最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マンション建築設計図事件

東京地裁平成26.11.7平成25(ワ)2728損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋

*裁判所サイト公表 2015.3.6
*キーワード:建築、設計図、著作物性

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■事案

マンション建て替えのための設計図の著作物性が争点となった事案

原告:建築設計会社
被告:マンション区分所有者ら、建設会社、建築設計会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号

1 被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か

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■事案の概要

『本件は,原告が,メゾンAの区分所有者であった被告Aらが,同マンションの建替えに際し,被告日神,被告飛鳥設計及びその代表者である被告Kと共同して,原告が作成した原告図面に依拠して本件建物の設計図である被告図面を制作し,もって原告が有する原告図面の著作権(複製権ないし翻案権)を侵害したと主張して,(1)被告Kに対しては,著作権侵害の不法行為の実行行為者として民法709条に基づき,(2)被告飛鳥設計に対しては,被告Kの著作権侵害の不法行為について会社法350条に基づき,(3)被告Aら及び被告日神に対しては,被告Kの著作権侵害行為の共同不法行為者として民法719条に基づき,連帯して,上記共同不法行為と相当因果関係のある設計料相当額である損害金3285万円及びこれに対する共同不法行為の後の日であるとする平成22年10月6日(被告日神が建築確認済証の交付を受けた日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』(3頁以下)

<経緯>

H18.04 メゾンA建替え計画
H21.06 原告が「メゾンA建替え計画」図面提出
H22    被告区分所有者らが被告建設会社に依頼
H23.03 マンション完成

本件建物:「日神パレステージ初台オペラ通り」

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■判決内容

<争点>

1 被告図面は原告図面に依拠して制作された複製物ないし翻案物か

原告図面は、等価交換事業として行われる既存のメゾンA建替えのため作成されたもので、「1、2階平面図」「3、4階平面図」「5、6階平面図」「7〜9階平面図」「断面図」という5枚の図面から構成されるものでした。これに対して、被告図面は、「1階平面図」ないし「7階平面図」とする各階平面図のほか、「8・9階平面図」「R階平面図」「南西立面図」「北西側立面図」「北東側立面図」「南東側立面図」「A−A断面図」「B−B断面図」という少なくとも15枚の図面から構成されるものでした。
原告は、原告図面における建物形状や建物配置、柱配置などが被告図面に複製ないし翻案されたとして著作権侵害を主張しました(28頁以下)。
この点について、裁判所は、原告図面における具体的な表現の著作物性(著作権法2条1項1号、10条1項6号)を検討。
「原告図面は,本件建物の設計図面であるから,著作権法10条1項に例示される著作物中の「地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)にいう「学術的な性質を有する図面」に該当するものと解されるところ,「学術的な性質を有する図面」としての設計図の創作性は,作図の対象である物品や建築物を設計するための設計思想の創作性をいうものではなく,作図上の表現としての工夫に作成者の個性が表現されている場合に認められると解すべきであって,設計思想そのものは,アイデアなど表現それ自体ではないものとして著作権法の保護の対象とはならないというべきである。」と説示した上で本事案について検討を加えています。
裁判所は、原告が原告図面の創作性として主張する点は、いずれも原告図面の作図の対象である本件建物に具現化された原告の設計思想にすぎないというべきであると判断。また、
「敷地の面積,形状,予定建築階数や戸数,道路,近隣等との位置関係,建ぺい率,容積率,高さ,日影等に関する法令上の各種の制約が存在するほか,住居スペースの広さや配置等は旧マンションにおける住居面積,配置,住民の希望や,建築後建物の日照条件等に依ることもあり,建物形状や配置,柱や施設の配置を含む構造,寸法等に関する作図上の表現において設計者による独自の工夫の入る余地はほとんどなく,本件におけるメゾンA建替え後のマンションである本件建物も,本件土地の特殊な形状や法令上の規制,メゾンAの原状や被告Aらの要望等に基づいて,自ずとその建物形状等や配置,構造のみならず,その寸法関係の大枠も定まるものであるから,原告図面は,そのような制約の下,ごく普通の表記法に従って作成された設計図にすぎないと認められる。」
として、等価交換事業としてのマンション建て替え事例といった点からも原告図面の著作物性を否定。
さらに、「念のため」として検討された本件建物の創作性を前提とした原告図面の著作物性の点も含め、原告の著作権侵害性の主張を認めていません。

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■コメント

マンション建て替えの際の建築設計図が流用されたとして建築設計図の著作物性が争点となった事案です。2014年11月判決で今年3月公開のものとなります。
物件は京王線初台駅、東京オペラシティに隣接する場所にあり、店舗を含め30戸が入る地上9階建て(敷地面積130坪ほど)の分譲賃貸マンションです。
等価交換事業として行われたマンション建て替えで、各住戸と所有者の対応関係や経費削減のための既存杭の場所も勘案するとなると、一般的なマンションと大きく様相が異なるものになるとも思われず、建築設計図は無論、建物自体についても著作権法上の著作物性を認めるのが難しい事案だったかと思われます。

図面の制作にあたって、原告会社は訴外デベロッパー経由で被告区分所有者らに設計図を提供していますが、他社デベロッパー案もあるなかで、被告区分所有者側としては、コンペのつもりだったのかもしれません。
設計契約の際に制作金額を含めどのような取決めをしたのか、突き詰めると原告会社が正式受注に至らず骨折り損になった分をどこに負わせるか、かと思われますが、デベロッパーとのやりとりや経緯の詳細を知りたいところです。
設計図流用発覚の経緯としては、原告の主張としては、平成24年10月にたまたま本件建物の外観が自らが設計した原告図面に酷似していることを知って調査を行ったということですが、提訴に至った点については金銭以上の思いも、あるいはあったのかもしれません。