最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

CD制作業務委託契約事件

東京地裁平成26.11.28平成25(ワ)14424売掛金請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官      西村康夫
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2014.12.12
*キーワード:CD制作、原盤、プロデューサー、業務委託契約

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■事案

CD制作契約にあたってCDの所有権の帰属などが争点となった事案

原告:音楽レーベル
被告:歌手

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法709条、415条

1 CD売買契約等の成否
2 不法行為の成否
3 演奏権侵害の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,被告に対し,(1)(1)主位的に,原告は,被告に,原告代表者であるB(以下「B」という。)の作詞に係る第1歌詞及び第2歌詞(以下,これらを併せて「本件歌詞」という。)に旋律を付した音楽(以下,それぞれ「本件第1楽曲」及び「本件第2楽曲」といい,これらを併せて「本件楽曲」という。)を録音収録したコンパクトディスク(以下「本件CD」という。)を売り渡したと主張して,本件CDの売買契約(以下「本件売買契約」という。)に基づき,本件CDの代金144万円及びこれに対する平成23年11月21日(本件CDの引渡し後の日)から支払済みまでの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(以下「本件請求(1)(1)」という。),(2)予備的に,本件CDの制作から本件訴訟に至る一連の被告の行為(本件訴訟において,被告が本件請求(1)(1)に関する抗弁として消滅時効の完成を主張し,同時効を援用したことを含む。)が原告に対する不法行為を構成すると主張して,損害賠償金144万円及びこれに対する平成26年3月10日(消滅時効援用の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(以下「本件請求(1)(2)」という。)とともに,(2)原告は,Bから本件歌詞の著作権の譲渡を受けたところ,被告による本件歌詞の歌唱が本件歌詞について原告の有する演奏権を侵害すると主張して,著作権法112条1項に基づき本件歌詞の歌唱の差止めを求める(以下「本件請求(2)」という。)事案である。』(2頁)

<経緯>

H21.07 原告会社代表Bに対して被告が作詞を依頼
H21.11 BがCに対して作曲を依頼
H21.12 被告がスタジオ使用料などを支払い
H22.01 被告がレコーディング
H22.04 被告がマスタリング費用などを支払い
H22.05 被告がCDジャケット撮影代を支払い
H22.05 原告が業者からCD受け取り。適宜原告から被告へ転送
H22.08 被告がCDシングルデザイン代やフライヤーデザイン代を支払い
H22.09 被告がJASRAC管理著作物使用料を支払い

原告レーベル:オーラソニック・レーベル

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■判決内容

<争点>

1 CD売買契約等の成否

原告は、原被告間でCD制作販売協力業務委託契約(原告主張契約)や被告が本件CDを1枚当たり1200円で原告から買い受ける旨の契約(本件売買契約)が成立している旨主張しました(8頁以下)。
しかし、裁判所は、

・原告主張契約について具体的に話し合われたことが一切ない
・原告ないしBは本件CDの引渡しの際に被告に代金を請求していない
・代金の額や支払期限等についての説明もしていない
・被告が本件CDの制作代金のほとんど全てを出捐している
・BはJASRACを通じて本件歌詞の作詞について印税を受領している
・Bの業務の負担自体は軽微

といった点から、原告主張契約は明示的にも黙示的にも成立しておらず、また、本件売買契約についても当事者の合理的意思の解釈としては、原告ないしBは本件歌詞の作詞等本件CDの制作に当たって提供した労務の対価としてはJASRACを通じた支払を受けられるにとどまり、本件CDは被告の所有に属し、原告は業者から送られてきた被告所有の本件CDを被告に転送したにすぎないものと認めるのが相当であると判断。
原被告間で本件売買契約が成立したとは認められないとして、原告の主張を否定しています。

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2 不法行為の成否

原告主張契約及び本件売買契約は成立しておらず、被告による本件CDの騙し取りという取引的不法行為が成立する旨の原告の主張は認められていません(12頁)。

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3 演奏権侵害の成否

原告は、Bから本件歌詞の著作権の譲渡を受けており、被告による本件歌詞の歌唱が本件歌詞について原告の有する演奏権を侵害する旨主張して、本件歌詞の歌唱の差止めを求めました(12頁以下)。
この点について裁判所は、仮に、原告がBから本件歌詞の著作権の譲渡を受けていたとしても、Bが被告に対して本件歌詞を歌唱することについて許諾を与えていたことそれ自体には争いがなく、Bが原告の代表者であることを考慮すると、同許諾は原告との関係でも効力を有するものと認めるのが相当であるなどとして、結論としては原告の主張を認めていません。

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■コメント

原盤権(レコード製作者隣接権)の帰属が争点となる事案は散見されますが、本件ではCD有体物の所有権の帰属が争点となっています。
楽曲の制作(音楽著作権)や原盤制作(著作隣接権)、CDパッケージ(所有権)の取り扱いについて、細かい取決めがされていなかったことから受発注者間で齟齬が生じています。原告代表者Bは著名楽曲の作詞も手掛けているということで、Bがプロデューサー的な立ち位置として、もう少し原盤制作への関与の度合いがあることが認定されていれば、結論も違っていたのかもしれません。