最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「つくる会」歴史教科書翻案事件
東京地裁平成26.12.19平成25(ワ)9673書籍出版差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官 今井弘晃
裁判官 足立拓人
*裁判所サイト公表 2015.1.8
*キーワード:歴史教科書、翻案、著作者人格権
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■事案
中学校用歴史教科書の記述を流用して翻案したかどうかが争点となった事案
原告:「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)元会長
被告:出版社、執筆者ら
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法27条、19条、20条
1 被告各記述が原告各記述を翻案したものか否か
2 原告が有する著作者人格権の侵害の有無
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■事案の概要
『本件は,原告が,被告らが制作して出版する別紙書籍目録記載1及び2の各書籍が原告の著作権を有する書籍の記述を流用したものであり,原告の翻案権及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告らに対し,被告書籍1の出版等の差止めを求めるとともに,同書籍の発行者である被告育鵬社及び被告扶桑社に対し,同書籍の廃棄を求め,また,共同不法行為に基づき,被告ら各自に対して,翻案権侵害に係る損害賠償金及び著作者人格権侵害に係る慰謝料並びにこれらに対する別紙書籍目録記載2の書籍(以下,同書籍を「被告書籍2」といい,被告書籍1と併せて「被告書籍」という。)の教科書検定の合格日である平成23年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)
<経緯>
H17.03 原告書籍検定
H23.03 被告書籍2検定
H23.05 被告書籍2を市販本として刊行(被告書籍1)
原告書籍 :「改訂版新しい歴史教科書」
被告書籍1:「こんな教科書で学びたい 新しい日本の歴史」
被告書籍2:「中学社会 新しい日本の歴史」
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■判決内容
<争点>
1 被告各記述が原告各記述を翻案したものか否か
原告は、47項目において、表現の視点、事項の選択、表現の順序(論理構成)及び具体的表現内容をそれぞれ挙げて原告各記述に創作性があるとして、それらの創作的部分が被告各記述と共通していることから、被告各記述が原告各記述の翻案に当たると主張しました(11頁以下)。
この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義について言及し、さらに中学校用教科書及びその検定制度について触れています。
その上で、「表現の視点」については、あくまで具体的な記述について検討されること、また、「事項の選択」については、
「歴史教科書については,教科書の検定基準並びに学習指導要領及びその解説において,その記述内容及びその具体的な記述の方法が相当詳細に示されており,そこに記載できる事項は限定的であるというべきであるから,その中で著者の創意工夫が発揮される余地は大きいとはいえない。」
「そこでは,仮に著者が主観的には創意工夫を凝らしたというものであっても,これを具体的な記述として表現するについては,検定基準及び学習指導要領に基づく歴史教科書としての上記制限に従った表現にならざるを得ないのであるから,表現の選択の幅は極めて狭いというべきであり,客観的には,そこに著者の独自性や個性が表われないということもあり得るのであって,その場合には,表現上の創作性があるということはできない。」(14頁)
として、保護の余地が狭いとした上で、一単元において選択された複数の事項の組合せについても個々の事項が一般的な歴史上の事実又は歴史認識にすぎないときは、通常、それらの事項の組合せについて、著者独自の創意工夫が表れているということはできないと説示。
さらに、「表現の順序(論理構成)」についても、歴史教科書の性質上、複数の歴史的事実をどのような順序で配列するかについての選択の幅は限られており、そこに著者の個性が表れていると認められる場合は少ないものといわざるを得ないと判断。
具体的表現内容についても、歴史的事実や歴史認識それ自体であって表現ということができないものであるか、あるいは、事項の選択・配列及びその具体的表現内容のいずれにおいても創作性を認めることができないものであると認められ、他方で、それ以外の点では原告各記述及び被告各記述の文章表現は異なるものとなっており、その具体的な表現内容が共通していないものと認められると判断。
結論として、原告が主張する47項目における被告各記述は、いずれも原告各記述の翻案に当たるものとは認めることができないとされています。
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2 原告が有する著作者人格権の侵害の有無
翻案性が否定されており、被告書籍によって原告書籍に係る原告の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵害されたということもできないと判断されています(22頁)。
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■コメント
原告執筆者と被告出版社との間の「改訂版新しい歴史教科書」(教科書、市販本)に係る著作権使用許諾契約に関する別件訴訟(後掲)で平成24年3月末日までの原告執筆部分の使用が認められていました。その後継となる4年毎の検定、採択のための新装版にあたる被告出版社ら刊行の教科書とその市販本において、原告執筆部分の流用があり、翻案に当たるのではないかが新たに争点となったという事案です。
先の、江戸大目附問答集翻案事件でもそうでしたが、歴史的事実の記述やその解説については、創作性がないか、あってもその幅は狭いものとなります。もちろん、そうしたなかで執筆者は創意工夫をされておいでで、その保護は必要ですが、反面、当該記述を執筆者に独占させることになることの弊害についても、よくよく考えなければならないところで、価値判断的にはデッドコピーのような場面に限定されると考えられます(戦記物著作権侵害事件 東京地裁昭和55.6.23昭和51(ワ)6568 「最新著作権関係判例集」第三巻(1986)28頁以下参照)。
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■関連裁判(別件事件)
東京地裁平成21.8.25平成20(ワ)16289書籍出版等差止請求事件
別件事件
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■過去のブログ記事
2015年1月9日記事
江戸大目附問答集翻案事件
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■参考サイト
つくる会プレスリリース(平成26年12月22日)
対育鵬社著作権訴訟・東京地裁不当判決についての声明
「つくる会」歴史教科書翻案事件
東京地裁平成26.12.19平成25(ワ)9673書籍出版差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官 今井弘晃
裁判官 足立拓人
*裁判所サイト公表 2015.1.8
*キーワード:歴史教科書、翻案、著作者人格権
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■事案
中学校用歴史教科書の記述を流用して翻案したかどうかが争点となった事案
原告:「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)元会長
被告:出版社、執筆者ら
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法27条、19条、20条
1 被告各記述が原告各記述を翻案したものか否か
2 原告が有する著作者人格権の侵害の有無
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■事案の概要
『本件は,原告が,被告らが制作して出版する別紙書籍目録記載1及び2の各書籍が原告の著作権を有する書籍の記述を流用したものであり,原告の翻案権及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告らに対し,被告書籍1の出版等の差止めを求めるとともに,同書籍の発行者である被告育鵬社及び被告扶桑社に対し,同書籍の廃棄を求め,また,共同不法行為に基づき,被告ら各自に対して,翻案権侵害に係る損害賠償金及び著作者人格権侵害に係る慰謝料並びにこれらに対する別紙書籍目録記載2の書籍(以下,同書籍を「被告書籍2」といい,被告書籍1と併せて「被告書籍」という。)の教科書検定の合格日である平成23年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁)
<経緯>
H17.03 原告書籍検定
H23.03 被告書籍2検定
H23.05 被告書籍2を市販本として刊行(被告書籍1)
原告書籍 :「改訂版新しい歴史教科書」
被告書籍1:「こんな教科書で学びたい 新しい日本の歴史」
被告書籍2:「中学社会 新しい日本の歴史」
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■判決内容
<争点>
1 被告各記述が原告各記述を翻案したものか否か
原告は、47項目において、表現の視点、事項の選択、表現の順序(論理構成)及び具体的表現内容をそれぞれ挙げて原告各記述に創作性があるとして、それらの創作的部分が被告各記述と共通していることから、被告各記述が原告各記述の翻案に当たると主張しました(11頁以下)。
この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義について言及し、さらに中学校用教科書及びその検定制度について触れています。
その上で、「表現の視点」については、あくまで具体的な記述について検討されること、また、「事項の選択」については、
「歴史教科書については,教科書の検定基準並びに学習指導要領及びその解説において,その記述内容及びその具体的な記述の方法が相当詳細に示されており,そこに記載できる事項は限定的であるというべきであるから,その中で著者の創意工夫が発揮される余地は大きいとはいえない。」
「そこでは,仮に著者が主観的には創意工夫を凝らしたというものであっても,これを具体的な記述として表現するについては,検定基準及び学習指導要領に基づく歴史教科書としての上記制限に従った表現にならざるを得ないのであるから,表現の選択の幅は極めて狭いというべきであり,客観的には,そこに著者の独自性や個性が表われないということもあり得るのであって,その場合には,表現上の創作性があるということはできない。」(14頁)
として、保護の余地が狭いとした上で、一単元において選択された複数の事項の組合せについても個々の事項が一般的な歴史上の事実又は歴史認識にすぎないときは、通常、それらの事項の組合せについて、著者独自の創意工夫が表れているということはできないと説示。
さらに、「表現の順序(論理構成)」についても、歴史教科書の性質上、複数の歴史的事実をどのような順序で配列するかについての選択の幅は限られており、そこに著者の個性が表れていると認められる場合は少ないものといわざるを得ないと判断。
具体的表現内容についても、歴史的事実や歴史認識それ自体であって表現ということができないものであるか、あるいは、事項の選択・配列及びその具体的表現内容のいずれにおいても創作性を認めることができないものであると認められ、他方で、それ以外の点では原告各記述及び被告各記述の文章表現は異なるものとなっており、その具体的な表現内容が共通していないものと認められると判断。
結論として、原告が主張する47項目における被告各記述は、いずれも原告各記述の翻案に当たるものとは認めることができないとされています。
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2 原告が有する著作者人格権の侵害の有無
翻案性が否定されており、被告書籍によって原告書籍に係る原告の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵害されたということもできないと判断されています(22頁)。
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■コメント
原告執筆者と被告出版社との間の「改訂版新しい歴史教科書」(教科書、市販本)に係る著作権使用許諾契約に関する別件訴訟(後掲)で平成24年3月末日までの原告執筆部分の使用が認められていました。その後継となる4年毎の検定、採択のための新装版にあたる被告出版社ら刊行の教科書とその市販本において、原告執筆部分の流用があり、翻案に当たるのではないかが新たに争点となったという事案です。
先の、江戸大目附問答集翻案事件でもそうでしたが、歴史的事実の記述やその解説については、創作性がないか、あってもその幅は狭いものとなります。もちろん、そうしたなかで執筆者は創意工夫をされておいでで、その保護は必要ですが、反面、当該記述を執筆者に独占させることになることの弊害についても、よくよく考えなければならないところで、価値判断的にはデッドコピーのような場面に限定されると考えられます(戦記物著作権侵害事件 東京地裁昭和55.6.23昭和51(ワ)6568 「最新著作権関係判例集」第三巻(1986)28頁以下参照)。
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■関連裁判(別件事件)
東京地裁平成21.8.25平成20(ワ)16289書籍出版等差止請求事件
別件事件
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■過去のブログ記事
2015年1月9日記事
江戸大目附問答集翻案事件
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■参考サイト
つくる会プレスリリース(平成26年12月22日)
対育鵬社著作権訴訟・東京地裁不当判決についての声明