最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
江戸大目附問答集翻案事件
東京地裁平成26.12.24平成26(ワ)4088損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 石神有吾
*裁判所サイト公表 2015.1.7
*キーワード:翻案、同一性保持権、氏名表示権
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■事案
学術研究会会報誌に掲載された書評が当該書籍の記述を翻案したものであるかどうかが争点となった事案
原告:大学准教授
被告:大学講師
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法27条、19条、20条
1 翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否
3 氏名表示権侵害の成否
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■事案の概要
『本件は,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件問答集」という。)における「解題」と題する部分(以下「本件解題」という。)を執筆した原告が,「法史学研究会会報15号」(以下「本件会報」という。)に本件問答集の書評(以下「本件書評」という。)を寄稿した被告に対し,本件書評は本件解題の翻案物であり,被告は原告の著作権(翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害した旨主張して,翻案権侵害の不法行為又は氏名表示権及び同一性保持権の侵害の不法行為に基づく損害賠償金300万円及びこれに対する平成26年3月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(翻案権侵害の不法行為に基づく請求と氏名表示権及び同一性保持権の侵害の不法行為に基づく請求は,選択的併合の関係にある。なお,以下では,人物その他の固有名詞を中心に,一部の表記を常用漢字で置き換えた箇所がある。)。』(1頁以下)
<経緯>
H22.02 石井良助・服藤弘司ほか編、原告担当「問答集9 大目附問答・町奉行 問合挨拶留・公邊御問合」刊行
H23.06 法史学研究会会報15号刊行
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■判決内容
<争点>
1 翻案権侵害の成否
被告が本件会報に寄稿した書評が、原告が執筆した史料の解説部分(本件解題)の翻案にあたるとして、翻案権侵害性を争点としました(6頁以下)。
この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義について言及し、特に、本件のような歴史的資料の分析を通して歴史的事実を明らかにしようとする場合、「個々の分析結果は,他の方法により表現する余地が小さく,学術的な思想ないし発見された事実それ自体であって,創作的表現とならないことが多いというべきである」(8頁)と、その保護の範囲が狭くなることを説示した上で、27箇所に亘る原被告記述の対照部分について検討を加えています。
結論として、原告各記述部分はいずれも思想又はアイデアにすぎない、あるいは事実それ自体にすぎないなどとして、原告各記述部分の著作物性を否定。被告各記述が表現上の創作性がある部分での翻案であるとはいえないと判断しています。
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2 同一性保持権侵害の成否
被告各記述は、原告各記述の二次的著作物とは認められないとして、同一性保持権侵害は成立しないと裁判所は判断しています(25頁)。
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3 氏名表示権侵害の成否
原告は、本件書評は本件解題の二次的著作物にあたるところ、被告は本件書評に原告の氏名を表示しなかったと主張しました。
この点について、裁判所は、そもそも被告各記述は原告各記述の翻案物とは認められず、本件書籍の表題及び著作者を紹介する部分と被告各記述を併せて検討しても二次的著作物の公衆への提供又は提示(19条1項第2文)には当たらず、氏名表示権侵害は成立しないと判断しています(25頁以下)。
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■コメント
大目附問答、町奉行所問合挨拶留、公邊御問合の3点は、江戸時代の大名や幕府の諸奉行などが施政上のことで疑義が生じた場合に当該事項を管掌する役人にした問い合わせ等の関係諸文書を集めた問答集ということで、いまでいう行政解釈集、疑義照会回答集といったところでしょうか。
会報誌編集委員会のプレスリリースである後掲「小誌15号書評に対する抗議について」を見ると、書評の内容において文献の不適切な引用があったと想像されます。
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■参考サイト
法史学研究会
『法史学研究会会報』編集委員会(第15号)2012年1月18日
小誌15号書評に対する抗議について
『法史学研究会会報』総目次
江戸大目附問答集翻案事件
東京地裁平成26.12.24平成26(ワ)4088損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 石神有吾
*裁判所サイト公表 2015.1.7
*キーワード:翻案、同一性保持権、氏名表示権
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■事案
学術研究会会報誌に掲載された書評が当該書籍の記述を翻案したものであるかどうかが争点となった事案
原告:大学准教授
被告:大学講師
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法27条、19条、20条
1 翻案権侵害の成否
2 同一性保持権侵害の成否
3 氏名表示権侵害の成否
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■事案の概要
『本件は,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件問答集」という。)における「解題」と題する部分(以下「本件解題」という。)を執筆した原告が,「法史学研究会会報15号」(以下「本件会報」という。)に本件問答集の書評(以下「本件書評」という。)を寄稿した被告に対し,本件書評は本件解題の翻案物であり,被告は原告の著作権(翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害した旨主張して,翻案権侵害の不法行為又は氏名表示権及び同一性保持権の侵害の不法行為に基づく損害賠償金300万円及びこれに対する平成26年3月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(翻案権侵害の不法行為に基づく請求と氏名表示権及び同一性保持権の侵害の不法行為に基づく請求は,選択的併合の関係にある。なお,以下では,人物その他の固有名詞を中心に,一部の表記を常用漢字で置き換えた箇所がある。)。』(1頁以下)
<経緯>
H22.02 石井良助・服藤弘司ほか編、原告担当「問答集9 大目附問答・町奉行 問合挨拶留・公邊御問合」刊行
H23.06 法史学研究会会報15号刊行
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■判決内容
<争点>
1 翻案権侵害の成否
被告が本件会報に寄稿した書評が、原告が執筆した史料の解説部分(本件解題)の翻案にあたるとして、翻案権侵害性を争点としました(6頁以下)。
この点について、裁判所は、翻案(著作権法27条)の意義について言及し、特に、本件のような歴史的資料の分析を通して歴史的事実を明らかにしようとする場合、「個々の分析結果は,他の方法により表現する余地が小さく,学術的な思想ないし発見された事実それ自体であって,創作的表現とならないことが多いというべきである」(8頁)と、その保護の範囲が狭くなることを説示した上で、27箇所に亘る原被告記述の対照部分について検討を加えています。
結論として、原告各記述部分はいずれも思想又はアイデアにすぎない、あるいは事実それ自体にすぎないなどとして、原告各記述部分の著作物性を否定。被告各記述が表現上の創作性がある部分での翻案であるとはいえないと判断しています。
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2 同一性保持権侵害の成否
被告各記述は、原告各記述の二次的著作物とは認められないとして、同一性保持権侵害は成立しないと裁判所は判断しています(25頁)。
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3 氏名表示権侵害の成否
原告は、本件書評は本件解題の二次的著作物にあたるところ、被告は本件書評に原告の氏名を表示しなかったと主張しました。
この点について、裁判所は、そもそも被告各記述は原告各記述の翻案物とは認められず、本件書籍の表題及び著作者を紹介する部分と被告各記述を併せて検討しても二次的著作物の公衆への提供又は提示(19条1項第2文)には当たらず、氏名表示権侵害は成立しないと判断しています(25頁以下)。
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■コメント
大目附問答、町奉行所問合挨拶留、公邊御問合の3点は、江戸時代の大名や幕府の諸奉行などが施政上のことで疑義が生じた場合に当該事項を管掌する役人にした問い合わせ等の関係諸文書を集めた問答集ということで、いまでいう行政解釈集、疑義照会回答集といったところでしょうか。
会報誌編集委員会のプレスリリースである後掲「小誌15号書評に対する抗議について」を見ると、書評の内容において文献の不適切な引用があったと想像されます。
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■参考サイト
法史学研究会
『法史学研究会会報』編集委員会(第15号)2012年1月18日
小誌15号書評に対する抗議について
『法史学研究会会報』総目次