最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ディスクパブリッシャーソフト事件(別訴)

知財高裁平成27.3.26平成26(ネ)10089損害賠償等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      田中芳樹
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2015.06.01
*キーワード:ソフト開発契約、機密保持義務、営業秘密、競業禁止義務、複製、翻案

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■事案

競合ソフトの開発販売に関して機密保持義務違反性や競業禁止義務違反性などが争点となった事案

控訴人(1審原告) :ソフト開発販売会社
被控訴人(1審被告):ソフト開発販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法21条、民法415条

1 被控訴人会社の機密保持義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無
2 被控訴人会社の競業禁止義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無
3 被控訴人Yの不法行為責任の有無
4 被控訴人プログラムの複製及び譲渡の差止め並びに複製物の破棄請求権の有無

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■事案の概要

『本件は,控訴人が,(1)被控訴人新高和ソフトウェア株式会社(以下「被控訴人会社」という。)との間で,業務委託基本契約(甲1の1),システム・エンジニアリング・サービス基本契約(甲1の2)及び秘密保持契約(甲2)を締結して,被控訴人会社に対し,控訴人のソフトウェア「iDupli ver2」(以下「控訴人ソフトウェア」といい,そのプログラムを「控訴人プログラム」という。)の製作を委託し,さらに,控訴人ソフトウェアのエプソンチャイナへの売り込み等中国市場における販売業務を委託したが,被控訴人会社は,業務委託契約上の義務等に違反して,受託業務を遂行する過程で控訴人から開示され又は取得した情報を用いて控訴人ソフトウェアに酷似するソフトウェア「群刻」(以下「被控訴人ソフトウェア」といい,そのプログラムを「被控訴人プログラム」という。)を製作し,エプソンチャイナに売り込むなどの競業行為を行ったなどと主張して,被控訴人会社に対し,上記各契約に基づき,被控訴人ソフトウェアに使用されているプログラムの複製又は譲渡の差止め及びその複製物の破棄を求めるとともに,債務不履行,不法行為又は会社法350条に基づき,エプソンチャイナを含め中国市場において控訴人ソフトウェアを販売する機会を喪失したことによる損害の一部として1512万円(平成24年6月30日までの得べかりし売上相当額)の支払を求め,(2)被控訴人Y(以下「被控訴人Y」という。)は,被控訴人会社の代表取締役として,自己の利益を図る目的で被控訴人会社の上記被控訴人ソフトウェアの製作及びエプソンチャイナへの売り込み等の競業行為を行ったとして,被控訴人Yに対し,不法行為に基づき,被控訴人会社と同額の金員の連帯支払を求めた事案である。
 なお,附帯請求は,訴状送達の日の翌日(被控訴人会社につき平成24年12月28日,被控訴人Yにつき同月29日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求である。』

『原判決は,控訴人が主張する「機能チェック票」(甲23)に記載された情報,控訴人プログラムのソースコードとその前提となるアイデアに係る情報,エプソンチャイナからの要望事項に関する情報及び控訴人の事業計画に関する情報は,そもそも機密保持義務の対象とはなり得ないものであるか,あるいは控訴人の主張する情報を被控訴人会社が第三者に提供し,又は被控訴人ソフトウェアの開発等において不正利用したと認めるに足りる証拠はないから,被控訴人会社に機密保持義務違反や善管注意義務違反は認められず,また,被控訴人会社が控訴人に対し,控訴人ソフトウェアと同種の製品を製造又は販売してはならない義務を負っていたとも認められないから,被控訴人会社にかかる義務違反があるとは認められないなどとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 そこで,原判決を不服として,控訴人が控訴したものである。』
(2頁以下)

<経緯>

H19.10 システム・エンジニアリング・サービス基本契約締結
       秘密保持契約締結
H20.08 業務委託基本契約締結
H21    控訴人が「iDupli ver1」開発、販売
H22.08 開発業務委託契約締結
       被控訴人会社がソフト「群刻」を開発、販売

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■判決内容

<争点>

1 被控訴人会社の機密保持義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無

控訴人は、被控訴人会社は機密保持義務に違反して控訴人の機密である控訴人プログラムのソースコード及びアイデア、「機能チェック票」に記載された情報などを、控訴人に無断で使用して控訴人ソフトウェアと同一機能を有し、控訴人ソフトウェアに酷似する被控訴人ソフトウェアを製作して控訴人の顧客又はその代理店に売り込んだとして、かかる行為が機密保持義務に違反する債務不履行又は不法行為に該当する旨主張しました(40頁以下)。

裁判所は、控訴人プログラムと被控訴人プログラムとの対比において、控訴人の指摘する点を個別に見ても、また、これらを全体として見ても控訴人プログラムと被控訴人プログラムのソースコードが同一又は類似のものであるとはいえないこと、また、控訴人が挙げる点はいずれも被控訴人プログラムが控訴人プログラムを複製することにより作製されたものであることを直ちに基礎付けるに足りるものではないとして、被控訴人プログラムが控訴人プログラムを使用(複製又は翻案)して作製されたものであるとは認められないと判断。
そして、控訴人プログラムのアイデアが機密に該当するとする情報の具体的内容は判然とせず、また、控訴人プログラムと被控訴人プログラムとのソースコード、画面の構成、ウェブサイトの表記、基本的機能、クラス構造、ログメッセージ、フォルダ階層構造の対比において両者が共通する部分に係る機能(アイデア)それ自体が控訴人の機密であると認めるに足りないなどと判断。
結論として、控訴人プログラムのソースコード及びアイデア等に関して、被控訴人会社に機密保持義務違反がある旨の控訴人の主張は理由がないと判断されています。

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2 被控訴人会社の競業禁止義務違反による債務不履行責任ないし不法行為責任の有無

控訴人は、被控訴人会社は、競業禁止義務に違反して控訴人ソフトウェアと同一機能を有し、控訴人ソフトウェアに酷似する被控訴人ソフトウェアを密かに製作した上で、控訴人からエプソンチャイナへの控訴人ソフトウェアの販売業務の委託を受けていたにもかかわらず、エプソンチャイナ又はその代理店に対して、被控訴人ソフトウェアを売り込むという競業行為を行ったとして、かかる行為が競業禁止義務に違反する債務不履行又は不法行為に該当する旨主張しました(65頁以下)。
しかし、裁判所は、控訴人と被控訴人会社又は被控訴人Yとの間で、エプソンチャイナ向けの控訴人ソフトウェアの販売業務を被控訴人会社又は被控訴人Yに委託する旨の契約書類は一切作成されていないことなどから、本件販売業務委託契約が成立したことを前提とする控訴人の主張は理由がないと判断。
また、本件開発業務委託契約、本件SES基本契約、本件秘密保持契約、本件業務委託基本契約のいずれの契約にも、被控訴人会社に対し、控訴人ソフトウェアと競合する同種のソフトウェア(ディスクパブリッシャー装置を制御するソフトウェア)の開発や販売を禁止する条項は定められていないから、被控訴人会社が、本件開発業務委託契約に基づき、およそ控訴人ソフトウェアと競合する同種のソフトウェアの開発や販売を避止すべき義務を負っていたとは認められないと判断。
その他、控訴人は、控訴人と被控訴人会社との間の契約又は契約関係に内在する信義則、付随的義務、保護義務、善管注意義務、契約締結上の過失、さらに、契約終了後においては契約の余後効に基づいて、被控訴人会社は、控訴人ソフトウェアと酷似する同一の機能のソフトウェアを製作し、販売してはならないという競業禁止義務を負うところ、被控訴人会社は同義務に違反する競合行為を行った旨主張しましたが、裁判所は認めていません。

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3 被控訴人Yの不法行為責任の有無

控訴人は、被控訴人Yは、被控訴人会社の代表取締役として、控訴人ソフトウェアと同一又は類似した被控訴人ソフトウェアを製作して、エプソンチャイナに売込み、これによって被控訴人会社が控訴人に対して納品した控訴人ソフトウェアの価値を意図的に毀損して履行を無意味にしたものであるとして、控訴人に対して不法行為責任を負う旨主張しました。
しかし、裁判所は、被控訴人会社に機密保持義務違反や競業禁止義務違反の債務不履行行為又は不法行為が認められないことから、被控訴人Yが、被控訴人会社の行為について、控訴人に対して不法行為責任を負うことはないと判断しています(69頁)。

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4 被控訴人プログラムの複製及び譲渡の差止め並びに複製物の破棄請求権の有無

控訴人は、被控訴人会社は、被控訴人プログラムは、控訴人プログラムのソースコードを使用して製作されたものであり、これと同一又は類似のプログラムであるから、控訴人は、本件秘密保持契約及び本件SES契約に基づき、被控訴人会社に対し、被控訴人プログラムの複製及び譲渡の差止め、並びに複製物の破棄を請求する権利を有する旨主張しました。
しかし、裁判所は、被控訴人プログラムが控訴人プログラムと同一又は類似のプログラムであるとは認められないとして、控訴人の主張を認めていません(70頁)。

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■コメント

ディスクパブリッシャーソフト事件の別訴となります。本件訴訟の原審判決文は、裁判所サイトに掲載されていません。
ディスクパブリッシャーソフト事件では、被控訴人ソフトウェア製造販売行為の著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)侵害行為性と営業秘密不正使用の不正競争行為性(不正競争防止法2条1項7号)の有無が争点とされていました。
結論としては、いずれの訴訟でもソフトの類似性が否定されて控訴人の侵害性等の主張は認められていません。

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■過去のブログ記事(別件訴訟)

ディスクパブリッシャーソフト事件
東京地裁平成24.12.18平成24(ワ)5771著作権侵害差止請求権不存在確認等請求事件
原審記事
知財高裁平成26.3.12平成25(ネ)10008著作権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件
控訴審記事

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■参考サイト

被控訴人会社プレスリリース
「群刻」の著作権侵害裁判において弊社は日本テクノラボ(株)に対して完全勝訴
記事