最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
社内管理業務ソフト事件
大阪地裁平成27.5.28平成25(ワ)10396著作権侵害差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官 松阿彌隆
裁判官 林啓治郎
*裁判所サイト公表 2015.06.02
*キーワード:使用許諾契約
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■事案
勤怠、出張精算といった社内管理業務システムの無断複製などが争点となった事案
原告:ソフトウェア開発会社
被告:ソフトウェア開発会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法21条、27条、会社法356条、365条
1 本件インストールの指示の主体
2 本件インストールに関する取締役会及びP1(原告代表者)の承認の要否
3 本件インストールの指示につき原告の授権があるか
4 原告の許諾の範囲等
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■事案の概要
『本件は,原告が,被告に対し,原告が著作権を有する業務管理のプログラム等につき,被告が無断でインストールして使用するなどして,原告の著作権を侵害したと主張し,著作権法112条により,プログラム等の使用,複製,翻案,公衆送信又は送信可能化の差止め並びにプログラム等及びその複製物の廃棄を求めるとともに,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権(民法709条)に基づき,損害の合計額1億0941万9692円及びこれに対する最終のバージョンアップがされた日である平成21年8月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』
(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 本件インストールの指示の主体
原告と被告の関係について、被告の設立後は、被告への外注費が原告の外注費全体の約8割を占めるとともに、被告の売上高のほぼ全てが原告からの外注であり、被告の業務によって生じたトラブルに原告の従業員が対応するというように、被告は原告の一部門ともいえるほどの密接な取引上の関係があり、また、被告は、原告の専務取締役であるP2と取締役であるP4が中心となって運営しており、原告の従業員が交替で被告の役員に就任していたほか、システム開発部に所属する社員の出向も行われており、人事面でも原告が被告を掌握する関係にあったということが裁判所において認定されています(21頁以下)。
そして、P5が原告のシステム開発部部長として日常的に原告のシステム開発部マネージャーであるP3に対して指示をする立場にあったことを併せ考慮すると、原告が開発、作成した原告システムに関する業務管理のプログラム等を被告本社内のサーバーにインストールする作業(本件インストール)の方針決定をしたのがP5であったのか否かはともかく、P3に対して本件インストールをするよう指示したのは、P5であったと裁判所は認定しています(21頁以下)。
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2 本件インストールに関する取締役会及びP1(原告代表者)の承認の要否
原告は、本件インストールについて取締役会の承認やP1(原告代表者)による決裁を経ていませんでした。
しかし、原告と被告とは得意分野が異なっており、日頃から全社的に一体として事業運営されていた関係にあったことから、本件インストール当時、原被告が業務管理に関するプログラム等を共有することは、原被告間での発注、受注を含む業務を効率化させ、原被告のいずれにとっても有益であったというべきであり、実質的に見て、本件インストールが、取締役会の承認を必要とする(会社法356条1項、365条参照)利益相反取引に当たると認めることはできないと裁判所は判断。
また、P1は少なくとも被告関係の業務について、専務取締役のP2や取締役のP4以下の差配に包括的に委ねていたものと認めるのが相当であるとして、本件インストールがP1の決裁を経るべき事項であったと認めることはできないと裁判所は判断しています(23頁以下)。
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3 本件インストールの指示につき原告の授権があるか
次に、本件インストールはP5の指示によるものであるとしても、こうした指示が原告の指示といえるかどうかがさらに検討されています。
結論としては、本件インストールについてのP5のP3に対する指示は、原告の総務部長であり社内情報システム管理責任者であったP6の承認の下に、あるいはP6の指示の下にされたものであって、原告において、被告関係の業務については、専務取締役のP2や取締役のP4の差配に包括的に委ねられていたことからすると、同人らの承認又は指示もあったと推認されると裁判所は判断。P5による本件インストールの命令は、原告からの授権によるものであり、本件インストールについて、原告の許諾があったものと判断されています(24頁以下)。
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4 原告の許諾の範囲等
本件インストールは、被告が、原告の一部門のような地位にある状況下において、原告と被告において共通のシステムを使うことにより発注業務等を効率化する目的でされたことからすると、原告の許諾はバージョンアップされた本件プログラム等の使用についての許諾も包含するものと認められると裁判所は判断しています(25頁以下)。
結論として、裁判所は、原告は、被告に対して本件インストール(複製)及びその後のバージョンアップ(翻案)及び使用を許諾したと認められるとして、被告による本件プログラム等の利用が原告の著作権を侵害したものとはいえず、被告による過去の著作権侵害に基づく損害賠償請求は理由がないと判断しています。
また、被告は現在では本件インストール及びその後のバージョンアップに係る本件プログラム等を使用していないことから、本件プログラムを複製、翻案、使用等をするおそれがあるとも認められないとして、原告による本件プログラム等の使用等の差止請求及び廃棄請求についても認められていません。
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■コメント
原告会社代表者と被告会社代表者は兄弟でした。両社は人事交流もあり取引上も密接な関係にあり、被告は原告の一部門のような立ち位置でしたが、原告代表者が原告から被告への種々の取り計らいを業務上横領とみなすなどして被告を敵視する態度をとるようになってしまっています。
社内管理業務ソフト事件
大阪地裁平成27.5.28平成25(ワ)10396著作権侵害差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 高松宏之
裁判官 松阿彌隆
裁判官 林啓治郎
*裁判所サイト公表 2015.06.02
*キーワード:使用許諾契約
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■事案
勤怠、出張精算といった社内管理業務システムの無断複製などが争点となった事案
原告:ソフトウェア開発会社
被告:ソフトウェア開発会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法21条、27条、会社法356条、365条
1 本件インストールの指示の主体
2 本件インストールに関する取締役会及びP1(原告代表者)の承認の要否
3 本件インストールの指示につき原告の授権があるか
4 原告の許諾の範囲等
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■事案の概要
『本件は,原告が,被告に対し,原告が著作権を有する業務管理のプログラム等につき,被告が無断でインストールして使用するなどして,原告の著作権を侵害したと主張し,著作権法112条により,プログラム等の使用,複製,翻案,公衆送信又は送信可能化の差止め並びにプログラム等及びその複製物の廃棄を求めるとともに,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権(民法709条)に基づき,損害の合計額1億0941万9692円及びこれに対する最終のバージョンアップがされた日である平成21年8月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』
(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 本件インストールの指示の主体
原告と被告の関係について、被告の設立後は、被告への外注費が原告の外注費全体の約8割を占めるとともに、被告の売上高のほぼ全てが原告からの外注であり、被告の業務によって生じたトラブルに原告の従業員が対応するというように、被告は原告の一部門ともいえるほどの密接な取引上の関係があり、また、被告は、原告の専務取締役であるP2と取締役であるP4が中心となって運営しており、原告の従業員が交替で被告の役員に就任していたほか、システム開発部に所属する社員の出向も行われており、人事面でも原告が被告を掌握する関係にあったということが裁判所において認定されています(21頁以下)。
そして、P5が原告のシステム開発部部長として日常的に原告のシステム開発部マネージャーであるP3に対して指示をする立場にあったことを併せ考慮すると、原告が開発、作成した原告システムに関する業務管理のプログラム等を被告本社内のサーバーにインストールする作業(本件インストール)の方針決定をしたのがP5であったのか否かはともかく、P3に対して本件インストールをするよう指示したのは、P5であったと裁判所は認定しています(21頁以下)。
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2 本件インストールに関する取締役会及びP1(原告代表者)の承認の要否
原告は、本件インストールについて取締役会の承認やP1(原告代表者)による決裁を経ていませんでした。
しかし、原告と被告とは得意分野が異なっており、日頃から全社的に一体として事業運営されていた関係にあったことから、本件インストール当時、原被告が業務管理に関するプログラム等を共有することは、原被告間での発注、受注を含む業務を効率化させ、原被告のいずれにとっても有益であったというべきであり、実質的に見て、本件インストールが、取締役会の承認を必要とする(会社法356条1項、365条参照)利益相反取引に当たると認めることはできないと裁判所は判断。
また、P1は少なくとも被告関係の業務について、専務取締役のP2や取締役のP4以下の差配に包括的に委ねていたものと認めるのが相当であるとして、本件インストールがP1の決裁を経るべき事項であったと認めることはできないと裁判所は判断しています(23頁以下)。
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3 本件インストールの指示につき原告の授権があるか
次に、本件インストールはP5の指示によるものであるとしても、こうした指示が原告の指示といえるかどうかがさらに検討されています。
結論としては、本件インストールについてのP5のP3に対する指示は、原告の総務部長であり社内情報システム管理責任者であったP6の承認の下に、あるいはP6の指示の下にされたものであって、原告において、被告関係の業務については、専務取締役のP2や取締役のP4の差配に包括的に委ねられていたことからすると、同人らの承認又は指示もあったと推認されると裁判所は判断。P5による本件インストールの命令は、原告からの授権によるものであり、本件インストールについて、原告の許諾があったものと判断されています(24頁以下)。
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4 原告の許諾の範囲等
本件インストールは、被告が、原告の一部門のような地位にある状況下において、原告と被告において共通のシステムを使うことにより発注業務等を効率化する目的でされたことからすると、原告の許諾はバージョンアップされた本件プログラム等の使用についての許諾も包含するものと認められると裁判所は判断しています(25頁以下)。
結論として、裁判所は、原告は、被告に対して本件インストール(複製)及びその後のバージョンアップ(翻案)及び使用を許諾したと認められるとして、被告による本件プログラム等の利用が原告の著作権を侵害したものとはいえず、被告による過去の著作権侵害に基づく損害賠償請求は理由がないと判断しています。
また、被告は現在では本件インストール及びその後のバージョンアップに係る本件プログラム等を使用していないことから、本件プログラムを複製、翻案、使用等をするおそれがあるとも認められないとして、原告による本件プログラム等の使用等の差止請求及び廃棄請求についても認められていません。
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■コメント
原告会社代表者と被告会社代表者は兄弟でした。両社は人事交流もあり取引上も密接な関係にあり、被告は原告の一部門のような立ち位置でしたが、原告代表者が原告から被告への種々の取り計らいを業務上横領とみなすなどして被告を敵視する態度をとるようになってしまっています。