最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

教育事業合併解消虚偽事実告知事件

大阪地裁平成26.7.17平成23(ワ)9238等損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      松阿彌隆
裁判官      松川充康

*裁判所サイト公表 2014.8.25
*キーワード:従業員引き抜き、営業誹謗行為

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■事案

会社合併解消に伴う電子教材の使用許諾に関する合意等を巡って争われた事案

【甲事件】

原告:教育事業運営会社
被告:教育事業運営会社ら

【乙事件】

原告:甲事件被告、同親会社(乙事件反訴被告)
被告:甲事件原告(乙事件反訴原告)、同代表者ら

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■結論

甲事件:請求棄却
乙事件:本訴一部認容、反訴請求棄却


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■争点

条文 民法709条、不正競争防止法2条1項14号

【甲事件】

1 原告表現物について、複製、翻案、公衆送信可能化による著作権侵害が成立するか及び被告アドバンの原告表現物の利用が、原告の許諾によるものと認められるか
2 被告P2、同P4が、原告従業員を違法に引き抜いたか

【乙事件】

1 被告ピーシーが、原告アドバンについて虚偽の事実を告知したか及び被告ピーシーが、原告ワールドについて虚偽の事実を告知したか
2 原告アドバンが被った損害額及び原告ワールドが被った損害額
3 本件解約合意に基づき、被告株主らは違約金債務を負担するか
4 被告ピーシーの反訴請求

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■事案の概要

【甲事件】

『原告が,(1)被告らに,原告の著作権を侵害する不法行為があり(請求1,請求の趣旨第1項に対応),また(2)被告P2及び同P4に,原告従業員の違法な引抜行為(不法行為)があり,被告アドバンは使用者責任を負うとして(請求2,請求の趣旨第2項に対応),同被告らに対し,原告の蒙った損害の賠償を求める事案』(2頁)

【乙事件】

乙事件本訴請求
『(1)被告ピーシーの,原告アドバンに対する不正競争防止法違反行為に基づく損害賠償請求(本訴請求1)として,3008万3344円の支払
(2)被告ピーシーの,本件株式譲渡契約上の不作為義務の債務不履行又は被告ピーシーによる原告ワールドの事業に対する不正競争防止法違反(又は選択的に一般不法行為)に基づく損害賠償請求(本訴請求2)の一部請求として,500万円の支払,
(3)原告ワールドと,被告P16,同P17,同P19,同P18及び同P20間で締結された被告ピーシー株式の譲渡契約(以下「本件株式譲渡契約」という。)の解約合意(以下「本件解約合意」という)の債務不履行に基づく損害賠償請求(本訴請求3)として,同被告らに対し1億円の支払,
及びそれらの支払済みまでの遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案』

乙事件反訴請求
『甲事件と同じ事実関係に基づき,原告アドバンの従業員に,
(1)被告ピーシーの著作権を侵害する不法行為(反訴請求1)
(2)被告ピーシー従業員の違法な引抜行為(反訴請求2)
があり,原告ワールドも共同不法行為責任を負うとして,甲事件原告でもある被告ピーシーが,甲事件被告らに対する請求(甲事件請求の趣旨1及び2)と同額について,原告ワールドに対し反訴請求するものである。』(33頁以下)

<経緯>

H03 ピーシー社設立(代表者P16)
H20 P16とワールド社との間で完全子会社化基本合意
H21 P16が株式譲渡契約の解約を申入
    基本合意と株式譲渡契約を合意解約(本件解約合意)
    教育教材の継続利用等に関する合意(本件合意)を締結

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■判決内容

<争点>


1.甲事件

1 原告表現物について、複製、翻案、公衆送信可能化による著作権侵害が成立するか及び被告アドバンの原告表現物の利用が、原告の許諾によるものと認められるか

本件株式譲渡契約の解消が、原告代表者P16の一方的な都合によって申し入れられ、ワールド社においてやむなくこれを受け入れたものと裁判所は認定した上で、本件合意解約とは別に、あえて本件合意を行った目的としては、「将来ワールド社が教育事業に参画する際に,原告との競業によって生ずるリスクを解消するとともに,合意書締結前にされた原告とワールド社の協働事業の成果等を一定程度ワールド社にも帰属させることによって,本件解約合意によりワールド社に生じた損失を填補する趣旨が含まれると解するのが合理的である」と判断。
本件合意は、ワールド社に広汎な権利を付与することを目的としてなされたものというべきであるとして、平成21年8月ころに、被告P1が被告P2から受領した本件バックアップ1や被告P1が閲覧できた原告のグループウェアや本件LMS内の情報、教材、教育事業に関するパンフレット、ちらし等について、ワールド社及びその完全子会社である被告アドバンは、いずれも本件合意による利用権を有するというべきであると判断されています(27頁以下)。

結論として、ワールド社の子会社である被告アドバンは、本件合意に基づき被告アドバン表現物を適法に利用することができるというべきであり、被告アドバンが被告アドバン表現物を利用したことが、原告の著作権を侵害するとの原告の主張は、理由がないと判断されています。

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2 被告P2、同P4が、原告従業員を違法に引き抜いたか

個人被告らの退職経緯によると、個人被告らは個人的に様々な潜在的退職動機を有しており、その意思をそれぞれが顕在化させて退職に至ったにすぎないとして、組織的な引き抜きがあったとは言い難いと裁判所は認定。「幹部従業員ないしその退職者の転職の勧奨が,社会的相当性を逸脱し,極めて背信的な方法でされた場合には,雇用契約上の誠実義務違反や不法行為責任を生ずることはあるが,上記にみたとおりの被告P2及び被告P4の行為が,このような背信的な方法であったとは到底認められない」として、裁判所は、被告P2及び同P4に違法な原告従業員の引き抜きがあったとの原告の主張は理由がない、と判断しています(30頁以下)。

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2.乙事件

1 被告ピーシーが、原告アドバンについて虚偽の事実を告知したか及び被告ピーシーが、原告ワールドについて虚偽の事実を告知したか

裁判所は、被告ピーシーの行為について、「原告アドバンの教材利用行為一切が著作権侵害であることを,取引先,監査法人,証券取引所等に吹聴して回ることにより,原告ワールド及び原告アドバンが教育事業に進出して被告ピーシーと競合することを妨害しようとしたものと解さざるを得ず,その態様は,原告アドバン,原告ワールドに対する敵意,害意を伴う執拗かつ悪質なものというほかない」と判断。不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実を告知し又は流布する行為に当たると判断しています(44頁以下)。

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2 原告アドバンが被った損害額及び原告ワールドが被った損害額

虚偽の事実の告知という被告ピーシーの行為により信用が毀損され営業上の不都合が生じたと認められるとして、裁判所は、本件に現れた一切の事情を考慮して、原告アドバンについては200万円、原告ワールドについては110万円(うち10万円は弁護士費用相当の損害金)が相当因果関係を有する損害と判断しています(45頁)。

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3 本件解約合意に基づき、被告株主らは違約金債務を負担するか

原告ワールドと被告株主ら間の本件解約合意において、被告株主らは、被告ピーシーをして合意書を締結させるようにするものとしているものの、この約定は上記解約合意に伴う原状回復のような契約当事者としての義務ではなくて、あくまでも別の法主体である被告ピーシーにそのような合意をさせる作為義務を定めるものにすぎず、本件解約合意の内容に沿う形で原告ワールドと被告ピーシーが本件合意を締結し、本件合意を遵守する義務が被告ピーシーに生じた以上、被告株主らは、本件解約合意に基づく上記作為義務を尽くしたと評価することができると裁判所は判断。結論として、被告株主らが、本件解約合意に基づく違約金債務を負担するということはできないと判断しています(46頁以下)。

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4 被告ピーシーの反訴請求

原告アドバン従業員の著作権侵害及び違法な引抜行為が認められないことは甲事件の判断の通りであり、原告らが共同不法行為責任を負うことを前提とする被告ピーシーの反訴請求は、すべて理由がないと裁判所は判断しています(47頁)。

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■コメント

総合人材サービス会社とパソコンスクール運営会社の間で社員教育事業での新たな展開を見越して両社で完全子会社化計画が進められたものの、計画が解消となり、その後の取り決め合意について細かく契約したにもかかわらず、紛争になってしまっているという点では、いくら契約書面を作成しても、提訴自体はどうにも防ぎようがない、といった印象の事案です。

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■参考サイト

ワールドインテック PCアシスト株式取得の基本合意書解消:|NetIB-NEWS|ネットアイビーニュース(2009年9月16日記事)