最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ソフトウェア提供パートナー契約事件(控訴審)

知財高裁26.8.27平成25(ネ)10085損害賠償、同中間確認各請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官      新谷貴昭
裁判官      鈴木わかな

*裁判所サイト公表 2014.9.4
*キーワード:プログラム著作物、複製、翻案、債務不履行、確認の利益

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■事案

統合型業務ソフトウェアの提供契約において第三者の著作権を侵害しているソフトウェアが提供されていたかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審被告):ソフトウェア制作会社
被控訴人(一審原告):ソフトウェア制作会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2、21条、27条、民法415条、民訴法145条

1 本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無
2 本件契約の債務不履行による損害額
3 本件中間確認の訴えの当否

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■事案の概要

『(1)原審請求の要旨
本件は,原審において,(1)被控訴人が,控訴人に対し,両名間のパートナー契約に基づいて控訴人が被控訴人に提供したソフトウェアには,第三者が著作権を有するソフトウェア中のプログラムを複製又は翻案したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があり,控訴人において上記第三者の利用許諾を得る見込みもないことから,被控訴人は控訴人が提供したソフトウェアを転売するという上記パートナー契約の目的を達成できなくなったとして,上記パートナー契約の債務不履行に基づき,損害賠償金206万5000円及びこれに対する催告後の日である平成23年3月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案(以下「本件損害賠償請求」という。)並びに(2)控訴人が,被控訴人に対し,中間確認の訴えとして,別紙(控訴人の原審平成24年11月21日付け「中間確認の訴状」添付の別紙「プログラム目録」1頁の写し。)中「部品屋2007 中核部(ミドルソフト)」欄記載の各製品に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)がソフトウェア「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」等に含まれる各ミドルソフト(営業秘密に関するプログラムを除く。)の各著作権を侵害しないことの確認を求めた事案(以下「本件中間確認の訴え」という。)である。
(2)原審の判断
原審は,(1)の本件損害賠償請求について,控訴人は,被控訴人に対し,上記パートナー契約に基づき,著作権上の瑕疵がないソフトウェアを提供する義務を負っていたにもかかわらず,これに反して,第三者が著作権を有するソフトウェアの一部のプログラムを複製したものを含むソフトウェアを提供しており,複製元の上記プログラムにつき著作権者である上記第三者から利用の許諾を得る見込みもなく,給付の追完は不可能である旨認定し,被控訴人は,控訴人の上記パートナー契約の債務不履行により,同契約の前記(1)(1)の目的を達することができなくなったとして,被控訴人の請求をすべて認容した。
他方,原審は,(2)の本件中間確認の訴えについては,その請求の趣旨を,控訴人が上記パートナー契約に基づいて被控訴人に提供したソフトウェアのミドルソフト(ハードロック及びソフトロックに関する部分を除く。)が上記第三者の著作権を侵害しないとして,控訴人の被控訴人に対する上記パートナー契約の債務不履行に基づく損害賠償債務の不存在の確認を求めるものと解し,これは(1)の本件損害賠償請求と重複するので不適法であること(民訴法142条)を理由に却下した。』(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無

本件契約に基づく控訴人の債務不履行責任の有無について、本件両ソフト及び「ソフトウエア部品開発ツール」に係る著作権上の瑕疵の有無が検討されています(30頁以下)。

(1)「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」に含まれる先行ソフトウェア部品の著作物性の有無について

控訴人は、先行ソフトウェア部品は定型的機能作品であって、著作権法上の保護を与えるべきではないと主張しました。
この点について裁判所は、プログラム著作物(著作権法2条1項10号の2)の意義について言及した上で、先行ソフトウェア部品の指令の表現自体、組合せ、表現順序がそのすべてにおいておよそ定型的、没個性的なものであるとは考え難いなどとして、先行ソフトウェア部品の一部は著作物性を有すると判断しています(30頁以下)。

(2)ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄した事実の有無について

控訴人は、ビーエスエス社が先行ソフトウェア部品の著作権を放棄したと主張しましたが、裁判所はその事実を認めていません(33頁以下)。

(3)先行ソフトウェア部品の著作権の所在について

先行ソフトウェア部品を含む「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」及び「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「部品マイスター」の各著作権はそれぞれ譲渡担保契約や譲渡契約等に基づく移転を経て、現在はいずれも日本電子計算社に属していると裁判所は判断しています(38頁以下)。

(4)複製又は翻案の成否及び著作権侵害の有無について

本件ソフトウェア部品は、先行ソフトウェア部品の少なくとも一部を複製又は翻案したものを含むものであり、控訴人による作成は、日本電子計算社の著作権を侵害する行為に当たると裁判所は判断しています(52頁以下)。

そして、本件両ソフトには日本電子計算社が著作権を有する「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」中の先行ソフトウェア部品中のプログラムを複製したプログラムが含まれているという著作権上の瑕疵があり、本件両ソフトの提供をもって本件契約の「債務の本旨に従った履行」(民法415条)ということはできないと裁判所は判断。
控訴人が著作権者である日本電子計算社から先行ソフトウェア部品の利用について許諾を得る可能性は非常に低いとして、前記瑕疵が治癒される見込みは、ほぼないこと、そして、本件ソフトウェア部品は、「部品屋2007」全体のプログラムの相当部分を占めるものと推認できることから、控訴人において、著作権上の瑕疵がない「部品屋2007」のソフトウェアを改めて提供することも事実上は困難なものと推認されると判断。
結論として、控訴人は、その責めに帰すべき事由によって本件契約に基づいて「部品屋2007」のソフトウェアを被控訴人に提供する債務を履行することができなくなったといえるとして、債務不履行責任(民法415条後段)を負うと判断しています。

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2 本件契約の債務不履行による損害額

被控訴人が本件契約に基づいて控訴人に支払った206万5000円全額が控訴人の債務不履行によって生じた損害と認められると裁判所は判断しています(56頁以下)。

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3 本件中間確認の訴えの当否

裁判所は、確認の訴え及び中間確認の訴え(民訴法145条)の意義について言及した上で、原判決の判断を検討。
原判決は、本件中間確認の訴えは、控訴人の被控訴人に対する債務不履行に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める趣旨であると解釈し、民訴法142条に基づき、不適法である旨判断したが、本件中間確認の訴えに係る請求の趣旨は、本件損害賠償請求と完全に表裏の関係にあるとはいえないとして原判決の判断は誤りである旨説示。
結論としては、先決問題となり得ない、確認の利益を欠くなどとして、中間確認の訴えの要件を欠くとして原判決と同様、不適法と判断しています。
(57頁以下)

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■コメント

原審同様、原告の主張は結論として認められていません。

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■過去のブログ記事

ソフトウェア提供パートナー契約事件


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■関連訴訟(追記2015.7.7)

知財高裁平成27.6.24平成27(ネ)10035証書真否確認請求控訴事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/184/085184_hanrei.pdf
(裁判所サイト公表 2015.6.30)