最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

モデル事務所移籍引き抜き事件

東京地裁平成27.2.6平成25(ワ)10797損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      実本 滋
裁判官      足立拓人

*裁判所サイト公表 2015.2.13
*キーワード:モデル専属契約、解除、移籍、引き抜き、写真著作物

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■事案

モデルの移籍に関して引き抜き行為の違法性などが争点となった事案

原告:モデルエージェント業、レストラン業等運営会社
被告:マネジメント会社、原告元従業員ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、23条、民法709条

1 モデルの移籍について不法行為の成否
2 損害発生の有無及びその額
3 原告の著作権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,(1)原告の従業員であって原告モデル事業部に配属されていた被告Y1らが,原告を退職し新たにモデル事務所を運営する被告会社を設立して,原告モデル事業部に所属するモデルらを違法な方法で引き抜いたと主張して,被告Y1らに対し,民法709条に基づき損害賠償金881万1868円及びこれに対する訴状送達の日の翌日ないし不法行為をした日の後の日である平成25年5月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)被告会社が本件各写真を被告サイト上に掲載した行為は,原告が有する本件各写真に係る著作権を侵害するものであると主張して,被告会社に対し,著作権法112条1項,2項に基づき,本件各写真の被告サイト上での自動公衆送信又は自動公衆送信化の差止めと,本件各写真に係るデータの廃棄を求めた事案である。』(4頁以下)

<経緯>

H20.12 被告Y1、Y2がモデル事務所立ち上げ
H21.03 SW社とSG社の共同出資により原告会社設立
       被告Y1のモデル事務所を原告会社のモデル事業部として運営
H23.07 被告Y3が原告に入社
H25.01 原告会社事業部長である被告Y1が所属モデルと面談
H25.01 被告Y1、Y2、Y3が原告会社を退職
H25.02 被告会社設立(代表取締役Y2)
H25.02 モデル11名が被告会社運営のモデル事務所に移籍
       モデルらが原告に対して業務委託契約(本件契約)の解除を通知
H25.05 原告がモデルらに損害賠償等請求訴訟提起

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■判決内容

<争点>

1 モデルの移籍について不法行為の成否

原告会社から被告モデル事務所へのモデルの移籍について、被告Y1らによる引き抜きが不法行為に該当するかどうかについて、被告Y1らは、原告の内部紛争が背景にあり、原告の出資者間及び役員間の確執が激化して収拾がつかないまでに至っており、原告モデル事業部はもはや正常な経営が立ちゆかない状況に陥っていたからであるなどと反論しました(21頁以下)。
この点について、裁判所は、

・被告Y1らは、モデルらに被告モデル事務所への移籍を強く勧めた
・原告の資金繰りについて原告モデル事業への支障はなかった
・被告Y1らは、モデルらの専属契約書を廃棄しており、証拠の隠滅行為を行っていて計画性がある
・被告Y1らは、引継業務として原告モデル事業部の体制を立て直すのに十分な業務を行っていない

などの理由から、被告Y1らが原告に在職中に原告の役員らに対して秘密裏に原告モデル事業部に所属する13名のモデルのうち11名という大半のモデルに本件契約を解除させ、被告Y1ら自身も他にモデル事業のノウハウをもつ者が原告にいないことを知りつつ原告を退職して被告モデル事務所を開設し、モデルらを新たに開設した被告モデル事務所に移籍させて、その結果として、原告モデル事業部は事業の継続が不可能な事態に陥ったことが認められると判断。
被告Y1らの上記行為は、社会通念上、自由競争の範囲を逸脱した違法なモデルの引き抜き行為であるというべきであるとして、原告に対する不法行為を構成すると認めています。

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2 損害発生の有無及びその額

(1)逸失利益

裁判所は、被告Y1らがした引き抜き行為によって原告が被った逸失利益として、相当因果関係のある損害を算定するに当たり、

・被告モデル事務所に移籍したモデル11名のうち原告モデル事業部と「専属契約書」を交わしていたのは6名にすぎない
・うち1名は在籍1か月半ほどで被告モデル事務所から移籍している
・原告モデル事業部の在籍期間が一様でなくごく短い場合もあり、モデル事業が人材の流動性のある業態である
・収益に直結する主要な要素は、被告Y1がその実績・経験から培ったノウハウや縁故関係といった個人的資質に大きく依存している
・被告Y2及び被告Y3のマネージャー業務による貢献が大きく作用している
・原告は、被告Y1らなしには原告モデル事業部を運営する能力を有していなかった

といった事情を斟酌することが相当であるとした上で、純利益の月平均額の3か月分から4割を控除した残余の部分を損害と認めるのが相当であると判断。
1か月当たりの純利益の平均額の3か月分(237万0507円=79万0169円×3月)から4割を控除した142万2304円(端数切り捨て)を損害額として認定しています(33頁以下)。

(2)弁護士費用

弁護士費用相当損害金として、15万円が認定されています(38頁)。

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3 原告の著作権侵害の成否

原告モデル事業部のウェブサイトに掲載されていたモデルらの写真(本件各写真)を被告会社のサイトに掲載した行為について、原告は本件各写真の著作権を侵害すると主張しました(38頁以下)。
この点について、裁判所は、

・カメラマンが本件各写真の著作権を保有している
・モデルとはプロフィール紹介の用途に限り使用を許諾するとした合意が成立している
・原告モデル事業部において写真撮影に係る費用を負担することはなかった

といった点から、原告が本件各写真の著作権を取得したとは認められないと判断。
原告の著作権侵害の主張は認められていません。

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■コメント

モデルの事務所移籍に関する紛争となります。
モデルがエージェント(マネージャーなど)との人的関係で繋がっていたため、エージェントが別会社へ移動すれば、モデルも移籍を考える方向で動くことになります。
結論としては、違法な引き抜きがあったと判断されていますが、旧エージェントとの間の専属契約上の解除事由を明確に示すことができない状況のなかで、力技で移籍をさせてしまうとすると、被告側のような対応も(細かい部分はともかくとして)現実的な対応の1つとしてあるのかな、とは思うところです。