最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「会長はなぜ自殺したか 金融腐敗=呪縛の検証」出版契約事件(控訴審)

知財高裁平成27.5.28平成26(ネ)10103出版差止等請求控訴事件、出版契約無効確認請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2015.06.02
*キーワード:出版契約、表見代理、確認の利益、職務著作、複製権、同一性保持権、氏名表示権、名誉声望権、一身専属性、名誉権、権利濫用、相殺

   --------------------

■事案

社内手続に違反して締結された出版契約の有効性などが争点となった事案の控訴審

控訴人(1審被告) :出版社
被控訴人(1審原告):新聞社(東京本社)

   --------------------

■結論

控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法15条1項、20条、21条、113条6項、59条、民法109条、110条、112条、1条3項、509条

1 確認の利益の有無
2 被控訴人は原書籍1及び2につき著作権を有するか
3 本件出版契約の有効性
4 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権等)侵害の有無
5 名誉権侵害の有無
6 損害の有無及びその額
7 本件著作物に関する控訴人の出版権の有無
8 被控訴人による差止請求及び損害賠償請求が権利濫用に当たるか
9 損害賠償請求権による相殺の肯否

   --------------------

■事案の概要

『本件のうちA事件は,被控訴人が,控訴人に対し,控訴人が行う原判決別紙出版物目録記載の書籍(本件書籍)の発売等頒布は,新潮社から発行された著作者表示を「読売新聞社会部」,書名を「会長はなぜ自殺したか−金融腐敗=呪縛の検証」とする単行本(原書籍1)及びこの単行本が同社から同じ題名で新潮文庫として発行された書籍(原書籍2)について被控訴人が有する著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権等),さらに被控訴人の名誉権を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び名誉権に基づき本件書籍の発売等頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠償金688万円及びこれに対する平成24年11月21日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,B事件は,被控訴人が,被控訴人と控訴人との間において,平成23年5月9日付けの原書籍1及び2に記載された著作物に関する出版契約書(本件出版契約書)において出版権の設定の対象とされた原判決別紙著作物目録記載の著作物(本件著作物)に関する出版権が控訴人に存在しないことの確認を求める事案である。
 原判決は,被控訴人は原書籍1及び2につき著作権及び著作者人格権を有すると認められるところ,本件出版契約書に係る契約(本件出版契約)が被控訴人と控訴人との間で成立したと認めることはできないから,控訴人が,本文が原書籍1及び2と同一であり,これに「本シリーズにあたってのあとがき」という表題の文章(本件あとがき)を付記した本件書籍を製本して,これを発売等頒布した行為は被控訴人の有する著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)を侵害し,原書籍1及び2に,本件あとがきを被控訴人に無断で追加した本件書籍を製本した控訴人の行為は,被控訴人の意に反する原書籍1及び2の改変に当たるから,原書籍1及び2について被控訴人が保有する同一性保持権を侵害し,著作者名を「読売社会部C班」として本件書籍を発売等頒布した控訴人の行為は,著作者である被控訴人が決定した著作者名の表示である「読売新聞社会部」を被控訴人の意に反して改変した上,これを公衆へ提供したものであるから,原書籍1及び2について被控訴人が保有する氏名表示権を侵害するものであるところ,本件書籍の発売等頒布に係る差止請求はこれを認める必要性があり,また,控訴人による被控訴人の著作権(複製権,譲渡権及び翻案権)侵害に係る損害は126万円,控訴人による被控訴人の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害に係る損害は30万円,弁護士費用相当損害金は15万円であると判示して,A事件については,被控訴人の控訴人に対する請求を,本件書籍の発売等頒布の差止め並びに損害賠償金171万円及びこれに対する平成24年11月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し,その余は理由がないとして棄却し,B事件については,被控訴人と控訴人との間において本件著作物に関する出版権が控訴人に存在しないことを確認するとしてこれを認容したため,控訴人が,原判決を不服として控訴したものである。』
(2頁以下)

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 確認の利益の有無
2 被控訴人は原書籍1及び2につき著作権を有するか
3 本件出版契約の有効性
4 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権等)侵害の有無
5 名誉権侵害の有無
6 損害の有無及びその額
7 本件著作物に関する控訴人の出版権の有無

争点1乃至7について、原審の判断が維持されています(15頁以下)。

   --------------------

8 被控訴人による差止請求及び損害賠償請求が権利濫用に当たるか

控訴審において、控訴人は、被控訴人の被用者であるDの不法行為の結果として控訴人が行った本件書籍の出版について、被控訴人が差止請求及び損害賠償請求をすることは、権利(原書籍1及び2の著作権・著作者人格権)の濫用として許されない旨主張しましたが、裁判所は認めていません(22頁以下)。

   --------------------

9 損害賠償請求権による相殺の肯否

控訴人は、仮に、控訴人が、被控訴人に対し著作権・著作者人格権侵害を原因として171万円の損害賠償債務を負担するとすれば、控訴人は、被控訴人の被用者であるDの偽計業務妨害行為によって優に1千万円を超える損害を被り、同損害については、Dの使用者である被控訴人に対し、民法715条に基づく損害賠償請求権を有するから、同損害賠償請求権を自働債権とし、被控訴人の上記損害賠償請求権を受働債権として、対当額において相殺する旨の意思表示をするところ、双方過失による事故で損害が物的損害の場合には相殺の主張を認めても何ら不都合はなく、民法509条の相殺禁止の原則は適用されない旨主張しました。
しかし、この点について、裁判所は、双方の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害による損害賠償債権相互間の処理に関する最高裁判例(最判昭和49年6月28日民集28巻5号666頁参照)を踏襲し、控訴人の主張を認めていません(24頁以下)。

   --------------------

■コメント

原審の結論が控訴審でも維持されています。

   --------------------

■過去のブログ記事

原審記事