最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

アニメ映画「三人の騎士」DVD事件

東京地裁平成27.3.24平成25(ワ)31738著作権及び商標権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官      高橋 彩
裁判官      植田裕紀久

*裁判所サイト公表 2015.3.25
*キーワード:著作物性、損害論

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■事案

保護期間が満了したアニメ映画「三人の騎士」に日本語吹き替え、字幕を付したDVDを巡って同業者間で争われた事案

原告:映像ソフト企画製造販売会社ら
被告:記録媒体企画製造販売会社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、114条1項

1 本件台詞原稿等の著作物性
2 本件著作権の帰属
3 本件台詞原稿等の利用許諾の有無
4 原告らの損害等

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■事案の概要

『ウォルト・ディズニーのアニメーション映画「三人の騎士」(以下「本件アニメ映画」という。)は既に著作権の保護期間が満了しているところ,被告は,これに日本語の音声及び字幕を付したDVD商品の販売等をしている。
本件は,被告による別紙被告商品目録記載のDVD商品(以下,同目録記載1の商品を「被告商品1」,同2の商品を「被告商品2」といい,併せて「被告商品」と総称する。)の輸入,製造及び販売行為(ただし,被告商品1については争いがある。)につき,(1)原告ら(以下,それぞれを「原告アートステーション」,「原告コスモ・コーディネート」という。)が,原告らの共有する別紙本件著作物目録記載1の日本語台詞原稿(以下「本件台詞原稿」という。)及び同2の日本語字幕(以下「本件字幕」といい,本件台詞原稿と併せて「本件台詞原稿等」という。)の著作権(複製権及び譲渡権。以下「本件著作権」という。ただし,著作物性及び著作権の帰属については争いがある。)を侵害すると主張して,被告に対し,(1)被告商品の輸入,製造及び販売の差止め(著作権法112条1項,113条1項1号),(2)主位的に著作権侵害の不法行為による損害賠償金として,予備的に不当利得返還請求権に基づき,各原告の持分に相当する675万円及び不法行為又は請求の後の日である平成25年12月28日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,(2)原告コスモ・コーディネートが,同原告が有する別紙本件商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を侵害すると主張して,被告に対し,上記(1)の本件著作権に基づく請求と選択的に,被告商品の輸入等の差止め及び金銭の支払を求めた事案である。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件台詞原稿等の著作物性

本件アニメ映画に収録された日本語台詞や字幕の著作物性について、本件台詞原稿等は本件アニメ映画に収録された英語音声を日本語に翻訳したものであること、また、本件台詞原稿等には本件アニメ映画に英語音声がない箇所に日本語の台詞又は歌詞を付加した部分があること、さらに、本件台詞原稿等は本件アニメ映画に係るディズニーのオリジナルの日本語版の吹き替え音声及び字幕と多くの部分において表現上の相違があることが認められると裁判所は認定。
本件台詞原稿等は言語の著作物として表現上の創作性があり著作物性(著作権法2条1項1号)を有すると判断しています(8頁以下)。

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2 本件著作権の帰属

本件台詞原稿等の著作権の帰属について、裁判所は、原告らにそれぞれ2分の1の共有持分割合で帰属していると判断しています(9頁以下)。

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3 本件台詞原稿等の利用許諾の有無

被告は、原告らが被告による被告商品の製造販売につき異議を述べていないことや原告らの関連会社であるユニアールが被告に被告商品の購入を申し込んだことなどからすれば、原告らは被告に対し本件台詞原稿等を利用して被告商品を製造販売することを許諾していたと認められる旨反論しました(10頁以下)。
しかし、裁判所は、被告による許諾が成立した時期や使用料の定めその他許諾の内容等に関する具体的な主張を欠く点などから被告の主張を認めていません。

結論として、被告による被告商品の製造販売は、本件台詞原稿等に係る原告らの著作権(複製権、譲渡権)を侵害すること、また、被告商品の輸入については、著作権侵害とみなされる行為(著作権法113条1項1号)に当たるとして、原告らによる本件著作権に基づく被告DVD商品の輸入、製造及び販売の差止めが認められています。

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4 原告らの損害等

原告ら商品の1枚当たりの利益額は60円として、合計169万3200円(60円×2万8220枚)が認定されています(114条1項 12頁以下)。

なお、原告コスモ・コーディネートが商標権に基づく損害賠償を選択的に請求していた点については、商標権侵害による損害額が著作権侵害によるものを上回る、あるいは著作権侵害による損害とは別個に商標権侵害による損害が発生したとの主張立証はないとして、本件商標権侵害の成否は判断されていません。

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■コメント

保護期間が満了したアニメ映画「三人の騎士」に日本語吹き替え、字幕を付したDVDを無断で複製販売した事案です。
原告会社といえば、黒澤明やチャップリン作品の保護期間満了の成否を争点とした格安DVD事件で被告の立場となった会社ですが、今回は原告の立場となって同業者を訴えた事案となります。