最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

テレビ放送用フォント事件(控訴審)

大阪高裁平成26.9.26平成25(ネ)2494損害賠償等請求控訴事件PDF

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官      本多久美子
裁判官      高松宏之
*裁判所サイト公表 2014.10.23
*キーワード:タイプフェイス、フォント、使用許諾契約、一般不法行為論、不当利得

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■事案

テレビ放送用のタイプフェイス(ディスプレイフォント)の法的保護のあり方が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審原告):フォントベンダー
被控訴人(一審被告):テレビ放送会社、映像制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法709条、703条

1 本件フォントの保護について
2 被控訴人らによるライセンスビジネス上の利益の侵害性
3 被控訴人らによる不法行為の成否
4 不当利得の成否

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■事案の概要

『本件は,フォントベンダーである控訴人が,テレビ放送等で使用することを目的としたディスプレイフォントを製作し,番組等に使用するには個別の番組ごとの使用許諾及び使用料の支払が必要である旨を示してこれを販売していたところ,控訴人が使用を許諾した事実がないのに,(1)被控訴人テレビ朝日において,(ア)前記フォントを画面上のテロップに使用した原判決別紙「番組目録」及び同「追加5番組目録」記載の番組を制作・放送し,(イ)同「配給目録」及び同「追加5番組配給目録」記載のとおり配給し,(ウ)同「番組目録」記載の番組を収録した同「DVD目録」記載のDVD及び同「追加5番組目録」記載の番組を収録した同「追加DVD目録」記載のDVDを販売し,(2)被控訴人IMAGICAにおいて,前記フォントを使用して原判決別紙「番組目録」記載の番組の編集を行ったと主張し,これら行為は,(a)主位的に,故意又は過失によりフォントという控訴人の財産権上の利益又はライセンスビジネス上の利益を侵害した共同不法行為を構成する,(b)予備的に,控訴人の損失において法律上の原因に基づかずにフォントの使用利益を取得したものであり不当利得を構成するとして,被控訴人らに対し,主位的には不法行為に基づき,予備的に不当利得の返還として,以下の使用料相当額の金員及び各行為後の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件フォントの保護について

テレビ放送等で使用することを目的に製作されたディスプレイフォントの法的保護について、裁判所は、
「現行法上,創作されたデザインの利用に関しては,著作権法,意匠法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を設定し,その権利の保護を図っており,一定の場合には不正競争防止法によって保護されることもあるが,その反面として,その使用権の付与等が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権等の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
 上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,ある創作されたデザインが,上記各法律の保護対象とならない場合には,当該デザインを独占的に利用する権利は法的保護の対象とならず,当該デザインの利用行為は,各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である」(31頁以下)

と説示し、ギャロップレーサー事件、北朝鮮映画事件に関する最高裁判決を挙げた上で、本件については、

「控訴人は,本件フォントは知的財産であり,法律上保護される利益(民法709条)であると主張している。ここで控訴人が主張する法的利益の内容・実体は必ずしも明らかでないが,不法行為に関する控訴人の主張からすると,他人が本件フォントを無断で使用すれば,本件フォントの法的利益を侵害するものとして直ちに違法行為となり,無断使用について故意又は過失があれば不法行為を構成するという趣旨であると解される。しかし,この主張は,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しく,その意味で本件フォントを独占的に利用する利益を控訴人が有するというに等しいから,そのような利益は,たとえ本件フォントが多大な努力と費用の下に創作されたものであったとしても,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とはいえず,前記のとおり法的保護の対象とはならないと解される。」(32頁)

として、著作権法や意匠法で保護の対象とならない本件フォントの法的保護を原則として否定しています。

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2 被控訴人らによるライセンスビジネス上の利益の侵害性

控訴人はまた、ライセンスビジネス上の利益も本件での法律上保護される利益(民法709条)に当たると主張しましたが、この点について、裁判所は、

「(控訴人主張の)この趣旨は,控訴人が本件フォントを販売・使用許諾することにより行う営業が被控訴人らによって妨害され,その営業上の利益が侵害されたという趣旨であると解される。そして,その趣旨であれば,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を主張するものであるということができる。」

「もっとも,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為によって自己の営業上の利益が侵害されたことをもって,直ちに不法行為上違法と評価するのは相当ではなく,他人の行為が,自由競争の範囲を逸脱し,営業の自由を濫用したものといえるような特段の事情が認められる場合に限り,違法性を有するとして不法行為の成立が認められると解するのが相当である。」

として、ライセンスビジネス上の利益は法律上保護される利益には直ちに当たらないと説示しています(33頁以下)。

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3 被控訴人らによる不法行為の成否

(1)テレビ放送会社の不法行為の成否

まず、テレビ放送会社の不法行為の成否について、裁判所は、

・フォントを開発して販売又は使用許諾をするという営業活動は広く商社会において受け入れられており、その営業上の利益もフォントが著作物等に該当しないといったことのみをもって要保護性を欠くなどということはできない。
・もっとも、フォントの商用使用に個別に使用料の支払を要するという控訴人のような営業方針が、商慣習になっているとか社会的規範を形成するに至っているとまで認めることはできない。
・控訴人らのフォントについては、トラブルを避けるために自ら契約しないようにするという方針を採ってきている。
・テレビ放送会社は、本件番組のテロップ作成をP1社等のテロップ製作会社に委託し、その成果物の納付を受けて番組を編集したにとどまっており、自ら本件フォントソフトを使用してテロップを作成したとは認められない。
・番組制作会社のAが本件フォントソフトを購入した際も、番組には使用していない。
・社員のEが本件フォントソフトを購入し、番組使用の使用許諾を申し込んだときも、番組制作会社を契約者とし、その制作会社において使用許諾を得た上で番組に使用している。

等といった諸事情から、被控訴人テレビ放送会社は、本件フォントに係る控訴人の営業活動と衝突する事態を回避するという方針を採ってきたということができると認定。
本件番組についても、製作されたテロップ中に本件フォントが使用されていると認識しながらあえてそのようなテロップを使用し続けたとも認められないなどとして、テレビ放送会社がテロップに本件フォントを使用した本件番組を制作、放送、配信し、また、DVDを製作、販売した行為が、自由競争の範囲を逸脱し、営業の自由を濫用したものであると認めることはできないとして、不法行為は成立しないと判断しています(34頁以下)。

(2)映像制作会社の不法行為の成否

次に、被控訴人映像制作会社が本件各番組1のテロップの編集を行った行為に関する不法行為の成否について、裁判所は、

・被控訴人テレビ放送会社がテロップ作成業者に発注して納付を受けたテロップの画像データに基づき、本件編集室で編集機器を操作して映像素材にテロップを挿入したにとどまる。
・本件DVDの製作については全く関与していない。
・持ち込まれたテロップ画像データ中で使用されたフォントが本件フォントであり、控訴人の許諾を得ずに使用されたと認識していたとは認められず、そのことを疑うべき特段の事情があったとも認められない。
・控訴人から本件フォントの無断使用の指摘を受けると、社内調査を実施し、インストールされていた本件フォントソフトを削除した。

といった点などから、被控訴人映像制作会社は、自由競争の範囲を逸脱し、営業の自由を濫用したものということはできないと判断。不法行為の成立を否定しています(41頁以下)。

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4 不当利得の成否

控訴人は、被控訴人らが控訴人に無断で本件フォントを本件番組の制作・放送・配給及び本件DVDの製作・販売等に使用したことが、控訴人に対する不当利得を構成すると主張しました(42頁)。
しかし、裁判所は、

「このように本件フォントを無断使用したことが直ちに不当利得を構成するとした場合には,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しく,その意味で本件フォントを独占的に利用する利益を控訴人が有するというに等しいことは,先に不法行為について述べたところと同様である。そして,そのような利益は法的保護の対象とはならないことからすると,被控訴人らが本件フォントを本件番組に使用したからといって,直ちにその使用行為が法律上の原因を欠き,被控訴人らが利得を得,控訴人が損失を受けたということはできない」

などとして、不当利得の成立を否定しています。

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■コメント

一審同様、フォントベンダーである原告の主張は認められていません。
テレビ番組のテロップ製作ついてテロップ製作会社への外注が常態化しているなかで、テレビ局はフォント成果物の使用者にすぎない訳ですが、テレビ局において厳密なフォント管理ができない以上、よりよい番組製作、フォント文化を育むといった大きな視点から、テレビ局には柔軟な対応が求められるという印象です。

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■過去のブログ記事

テレビ放送用フォント事件(原審)

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■参考サイト

視覚デザイン研究所 TVリースフォント

[企業法務][知財]久々に垣間見た「大阪」の意地〜ディスプレイフォント事件控訴審判決が示した創作者救済の道筋
企業法務戦士の雑感(2014-10-28)