最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
弁護士法人HP写真無断使用事件
東京地裁平成27.4.15平成26(ワ)24391損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 本井修平
*裁判所サイト公表 2015.5.8
*キーワード:写真、ウェブサイト、独占的利用権、使用者責任、損害論
--------------------
■事案
弁護士法人が自社HPで無断で他人の写真を使用した事案
原告:フォトエージェント、写真家ら
被告:弁護士法人
--------------------
■結論
請求一部認容
--------------------
■争点
条文 著作権法21条、23条、19条、114条3項、民法715条
1 侵害行為
2 故意・過失
3 損害論
4 不当利得
--------------------
■事案の概要
『本件は,被告が,平成25年7月5日から平成26年1月15日までの期間,別紙写真目録記載1ないし6の各写真(以下,同目録記載の番号に従い「本件写真1」などといい,これらを併せて「本件各写真」という。)を「BOSTON law firm(ボストンローファーム)」の名称で被告が運営するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。URLは,<以下略>である。)に掲載したことに関して,本件写真の著作権者,独占的利用権者又は著作者であると主張する原告らが,被告に対し,それぞれ,次のとおり,不法行為に基づく損害賠償請求をするとともに,当該請求の一部と選択的に不当利得返還請求をした事案である。
被告は,請求棄却を求め,主として,故意・過失,損害及び利得について,争った。』(2頁以下)
<経緯>
H24.11 被告弁護士法人設立
H25.07 被告ウェブサイトに本件各写真を掲載
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■判決内容
<争点>
1 侵害行為
(1)著作権(複製権、公衆送信権)侵害性
被告の被用者であるEが本件各写真を平成25年7月5日から平成26年1月15日までの期間、被告ウェブサイトに掲載したこと、被告ウェブサイトに掲載された本件写真3ないし6につき著作者の表示をしない状態であったことは当事者間に争いがありません。
そして、Eが行った本件各写真の被告ウェブサイトへの継続的な掲載行為(本件掲載行為)によって、
(a)原告アマナイメージズが有する本件写真1及び2の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
(b)原告Aが有する本件写真3及び4の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
(c)原告Bが有する本件写真5の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
(d)原告Cが有する本件写真6の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
以上の点が認められています(16頁以下)。
(2)独占的利用権侵害性
原告アマナイメージズは、原告Aらから本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権の許諾を受けて当該著作権を独占的に利用する権限(第三者に再利用許諾する権限を含む。)を有する者であることが認められることから、原告アマナイメージズは、事実上、第三者との関係において本件写真3ないし6の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあると評価することができると裁判所は判断。
このような事実状態に基づき同原告が享受する利益は、法的保護に値するものというべきであるとして、本件掲載行為により原告アマナイメージズの上記利益(本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権)が侵害されたと判断しています(17頁以下)。
(3)本件営業権侵害性
原告アマナイメージズの写真等のダウンロードサービスに関する営業権に対する侵害性について、裁判所は、本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権とは別個独立の法的保護に値する同原告の利益が侵害されたとは認められないと判断しています(18頁)。
(4)著作者人格権侵害性
氏名表示のない状態による本件掲載行為により、
(a)原告Aが有する本件写真3及び4の氏名表示権が侵害された
(b)原告Bが有する本件写真5の氏名表示権が侵害された
(c)原告Cが有する本件写真6の氏名表示権が侵害された
ことが認められています(18頁以下)。
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2 故意・過失
被告の被用者であるEについて、Eは、本件各写真を複製し送信可能化した直接の主体者であり、弁護士法人である被告の従業員として被告ウェブサイトの作成業務を担当していたことが認められ、Eの経歴及び立場に照らすと、Eは、本件掲載行為によって著作権等の侵害を惹起する可能性があることを十分認識しながらあえて本件各写真を複製し、これを送信可能化し、その際に著作者の氏名を表示しなかったものと推認するのが相当であり、本件各写真の著作権等の侵害について、単なる過失にとどまらず、少なくとも未必の故意があったと認めるのが相当であると裁判所は判断しています。
そして、被告の被用者であるEは被告の業務に関する広告のために本件掲載行為に及んだものと認められることから、被告は、民法715条1項に基づいて使用者責任を負うと判断されています。
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3 損害論
(1)著作権又は独占的利用権の侵害による損害について
本件各写真は、いずれも原告ウェブサイトにおいて使用媒体・使用期間・エンドユーザーの履歴を管理しているRM(ライツマネージド)作品として提供されるコンテンツであり、本件掲載行為の態様及び期間(6か月を超える期間である)に対応する正規の使用料金は、1作品につき4万2000円(税込)であり、その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、これを下回るものではないと認めるのが相当であると裁判所は判断しています(20頁以下)。
また、本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権の侵害については、原告アマナイメージズが事実上本件写真3ないし6の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあり、その限りで著作物を複製する権利を専有する著作権者と同様の立場にあることに照らし、同原告の損害額の算定に当たっては114条3項を類推適用すべきであると判断しています。
(a)原告アマナイメージズ
・本件写真1及び2の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害:
各4万2000円で合計8万4000円
・本件写真3及び4の著作権の独占的利用権の侵害:各2万1000円で合計4万2000円
・本件写真5の著作権の独占的利用権の侵害:2万5200円
・本件写真6の著作権の独占的利用権の侵害:2万5200円
(b)原告A
・本件写真3及び4の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害:
各1万0500円で合計2万1000円
(c)原告B
・本件写真5の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害:1万6800円
(d)原告C
本件写真6については、その著作権(複製権、公衆送信権)の侵害による原告Cの損害について、その証明がない。
結論として、著作権又は独占的利用権の侵害による原告らの損害について、
原告アマナイメージズ:17万6400円
原告A:2万1000円
原告B:1万6800円
原告C:0円
と認定されています。
(2)著作者人格権の侵害による損害について
著作者人格権の侵害による原告Aらの損害について、
原告A:2万円
原告B:1万円
原告C:1万円
が認定されています(23頁以下)
(3)弁護士費用
被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額として、
原告アマナイメージズ:2万円
原告A:5000円
原告B:3000円
原告C:1000円
が認定されています(25頁以下)。
なお、被告は、原告ウェブサイトにはサムネイル画像をコピーして写真を集めることができるという欠陥があること、また、同サイト上の写真自体に識別情報がなく、流出した場合に著作権の帰属が不明となる問題があったとして、過失相殺を主張しましたが、裁判所は認めていません(24頁以下参照)。
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4 不当利得
原告らは、著作権侵害又は独占的利用権及び本件営業権侵害による損害額に係る請求(附帯請求を含む。)との選択的請求として、不当利得返還請求(附帯請求を含む。)をしていましたが、後者について検討したとしても前者に係る認容額を超えるものとは認められないと判断されています(26頁)。
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■コメント
単純な著作権侵害事案で、自社ウェブサイトでの被用者による他人の写真の無断掲載行為について、雇用者である弁護士法人の使用者責任が肯定されています。
弁護士法人HP写真無断使用事件
東京地裁平成27.4.15平成26(ワ)24391損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 本井修平
*裁判所サイト公表 2015.5.8
*キーワード:写真、ウェブサイト、独占的利用権、使用者責任、損害論
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■事案
弁護士法人が自社HPで無断で他人の写真を使用した事案
原告:フォトエージェント、写真家ら
被告:弁護士法人
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、23条、19条、114条3項、民法715条
1 侵害行為
2 故意・過失
3 損害論
4 不当利得
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■事案の概要
『本件は,被告が,平成25年7月5日から平成26年1月15日までの期間,別紙写真目録記載1ないし6の各写真(以下,同目録記載の番号に従い「本件写真1」などといい,これらを併せて「本件各写真」という。)を「BOSTON law firm(ボストンローファーム)」の名称で被告が運営するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。URLは,<以下略>である。)に掲載したことに関して,本件写真の著作権者,独占的利用権者又は著作者であると主張する原告らが,被告に対し,それぞれ,次のとおり,不法行為に基づく損害賠償請求をするとともに,当該請求の一部と選択的に不当利得返還請求をした事案である。
被告は,請求棄却を求め,主として,故意・過失,損害及び利得について,争った。』(2頁以下)
<経緯>
H24.11 被告弁護士法人設立
H25.07 被告ウェブサイトに本件各写真を掲載
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■判決内容
<争点>
1 侵害行為
(1)著作権(複製権、公衆送信権)侵害性
被告の被用者であるEが本件各写真を平成25年7月5日から平成26年1月15日までの期間、被告ウェブサイトに掲載したこと、被告ウェブサイトに掲載された本件写真3ないし6につき著作者の表示をしない状態であったことは当事者間に争いがありません。
そして、Eが行った本件各写真の被告ウェブサイトへの継続的な掲載行為(本件掲載行為)によって、
(a)原告アマナイメージズが有する本件写真1及び2の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
(b)原告Aが有する本件写真3及び4の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
(c)原告Bが有する本件写真5の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
(d)原告Cが有する本件写真6の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害された
以上の点が認められています(16頁以下)。
(2)独占的利用権侵害性
原告アマナイメージズは、原告Aらから本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権の許諾を受けて当該著作権を独占的に利用する権限(第三者に再利用許諾する権限を含む。)を有する者であることが認められることから、原告アマナイメージズは、事実上、第三者との関係において本件写真3ないし6の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあると評価することができると裁判所は判断。
このような事実状態に基づき同原告が享受する利益は、法的保護に値するものというべきであるとして、本件掲載行為により原告アマナイメージズの上記利益(本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権)が侵害されたと判断しています(17頁以下)。
(3)本件営業権侵害性
原告アマナイメージズの写真等のダウンロードサービスに関する営業権に対する侵害性について、裁判所は、本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権とは別個独立の法的保護に値する同原告の利益が侵害されたとは認められないと判断しています(18頁)。
(4)著作者人格権侵害性
氏名表示のない状態による本件掲載行為により、
(a)原告Aが有する本件写真3及び4の氏名表示権が侵害された
(b)原告Bが有する本件写真5の氏名表示権が侵害された
(c)原告Cが有する本件写真6の氏名表示権が侵害された
ことが認められています(18頁以下)。
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2 故意・過失
被告の被用者であるEについて、Eは、本件各写真を複製し送信可能化した直接の主体者であり、弁護士法人である被告の従業員として被告ウェブサイトの作成業務を担当していたことが認められ、Eの経歴及び立場に照らすと、Eは、本件掲載行為によって著作権等の侵害を惹起する可能性があることを十分認識しながらあえて本件各写真を複製し、これを送信可能化し、その際に著作者の氏名を表示しなかったものと推認するのが相当であり、本件各写真の著作権等の侵害について、単なる過失にとどまらず、少なくとも未必の故意があったと認めるのが相当であると裁判所は判断しています。
そして、被告の被用者であるEは被告の業務に関する広告のために本件掲載行為に及んだものと認められることから、被告は、民法715条1項に基づいて使用者責任を負うと判断されています。
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3 損害論
(1)著作権又は独占的利用権の侵害による損害について
本件各写真は、いずれも原告ウェブサイトにおいて使用媒体・使用期間・エンドユーザーの履歴を管理しているRM(ライツマネージド)作品として提供されるコンテンツであり、本件掲載行為の態様及び期間(6か月を超える期間である)に対応する正規の使用料金は、1作品につき4万2000円(税込)であり、その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、これを下回るものではないと認めるのが相当であると裁判所は判断しています(20頁以下)。
また、本件写真3ないし6の著作権の独占的利用権の侵害については、原告アマナイメージズが事実上本件写真3ないし6の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあり、その限りで著作物を複製する権利を専有する著作権者と同様の立場にあることに照らし、同原告の損害額の算定に当たっては114条3項を類推適用すべきであると判断しています。
(a)原告アマナイメージズ
・本件写真1及び2の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害:
各4万2000円で合計8万4000円
・本件写真3及び4の著作権の独占的利用権の侵害:各2万1000円で合計4万2000円
・本件写真5の著作権の独占的利用権の侵害:2万5200円
・本件写真6の著作権の独占的利用権の侵害:2万5200円
(b)原告A
・本件写真3及び4の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害:
各1万0500円で合計2万1000円
(c)原告B
・本件写真5の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害:1万6800円
(d)原告C
本件写真6については、その著作権(複製権、公衆送信権)の侵害による原告Cの損害について、その証明がない。
結論として、著作権又は独占的利用権の侵害による原告らの損害について、
原告アマナイメージズ:17万6400円
原告A:2万1000円
原告B:1万6800円
原告C:0円
と認定されています。
(2)著作者人格権の侵害による損害について
著作者人格権の侵害による原告Aらの損害について、
原告A:2万円
原告B:1万円
原告C:1万円
が認定されています(23頁以下)
(3)弁護士費用
被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額として、
原告アマナイメージズ:2万円
原告A:5000円
原告B:3000円
原告C:1000円
が認定されています(25頁以下)。
なお、被告は、原告ウェブサイトにはサムネイル画像をコピーして写真を集めることができるという欠陥があること、また、同サイト上の写真自体に識別情報がなく、流出した場合に著作権の帰属が不明となる問題があったとして、過失相殺を主張しましたが、裁判所は認めていません(24頁以下参照)。
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4 不当利得
原告らは、著作権侵害又は独占的利用権及び本件営業権侵害による損害額に係る請求(附帯請求を含む。)との選択的請求として、不当利得返還請求(附帯請求を含む。)をしていましたが、後者について検討したとしても前者に係る認容額を超えるものとは認められないと判断されています(26頁)。
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■コメント
単純な著作権侵害事案で、自社ウェブサイトでの被用者による他人の写真の無断掲載行為について、雇用者である弁護士法人の使用者責任が肯定されています。