最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
時計修理サービス利用規約事件
東京地裁平成26.7.30平成25(ワ)28434著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 西村康夫
*裁判所サイト公表 2014.9.5
*キーワード:利用規約、著作物性、複製権、翻案権、編集著作物、職務著作
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■事案
利用規約を含めたウェブサイト上の文言やバナー画像の流用の著作権侵害性が争点となった事案
原告:時計修理サービス会社
被告:時計修理サービス会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、12条、15条、21条、27条、112条
1 著作権侵害の成否
2 職務著作の成否
3 損害論、差止請求の可否
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■事案の概要
『本件は,千年堂という屋号で時計修理サービス業を営む原告が,銀座櫻風堂という屋号で時計修理サービス業を営む被告に対し,被告は,被告の管理する銀座櫻風堂のウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)に掲載した文言(修理規約を含む。)及びトップバナー画像を作成し,同ウェブサイトを構成したことにより(以下,文言,トップバナー画像及びサイト構成を「文言等」ということがある。),原告の管理する千年堂のウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)の文言等を複製又は翻案したものであって,原告の著作権を侵害したなどと主張して,(1)不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償金1000万円の支払を求めるとともに,(2)著作権法112条1項に基づき,被告ウェブサイトに掲載された文言等を同サイト上で使用すること(自動公衆送信及び送信可能化の趣旨と解される。)の禁止を求める事案である。』(1頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 著作権侵害の成否
裁判所は、原告ウェブサイト文言、トップバナー画像、規約文言、サイト構成の複製権侵害性又は翻案権侵害性について、複製、翻案、創作性の意義に関して言及した上で検討を加えています(8頁以下)。
(1)原告ウェブサイト文言1ないし17
他に適当な表現手段のない思想、感情若しくはアイデア、事実そのものであるか、あるいは、ありふれた表現にすぎないものというべきであって、いずれも創作的な表現と認めることは困難であると裁判所は判断しています。
(2)原告トップバナー画像
店舗名、電話番号の位置、赤色帯状の図形を設けて修理実績を文字で掲げている点、高級腕時計を二つ並べた写真を掲載している点で共通しているが、店舗名や電話番号の位置、修理実績について目立つように赤色の帯状の図形で囲んで強調して記載することや、高級時計の修理業務という業務内容を宣伝する目的で高級時計を二つ並べることは、いずれもありふれた表現にすぎないものというべきであって、創作的な表現とは認められないと裁判所は判断しています。
(3)原告規約文言
(ア)原告規約文言1ないし59
個別にみる限り、他に適当な表現手段のない思想、感情若しくはアイデア、事実そのものであるか、あるいは、ありふれた表現にすぎないものというべきであって、直ちに創作的な表現と認めることは困難というべきであると裁判所は判断しています。
(イ)原告規約文言全体
「規約としての性質上,取り決める事項は,ある程度一般化,定型化されたものであって,これを表現しようとすれば,一般的な表現,定型的な表現になることが多いと解される。このため,その表現方法はおのずと限られたものとなるというべきであって,通常の規約であれば,ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。」との一般論を前提に、規約にも著作物性が認められる場合があることについて裁判所は言及しています。
その上で、本事案については、
・疑義が生じないよう同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている
という点に原告の個性が表れているとして規約文言全体としての著作物性(2条1項1号)を肯定。
そして、原被告規約文言の相違点としては、
・「当社」が「当店」にすべて置き換えられている
・助詞の使い方
・記載順序の一部入れ替え
・表現をまとめている部分
・「千年堂オリジナル超音波洗浄」「千年堂オリジナルクリーニング」を「銀座櫻風堂オリジナル超音波洗浄」「銀座櫻風堂オリジナルクリーニング」としている部分
といった極めて些細な相違点にすぎず、被告規約文言全体についてみると見出しの項目、各項目に掲げられた表現、記載順序などは、すべて原告規約文言と同一であるか、実質的に同一であると認められると判断。
依拠性も認められるとして、裁判所は複製権侵害性を肯定しています。
(4)原告サイト構成
裁判所は、編集著作物性(12条)の意義について言及した上で、
「原告サイト構成と被告サイト構成は,トップ画像,困っている例を挙げている点,最下部にある無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォーム画面に移動するボタンがある点,業務内容を5つないし6つの特徴で説明している点,取り扱っているブランドを紹介している点,概算費用を紹介している点,原告又は被告に修理を依頼した顧客の感想を掲載している点,よくある質問としてQ&A形式で説明している点,修理依頼の流れを説明している点,無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォームが末尾に掲載されている点で共通している」ものの、
「原告ウェブサイトは,時計修理を考えている一般消費者向けの広告用のウェブサイトであり,原告のサービス(業務)内容について基本的な説明をする必要があり,広告の対象となるサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用い,項目ごとに見出しを付し,サービスの内容はどのようなものか,他社との違いやアピールポイントなどを原告サイト構成のような順序や表現方法で記載することは広く一般的に行われているものであり,最下部にある無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォーム画面に移動するボタンを途中に設けて,後に掲げる部分を読まなくても顧客を誘導する方法についても一般的に行われている手法であって(乙3参照),創作的な表現とはいえない。」
として、サイト構成としては、時計修理を考えている一般消費者向けの広告用のウェブサイトであり、広く一般的に行われているものであるなどとして、原告サイト構成と被告サイト構成とは、表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎず、被告が被告ウェブサイトの構成を被告サイト構成のとおりとしたことをもって、原告サイト構成の複製又は翻案をしたと認めることはできないと判断しています(13頁以下)。
以上のように裁判所は、規約文言全体の著作物性についてのみ、被告による複製権侵害性を肯定しています。
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2 職務著作の成否
原告規約文言は、原告の代表取締役であるAが原告の業務として作成しており、原告に職務著作(15条1項)の成立が認められています(16頁以下)。
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3 損害論、差止請求の可否
損害論として5万円が認定されています。また、被告規約文言を被告ウェブサイトにおいて使用すること(自動公衆送信し又は送信可能化すること)の禁止が認められています(17頁以下)。
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■コメント
サービス利用規約の全体としての著作物性が認められた事案となります。
本事案の分析については、「企業法務戦士の雑感」さんが、いつものことながらきっちり書かれておいでなので、そちらをご覧頂けたらと思います(後掲サイト参照)。
同業者によるウェブサイトの盗用事案としては、データSOS事件判決(知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件)があって、その判断からすると、サイト上のタブメニューの配置や文章の構成、記述順序といった部分の著作物としての保護の幅が狭いという価値判断の方向性は理解できるところですが、データSOS事件では規約は判断対象となっていなかったため、本判決は規約の著作物性、要保護性判断の先例として参考になります。
サービスの規約を新たに作成する場合、当然、先行業者のサービスやその規約を検討することとなりますが、その規約を丸写ししただけでは芸がないので、それを参考にしつつより良い規約を作ることになるわけですが、本事案では、「当社」を「当店」に変更する程度の、ほぼコピペのような実質があったことから、裁判所の価値判断としては著作権侵害性肯定に傾いたのかと思われます。
(なお、本人訴訟ということもあってか、著作者人格権や一般不法行為論の部分は争点とされていません。)
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■過去のブログ記事
データSOS事件(控訴審)
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■参考サイト
企業法務戦士の雑感(2014.9.8)
「規約」の著作権侵害が認められてしまった驚くべき事例。
原告プレスリリース(2014.8.11)
当社のサイト盗用による民事訴訟の判決に関するお知らせ - 千年堂株式会社公式サイト(時計修理の千年堂) 時計修理・オーバーホール
原告利用規約
特定商取引法に関する表示及び修理規約
時計修理サービス利用規約事件
東京地裁平成26.7.30平成25(ワ)28434著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
裁判官 西村康夫
*裁判所サイト公表 2014.9.5
*キーワード:利用規約、著作物性、複製権、翻案権、編集著作物、職務著作
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■事案
利用規約を含めたウェブサイト上の文言やバナー画像の流用の著作権侵害性が争点となった事案
原告:時計修理サービス会社
被告:時計修理サービス会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、12条、15条、21条、27条、112条
1 著作権侵害の成否
2 職務著作の成否
3 損害論、差止請求の可否
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■事案の概要
『本件は,千年堂という屋号で時計修理サービス業を営む原告が,銀座櫻風堂という屋号で時計修理サービス業を営む被告に対し,被告は,被告の管理する銀座櫻風堂のウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)に掲載した文言(修理規約を含む。)及びトップバナー画像を作成し,同ウェブサイトを構成したことにより(以下,文言,トップバナー画像及びサイト構成を「文言等」ということがある。),原告の管理する千年堂のウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)の文言等を複製又は翻案したものであって,原告の著作権を侵害したなどと主張して,(1)不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償金1000万円の支払を求めるとともに,(2)著作権法112条1項に基づき,被告ウェブサイトに掲載された文言等を同サイト上で使用すること(自動公衆送信及び送信可能化の趣旨と解される。)の禁止を求める事案である。』(1頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 著作権侵害の成否
裁判所は、原告ウェブサイト文言、トップバナー画像、規約文言、サイト構成の複製権侵害性又は翻案権侵害性について、複製、翻案、創作性の意義に関して言及した上で検討を加えています(8頁以下)。
(1)原告ウェブサイト文言1ないし17
他に適当な表現手段のない思想、感情若しくはアイデア、事実そのものであるか、あるいは、ありふれた表現にすぎないものというべきであって、いずれも創作的な表現と認めることは困難であると裁判所は判断しています。
(2)原告トップバナー画像
店舗名、電話番号の位置、赤色帯状の図形を設けて修理実績を文字で掲げている点、高級腕時計を二つ並べた写真を掲載している点で共通しているが、店舗名や電話番号の位置、修理実績について目立つように赤色の帯状の図形で囲んで強調して記載することや、高級時計の修理業務という業務内容を宣伝する目的で高級時計を二つ並べることは、いずれもありふれた表現にすぎないものというべきであって、創作的な表現とは認められないと裁判所は判断しています。
(3)原告規約文言
(ア)原告規約文言1ないし59
個別にみる限り、他に適当な表現手段のない思想、感情若しくはアイデア、事実そのものであるか、あるいは、ありふれた表現にすぎないものというべきであって、直ちに創作的な表現と認めることは困難というべきであると裁判所は判断しています。
(イ)原告規約文言全体
「規約としての性質上,取り決める事項は,ある程度一般化,定型化されたものであって,これを表現しようとすれば,一般的な表現,定型的な表現になることが多いと解される。このため,その表現方法はおのずと限られたものとなるというべきであって,通常の規約であれば,ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。」との一般論を前提に、規約にも著作物性が認められる場合があることについて裁判所は言及しています。
その上で、本事案については、
・疑義が生じないよう同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている
という点に原告の個性が表れているとして規約文言全体としての著作物性(2条1項1号)を肯定。
そして、原被告規約文言の相違点としては、
・「当社」が「当店」にすべて置き換えられている
・助詞の使い方
・記載順序の一部入れ替え
・表現をまとめている部分
・「千年堂オリジナル超音波洗浄」「千年堂オリジナルクリーニング」を「銀座櫻風堂オリジナル超音波洗浄」「銀座櫻風堂オリジナルクリーニング」としている部分
といった極めて些細な相違点にすぎず、被告規約文言全体についてみると見出しの項目、各項目に掲げられた表現、記載順序などは、すべて原告規約文言と同一であるか、実質的に同一であると認められると判断。
依拠性も認められるとして、裁判所は複製権侵害性を肯定しています。
(4)原告サイト構成
裁判所は、編集著作物性(12条)の意義について言及した上で、
「原告サイト構成と被告サイト構成は,トップ画像,困っている例を挙げている点,最下部にある無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォーム画面に移動するボタンがある点,業務内容を5つないし6つの特徴で説明している点,取り扱っているブランドを紹介している点,概算費用を紹介している点,原告又は被告に修理を依頼した顧客の感想を掲載している点,よくある質問としてQ&A形式で説明している点,修理依頼の流れを説明している点,無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォームが末尾に掲載されている点で共通している」ものの、
「原告ウェブサイトは,時計修理を考えている一般消費者向けの広告用のウェブサイトであり,原告のサービス(業務)内容について基本的な説明をする必要があり,広告の対象となるサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用い,項目ごとに見出しを付し,サービスの内容はどのようなものか,他社との違いやアピールポイントなどを原告サイト構成のような順序や表現方法で記載することは広く一般的に行われているものであり,最下部にある無料見積もりを希望する場合のメール送信用のフォーム画面に移動するボタンを途中に設けて,後に掲げる部分を読まなくても顧客を誘導する方法についても一般的に行われている手法であって(乙3参照),創作的な表現とはいえない。」
として、サイト構成としては、時計修理を考えている一般消費者向けの広告用のウェブサイトであり、広く一般的に行われているものであるなどとして、原告サイト構成と被告サイト構成とは、表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎず、被告が被告ウェブサイトの構成を被告サイト構成のとおりとしたことをもって、原告サイト構成の複製又は翻案をしたと認めることはできないと判断しています(13頁以下)。
以上のように裁判所は、規約文言全体の著作物性についてのみ、被告による複製権侵害性を肯定しています。
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2 職務著作の成否
原告規約文言は、原告の代表取締役であるAが原告の業務として作成しており、原告に職務著作(15条1項)の成立が認められています(16頁以下)。
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3 損害論、差止請求の可否
損害論として5万円が認定されています。また、被告規約文言を被告ウェブサイトにおいて使用すること(自動公衆送信し又は送信可能化すること)の禁止が認められています(17頁以下)。
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■コメント
サービス利用規約の全体としての著作物性が認められた事案となります。
本事案の分析については、「企業法務戦士の雑感」さんが、いつものことながらきっちり書かれておいでなので、そちらをご覧頂けたらと思います(後掲サイト参照)。
同業者によるウェブサイトの盗用事案としては、データSOS事件判決(知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件)があって、その判断からすると、サイト上のタブメニューの配置や文章の構成、記述順序といった部分の著作物としての保護の幅が狭いという価値判断の方向性は理解できるところですが、データSOS事件では規約は判断対象となっていなかったため、本判決は規約の著作物性、要保護性判断の先例として参考になります。
サービスの規約を新たに作成する場合、当然、先行業者のサービスやその規約を検討することとなりますが、その規約を丸写ししただけでは芸がないので、それを参考にしつつより良い規約を作ることになるわけですが、本事案では、「当社」を「当店」に変更する程度の、ほぼコピペのような実質があったことから、裁判所の価値判断としては著作権侵害性肯定に傾いたのかと思われます。
(なお、本人訴訟ということもあってか、著作者人格権や一般不法行為論の部分は争点とされていません。)
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■過去のブログ記事
データSOS事件(控訴審)
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■参考サイト
企業法務戦士の雑感(2014.9.8)
「規約」の著作権侵害が認められてしまった驚くべき事例。
原告プレスリリース(2014.8.11)
当社のサイト盗用による民事訴訟の判決に関するお知らせ - 千年堂株式会社公式サイト(時計修理の千年堂) 時計修理・オーバーホール
原告利用規約
特定商取引法に関する表示及び修理規約