の表現にすぎない、あるいは、ありふれた表現にすぎないとして、創作性がないか又は表現上特徴的とはいえない表現にすぎないと判断。
両ゲームの選手ガチャは、一連の流れの中の個々の具体的な表現内容において大きく相違し、その相違点は創作性がある共通点の部分から受ける印象を大きく上回るものとして、両ゲームの選手ガチャに接する者が、その一連の動画全体から受ける印象は異なるものであり、被控訴人ゲームの選手ガチャから控訴人ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないと判断しています。
結論として、被控訴人ゲームの「選手ガチャ」は、控訴人ゲームの複製又は翻案に当たらないと判断しています。
(2)選手カードにおける著作権侵害の成否について
控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける4選手(中島選手、ダルビッシュ選手、今江選手、坂本選手)カードの表現について、両ゲームの選手カードで使用された写真は、日本野球機構からそれぞれが提供を受けた複数の写真の中から選択したものを使用していました。
(a)中島選手について
(ア)中島選手の本体写真について、その具体的なポーズ、大きさ及びそのカード上の配置
(イ)本体写真の上半身を大きく拡大し、本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が、多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置
(ウ)本体写真の下部に本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに、全体の背景としても炎が描かれ、カード中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線(後光)が四方へ向けて描かれている
(エ)カード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている
といった点で具体的表現が一致すると判断(28頁以下)。
中島選手の力強いスイングによる躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められると判断。
そして、被控訴人ゲームの中島選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手カードと同一のものとはいえず、別の写真を使用し、全体として金色を基調とした色味に変更することで新たな表現を加えたものといえるから、複製に当たるものとは認められないものの、控訴人ゲームの同選手カードを翻案したものと認められると判断しています。
(b)ダルビッシュ選手について
ダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わってくるものであって、両選手カードは、表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ、また、その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められると判断。
被控訴人ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは、中島選手についてと同様に、控訴人ゲームのダルビッシュ選手のカードを翻案したものと認められると判断しています(30頁)。
(c)坂本選手について
控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、選手の二重表示がないため、躍動感や迫力に乏しく、放射線状の閃光もないこととあいまって、他のカードと比較すると全体的に落ち着いている印象を与える。これに対して、被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては、二重表示及び背景の閃光により、選手写真全体に動きと力強さが与えられており、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当であると裁判所は判断。
被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえないと判断しています(30頁以下)。
(d)今江選手について
控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手がバットを立てて構えており、相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し、被控訴人ゲームの同選手のカードでは、同選手が既にバットを後ろに引き、相手の投手の投げるボールに合わせてスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものであるため、両者は、その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当であると裁判所は判断。
被控訴人ゲームの今江選手の選手カードは、控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえないと判断しています(31頁以下)。
その他、依拠性、過失も肯定されています。
以上から、被控訴人ゲームの中島選手及びダルビッシュ選手の各選手カードは、控訴人の選手カードの翻案権を侵害したものであり、また、被控訴人は、これらの選手カードのデータをインターネットを経由して、利用者の携帯電話に送信し、これに表示させており公衆送信権を侵害したと判断されています。
(3)選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害について
控訴審においても、選手ガチャ及び選手カード以外の被控訴人ゲームの個別表現における著作権侵害及び被控訴人ゲーム全体についての著作権侵害性否定の原審の判断を維持しています(39頁以下)。
控訴審は、アイデアにすぎないか、ありふれた表現にすぎないというべきであるし、共通点を全体のまとまりとしてみても、ありふれた表現の域を出ないから、これらの共通点自体が控訴人ゲームの「強化」等における具体的表現における表現上の本質的な特徴とはいえないし、仮にアイデア以外の表現部分の組合せに創作性が認められるとしてもそれ以外の具体的な表現は大きく相違するなどと判断しています。
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2 被控訴人ゲームの配信行為は不法行為に該当するか
控訴人は、「ガチャ」、「クエスト」、「デッキ」、「バトル」、「合成」の五つの要素を絶妙なゲームバランスをもって相互に関連づけて組み合わせている点や、野手、投手ともに能力に関連する情報を三つに絞り、情報を付与することとした点に、ゲームシステムとしての特色があり、そのような控訴人ゲームシステムは、法的保護に値すると主張しました(41頁以下)。
しかし、控訴審は、控訴人が主張するような各ゲームにアレンジして適用することが可能な「控訴人ゲームシステム」とは、ゲームのルールというアイデアというべきところ、各種知的財産権関係の法律で保護の対象とされていないそのような無形のアイデアが、不法行為上保護すべき法益と認められるためには、単に、そのようなゲームシステムと全く同一のものは従前存在せず、それが控訴人に営業上の利益を生み出しているというのみでは足りず、そのような一般に公開されているゲームシステムのルールないしアイデアを他の同業者が採用して独自にゲームを製作することが禁じられるという規範が、法的規範として肯定できるほどに成熟し、明確となっていることが必要であると説示。
この点、控訴人の主張からは、「膨大な時間と労力をかけて検討を尽くして」という具体的な内容は不明であり、その立証もなく、仮にそのようなものが存在するとしても、控訴人が主張するゲームシステムが、それによって控訴人が利益を得ているということを超えて社会における法的に保護されるべき利益とされるべきような事情は認められず、そのような検討により編み出されたゲームとしての工夫が、著作権法や不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律による保護を超えて、不法行為法上の保護法益として認められるだけの特段の事情があるとは認められないと判断。
控訴人の主張を認めていません。
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3 損害額
(1)著作権法114条2項に基づく損害
114条2項により控訴人が受けた損害の額と推定される額について、
・被控訴人ゲームにおけるレアパックの販売により被控訴人が得た利益:1541万5312円
・本件2選手カードの販売により被控訴人が受けた利益の割合:8%
として、123万3225円(1541万5312円×0.08)と判断。その上で、さらに、114条2項の推定覆滅事由(利用者の被控訴人ゲームと控訴人ゲームとの選択に際して選手カードの表現以外の要素が寄与している割合)としてその9割を認定。
結論として、12万3322円(123万3225円×10%)を114条2項に基づく損害として認定してます(42頁以下)。
(2)弁護士費用相当額
不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は20万円と認定されています。
結論として、合計32万3322円が損害額として認められています。
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■コメント
原審では全部棄却の判断でしたが、控訴審では一部認容の結果となりました。被控訴人ゲームの選手カードのうち、中島選手及びダルビッシュ選手の選手カードについては、控訴人ゲームの選手カードの著作権(翻案権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求が認められています。
控訴人ゲームの選手カードに使用された選手の写真は、球団から提供された複数の写真(ダルビッシュ選手については数百枚、中島選手については3枚(36頁))からなので、カードのデザインについては、表現の選択の余地が狭いとも言えますが、判決文末尾にある別紙には「選手カード」の画像が掲載されていて、両社製品の比較をしてみると、一部カードについては確かに類似している印象を受けます。

控訴人カード(中島選手)

被控訴人カード(中島選手)
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原審記事