最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
マンション建築設計図事件(控訴審)
知財高裁平成27.5.25平成26(ネ)10130損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官 大寄麻代
裁判官 平田晃史
*裁判所サイト公表 2015.05.29
*キーワード:建築、設計図、著作物性
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■事案
マンション建て替えのための設計図の著作物性が争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :建築設計会社
被控訴人(1審被告):マンション区分所有者ら、建設会社、建築設計会社
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号
1 被控訴人図面は控訴人図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か
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■事案の概要
『本件は,控訴人が,被控訴人Y1は,被控訴人Y2ら及び被控訴人日神と共同して,控訴人が作成した設計図(以下「控訴人図面」という。)に依拠してAの建て替え後の建物(以下「本件建物」という。)の設計図(以下「被控訴人図面」という。)を制作し,もって控訴人が有する控訴人図面の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害したと主張して,(1)被控訴人Y1に対しては,著作権侵害の不法行為の実行行為者として民法709条に基づき,(2)被控訴人飛鳥設計に対しては,被控訴人Y1の著作権侵害の不法行為について会社法350条に基づき,(3)被控訴人Y2ら及び被控訴人日神に対しては,被控訴人Y1の著作権侵害行為の共同不法行為者として民法719条に基づき,連帯して,上記共同不法行為と相当因果関係のある設計料相当額である損害金3285万円及びこれに対する共同不法行為の後の日であるとする平成22年10月6日(被控訴人日神が建築確認済証の交付を受けた日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
『原審は,控訴人が控訴人図面の創作性として主張する点は,いずれも控訴人図面の作図上の工夫ということはできず,控訴人図面を精査しても,他に表現の創作性といえるような作図上の工夫があると認めることはできない,さらに,控訴人が控訴人図面と被控訴人図面との共通点であると主張する点は,いずれもアイデアが共通であるにすぎず,これらの点につき,控訴人図面における作図上の工夫や図面による表現それ自体に創作性に係るものがあるとは認められないから,著作物性があるとはいえない,と判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。原判決を不服として,控訴人が本件控訴をした。』
(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 被控訴人図面は控訴人図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か
被控訴人図面が控訴人図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物かどうかについて、裁判所は、著作権法2条1項1号の著作物性及び10条1項6号の「学術的な性質を有する図面」の意義、また、建築物の設計図の位置付けに言及した上で、作図上の表現方法については、
『一般に建築設計図面は,建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって,建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり,作図上の表現方法の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして,控訴人図面をみても,その表現方法自体は,そのような通常の基本設計図の表記法に従って作成された平面的な図面であるから,表現方法における個性の発揮があるとは認められず,この点に創作性があるとはいえない。』
と判断。
そして、控訴人設計図における具体的な表現内容については、
『控訴人図面に係るマンションは,通常の住居・店舗混合マンションであり,しかも旧マンションを等価交換事業として建て替えることを予定したものであるところ,このようなマンションは,一般的に,敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在し,また,等価交換事業としての性質上,そのような制約の範囲内で,敷地を最大限有効活用するという必要性がある上,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後の建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地は限られているといえる。』
とした上で、その創作性は、その具体的に表現された図面について極めて限定的な範囲で認められるにすぎず、その著作物性を肯定するとしても、そのデッドコピーのような場合に限ってこれを保護し得るものであると説示。
控訴人図面と被控訴人図面とを具体的に比較検討した上で、
『建物の全体形状に所以する各階全体の構造や,Aと基本的に同様の配置とすることに所以する内部の各部屋の概略的な配置は類似するものの,各部屋や通路等の具体的な形状及び組合せは異なる点が多くあり,もともと控訴人図面の各部屋や通路の具体的な形状及び組合せも,通常のマンションにおいてみられるありふれた形状や組合せと大きく相違するものではないことを考慮すれば,控訴人図面及び被控訴人図面が実質的に同一であるということはできない。』
として、結論として、被控訴人図面が控訴人図面の複製権又は翻案権を侵害しているとは認められないと判断しています(7頁以下)。
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■コメント
初台マンション事件の控訴審となります。原審同様、マンション設計図の著作権侵害性が否定されています。
判決文末尾に設計図(8、9階平面図)が掲載されていますが、一見して一般的な建築設計図といった印象です。
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■過去のブログ記事
2015年03月12日 原審記事
マンション建築設計図事件(控訴審)
知財高裁平成27.5.25平成26(ネ)10130損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官 大寄麻代
裁判官 平田晃史
*裁判所サイト公表 2015.05.29
*キーワード:建築、設計図、著作物性
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■事案
マンション建て替えのための設計図の著作物性が争点となった事案の控訴審
控訴人(1審原告) :建築設計会社
被控訴人(1審被告):マンション区分所有者ら、建設会社、建築設計会社
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号
1 被控訴人図面は控訴人図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か
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■事案の概要
『本件は,控訴人が,被控訴人Y1は,被控訴人Y2ら及び被控訴人日神と共同して,控訴人が作成した設計図(以下「控訴人図面」という。)に依拠してAの建て替え後の建物(以下「本件建物」という。)の設計図(以下「被控訴人図面」という。)を制作し,もって控訴人が有する控訴人図面の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害したと主張して,(1)被控訴人Y1に対しては,著作権侵害の不法行為の実行行為者として民法709条に基づき,(2)被控訴人飛鳥設計に対しては,被控訴人Y1の著作権侵害の不法行為について会社法350条に基づき,(3)被控訴人Y2ら及び被控訴人日神に対しては,被控訴人Y1の著作権侵害行為の共同不法行為者として民法719条に基づき,連帯して,上記共同不法行為と相当因果関係のある設計料相当額である損害金3285万円及びこれに対する共同不法行為の後の日であるとする平成22年10月6日(被控訴人日神が建築確認済証の交付を受けた日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』
『原審は,控訴人が控訴人図面の創作性として主張する点は,いずれも控訴人図面の作図上の工夫ということはできず,控訴人図面を精査しても,他に表現の創作性といえるような作図上の工夫があると認めることはできない,さらに,控訴人が控訴人図面と被控訴人図面との共通点であると主張する点は,いずれもアイデアが共通であるにすぎず,これらの点につき,控訴人図面における作図上の工夫や図面による表現それ自体に創作性に係るものがあるとは認められないから,著作物性があるとはいえない,と判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。原判決を不服として,控訴人が本件控訴をした。』
(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 被控訴人図面は控訴人図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か
被控訴人図面が控訴人図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物かどうかについて、裁判所は、著作権法2条1項1号の著作物性及び10条1項6号の「学術的な性質を有する図面」の意義、また、建築物の設計図の位置付けに言及した上で、作図上の表現方法については、
『一般に建築設計図面は,建物の建築を施工する工務店等が設計者の意図したとおり施工できるように建物の具体的な構造を通常の製図法によって表現したものであって,建築に関する基本的な知識を有する施工担当者であれば誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり,作図上の表現方法の選択の幅はほとんどないといわざるを得ない。そして,控訴人図面をみても,その表現方法自体は,そのような通常の基本設計図の表記法に従って作成された平面的な図面であるから,表現方法における個性の発揮があるとは認められず,この点に創作性があるとはいえない。』
と判断。
そして、控訴人設計図における具体的な表現内容については、
『控訴人図面に係るマンションは,通常の住居・店舗混合マンションであり,しかも旧マンションを等価交換事業として建て替えることを予定したものであるところ,このようなマンションは,一般的に,敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在し,また,等価交換事業としての性質上,そのような制約の範囲内で,敷地を最大限有効活用するという必要性がある上,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後の建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地は限られているといえる。』
とした上で、その創作性は、その具体的に表現された図面について極めて限定的な範囲で認められるにすぎず、その著作物性を肯定するとしても、そのデッドコピーのような場合に限ってこれを保護し得るものであると説示。
控訴人図面と被控訴人図面とを具体的に比較検討した上で、
『建物の全体形状に所以する各階全体の構造や,Aと基本的に同様の配置とすることに所以する内部の各部屋の概略的な配置は類似するものの,各部屋や通路等の具体的な形状及び組合せは異なる点が多くあり,もともと控訴人図面の各部屋や通路の具体的な形状及び組合せも,通常のマンションにおいてみられるありふれた形状や組合せと大きく相違するものではないことを考慮すれば,控訴人図面及び被控訴人図面が実質的に同一であるということはできない。』
として、結論として、被控訴人図面が控訴人図面の複製権又は翻案権を侵害しているとは認められないと判断しています(7頁以下)。
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■コメント
初台マンション事件の控訴審となります。原審同様、マンション設計図の著作権侵害性が否定されています。
判決文末尾に設計図(8、9階平面図)が掲載されていますが、一見して一般的な建築設計図といった印象です。
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■過去のブログ記事
2015年03月12日 原審記事