最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「実話大報」風俗記事翻案事件(控訴審)

知財高裁平成27.5.21平成26(ネ)10003損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      大鷹一郎
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 2015.05.29
*キーワード:出版社、翻案権、氏名表示権、同一性保持権、名誉権

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■事案

ブログ掲載記事の雑誌への無断掲載等が争点となった事案の控訴審

控訴人(1審原告):フリーライター
控訴人兼被控訴人(1審被告):出版社、編集プロダクション

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■結論

一部変更

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■争点

条文 著作権法27条、19条、20条、115条

1 被告漫画1は原告記事1の翻案物に当たるか否か
2 被告漫画2は原告記事2の翻案物に当たるか否か
3 1審被告らの故意又は過失の有無
4 同一性保持権及び氏名表示権侵害の有無
5 1審原告の損害の発生及びその額
6 1審原告の名誉又は社会的声望の回復措置請求の可否
7 本件記事1ないし6及び本件投票プログラムは1審被告らの名誉又は信用を毀損するものか否か
8 違法性阻却事由の有無
9 1審被告らの損害の発生及びその額
10 人格権としての名誉権に基づく本件記事等の抹消請求の可否

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■事案の概要

『1 本訴事件は,1審原告が,別紙1審被告著作物目録記載1及び2の各漫画(以下,それぞれを「被告漫画1」,「被告漫画2」という。)は,それぞれ,別紙1審原告著作物目録記載1及び2の各記事(以下,それぞれを「原告記事1」,「原告記事2」という。)の翻案物であるとして,1審被告ジップス・ファクトリーにおいて被告漫画1及び2を掲載した雑誌を編集し,1審被告ジーオーティーにおいて同雑誌を発行したことにより,1審原告が原告記事1及び2について有する著作権,並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害された旨主張して,1審被告らに対し,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,131万円(著作権侵害による損害として16万円,著作者人格権侵害による慰謝料として100万円,弁護士費用として15万円)の連帯支払を求めるとともに,1審被告ジーオーティーに対し,著作権法115条に基づき,名誉又は声望を回復するための適当な措置として,謝罪広告の掲載を求めた事案である。
 反訴事件は,1審被告らが,1審原告がその運営する原判決別紙ブログ目録記載のブログ(以下「本件ブログ」という。)に原判決別紙記事目録記載1ないし6の各記事(以下,付された番号に従い「本件記事1」などという。)を書き込み,また,プロバイダーの投票プログラムを利用して,原判決別紙投票プログラム記載1のタイトル及び同記載2の選択肢から成る投票プログラム(以下「本件投票プログラム」という。)を募集し,同記載3の投票結果を掲載したことにより,1審被告らの名誉及び信用を毀損した旨主張して,1審原告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,それぞれ100万円及びこれに対する不法行為の後の日である反訴状送達の日の翌日である平成24年3月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,人格権としての名誉権に基づき,本件記事1ないし6,並びに本件投票プログラム及びその投票結果の抹消を求めた事案である。』

『2 原判決は,本訴事件につき,被告漫画1の記述の一部に原告記事1を翻案した部分があり,また,被告漫画2の記述の一部に原告記事2を翻案した部分があると認められるから,1審被告らが,1審原告の氏名を著作者として表示することなく被告漫画1及び2を掲載した雑誌を編集,発行した行為は,1審原告の有する原告記事1及び2に係る著作権(翻案権)を侵害する行為であるとともに,その著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害する行為であるとして,1審原告の本訴請求について,1審被告らに対し,6万6000円(著作権侵害による損害賠償金として1万円,著作者人格権侵害による慰謝料として5万円,弁護士費用として6000円)の連帯支払を求める限度で認容し,その余は理由がないとして棄却した。
 また,原判決は,反訴事件につき,本件記事1及び3ないし6,並びに本件投票プログラムは1審被告ジーオーティーの社会的評価を低下させるものであるが,1審原告がこれらの記事及び投票プログラムを本件ブログに掲載した行為には,違法性阻却事由も認められないとして,1審被告ジーオーティーの反訴請求について,1審原告に対し,40万円及びこれに対する遅延損害金の支払,本件記事1及び3ないし6,並びに本件投票プログラム及びその投票結果の抹消を求める限度で認容し,その余は理由がないとして棄却し,1審被告ジップス・ファクトリーの反訴請求を全部棄却した。
 そこで,1審原告,1審被告らが,いずれもその敗訴部分を不服として控訴したものである。』
(3頁以下)

【1審被告著作物目録】
1 「実話大報」平成23年1月号に掲載された「裏風俗(珍)紀行 1泊2日温泉裏ツアーで乱交三昧!! まんが/B」と題する漫画
2 「実話大報」平成23年6月号に掲載された「裏風俗(珍)紀行 裏 マスコミ初潜入!!オークションで興奮体験 マンガ/B」と題する漫画

【1審原告著作物目録】
1 1審原告が運営する「三行広告と怪しげな店の潜入報告」(URL http://3spy.blog122.fc2.com/)と題するブログにおいて、平成22年7月30日に公開された「混浴乱交サークル」と題する記事
2 上記1記載のブログにおいて、平成22年1月10日に公開された「生脱ぎパンティオークション乱交」と題する記事

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■判決内容

<争点>

1 被告漫画1は原告記事1の翻案物に当たるか否か

1審原告は、被告漫画1は全体として原告記事1の翻案物に当たる旨主張しました。
結論として、裁判所は、被告漫画1は、原告記事1に依拠するもので、その記述のうちの一部を省略し、かつ、その表現形式を漫画に変更したものにすぎず、全体として原告記事1の表現上の本質的特徴を直接感得することができると判断。原告記事1の翻案物に当たると判断しています(31頁以下)。

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2 被告漫画2は原告記事2の翻案物に当たるか否か

1審原告は、被告漫画2は全体として原告記事2の翻案物に当たる旨主張しました(40頁以下)。
結論として、裁判所は、被告漫画2は、原告記事2に依拠するもので、その記述のうちの一部を省略し、かつ、その表現形式を漫画に変更したものにすぎず、全体として原告記事2の表現上の本質的特徴を直接感得することができると判断。原告記事2の翻案物に当たると判断しています。

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3 1審被告らの故意又は過失の有無

裁判所は、1審被告ジップス・ファクトリーは、その業務としてBに作画を依頼したのであるから、被告漫画1及び2が第三者の著作権を侵害するものでないか否かを確認すべき注意義務を負うが、Bに対してその作画の経緯について確認するなどしておらず、注意義務を怠ったと判断。1審被告ジップス・ファクトリーには1審原告の原告記事1及び2に係る著作権侵害について過失が認められると判断しています(50頁以下)。
また、1審被告ジーオーティーは、その業務として本件雑誌を発行したのであるから、1審被告ジップス・ファクトリーの編集した本件雑誌が第三者の著作権を侵害するものでないか否かを確認すべき注意義務を負うところ、1審被告ジップス・ファクトリーに対して編集の経緯について確認などをしておらず、注意義務を怠ったものと判断。1審被告ジーオーティーの1審原告の原告記事1及び2に係る著作権侵害について過失を認定しています。

結論として、1審被告らは、被告漫画1及び2を掲載した各本件雑誌(平成23年1月号及び6月号)の発行、販売による1審原告の原告記事1及び2に係る著作権の侵害について、共同不法行為責任を負うことが認定されています。

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4 同一性保持権及び氏名表示権侵害の有無

原告記事1、原告記事2に係る同一性保持権及び氏名表示権侵害の有無について、裁判所は、1審被告らは、1審原告の原告記事1及び2に係る著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害について共同不法行為責任を負うと判断しています(52頁以下)。

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5 1審原告の損害の発生及びその額

著作権侵害についての原告記事1の使用料相当額、原告記事2の使用料相当額は各5万円(合計10万円)、著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害により1審原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、原告記事1及び2につき各20万円(合計40万円)と認定されています。
また、弁護士費用相当損害額5万円として、合計55万円が認定されています(54頁以下)。

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6 1審原告の名誉又は社会的声望の回復措置請求の可否

1審原告は、原告記事1及び2に係る著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害されたとして1審被告ジーオーティーに対して著作権法115条に基づき、本件雑誌(「実話大報」)の誌面上における謝罪広告の掲載を求めました。
しかし、裁判所は、本件全証拠によっても1審被告らの上記著作者人格権侵害により具体的に1審原告の社会的名誉・声望が害されたことについて主張立証はないとして、1審原告の謝罪広告の掲載を求める請求は理由がないと判断しています(56頁)。

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7 本件記事1ないし6及び本件投票プログラムは1審被告らの名誉又は信用を毀損するものか否か

本件記事1ないし6及び本件投票プログラムが、1審被告らの社会的評価を低下させるものであるか否かについて、裁判所は、本件記事1、3ないし6及び本件投票プログラム(投票結果を含む)は、1審被告ジーオーティーの社会的評価(名誉、信用)を毀損するものであると認定しています(56頁以下)。

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8 違法性阻却事由の有無

本件記事1、3ないし6及び本件投票プログラムを本件ブログに掲載した行為について、裁判所は、違法性が阻却される旨の1審原告の主張は理由がないと判断しています(68頁以下)。

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9 1審被告らの損害の発生及びその額

1審被告ジーオーティーの被った損害を回復するのに要する額として40万円が認定されています(74頁以下)。

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10 人格権としての名誉権に基づく本件記事等の抹消請求の可否

本件記事1、3ないし6及び本件投票プログラム(投票結果を含む)は、1審被告ジーオーティーの社会的評価(名誉、信用)を低下させるものであり、1審原告が上記記事等を任意に抹消することは期待できないとして、人格権としての名誉権に基づき本件記事1、3ないし6及び本件投票プログラム(投票結果を含む)の抹消を求める1審被告ジーオーティーの請求が認められています(75頁)。

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■コメント

原審同様、記事の著作権侵害性に関する出版社の調査義務違反が認められています。
原審では、財産的損害1万円、精神的損害5万円、弁護士費用相当額6000円の合計6万6000円が損害として認定されていましたが、控訴審では合計55万円と増額の結果となっています。

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■過去のブログ記事

2013年12月13日 原審記事