最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

高校授業料収納管理ソフト契約事件

大阪地裁平成26.7.15平成26(ワ)995著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官      田原美奈子
裁判官      松阿彌 隆

*裁判所サイト公表 2014.8.18
*キーワード:ソフトウェア使用許諾契約

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■事案

高校で使用される授業料や諸費の収納管理事務効率化ソフトの使用許諾契約の内容が争点となった事案

原告:ソフトウェア開発販売会社
被告:尼崎市

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■結論

請求棄却

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■争点

1 被告主張のプログラム使用許諾契約の成否

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■事案の概要

『本件は,原告が,原告を著作権者とする別紙コンピュータ業務支援システム目録記載の「徴収金事務管理支援システム」という名称のプログラム(以下「本件プログラム」という。)につき,被告との間で,その使用契約を締結して被告の運営する複数の高校のコンピュータにこれをインストールしたが,被告の債務不履行(使用料の不払い)により同契約は解除され終了したと主張し,(1)著作権法112条1項に基づく本件プログラムの使用差止め(コンピュータからの本件プログラムの削除),(2)本件プログラムを導入した平成19年4月から使用契約解除までの間の,主位的にプログラム使用契約に基づく使用料,予備的に不法行為に基づく損害賠償として使用料相当額の損害金の支払,(3)使用契約解除後から本件プログラムの削除までの間の不法行為に基づく損害賠償として使用料相当額の損害金の支払をそれぞれ求めた事案であり,被告は,原告の主張する契約を否認し,それとは異なる使用許諾を含む契約を締結したと主張して争っている』事案(2頁)

<経緯>

H18 原被告間でソフト導入について検討
H20 本件プログラムを正式稼働、保守管理を継続、研修実施
H23 導入先の高校2校が統合されて1校となる
    原告が契約解除の意思表示

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■判決内容

<争点>

1 被告主張のプログラム使用許諾契約の成否

原告は、以下の概要のプログラム使用許諾契約(本件契約)が原被告間で成立していると主張しました(4頁)。

使用期間:5年間
使用料:導入するコンピュータ1台当たり基本価格385万円
維持管理費:2年目から月額4万円(コンピュータ1台当たり)

しかし、裁判所は、
(1)市長などによる決済を受けた上での契約書が作成されていない
(2)各校の備品として収納管理ソフトを25万円で購入することを前提に経費を概算している
(3)原告が被告に交付した説明文書には、300万といった金額の記載がない
(4)原告が行った修正プログラムの作成や研修、データ移行に対する対価は都度の報酬として支払われている
(5)トラブルとなった以前に本件契約通りの代金の支払を求めたことがなかった

といった諸事情から、原被告間で原告が主張するような本件契約が成立していると認めることはできないと判断しています(12頁以下)。

その上で、裁判所は、原被告間では、
・パッケージプログラムとして購入されている
・代金は備品購入費として一括支払いされている
・本件プログラムの複製物については所有権が移転している
・本件プログラムの使用期限は無期限

といった内容の合意があることを認定。
原告の本件契約を前提とした債務不履行に基づく本件プログラムの使用差止め、使用料相当額の損害金の支払い等の主張を認めていません。

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■コメント

自治体と複数年契約する場合の手間を考えると、備品購入と都度の請負契約ということでうまく調整していけたらというところですが、一旦、契約内容について齟齬が生じると、受託業者側としても当初のもくろみ通りの対価回収が難しくなるため、どのような契約形態にしていくか悩みどころかと思います。また、発注者側としても、こうした事態となってしまうと、今後のメンテナンスにおいて不用意に改良を加えることもできないため、結局使えないソフトとなってしまいかねませんので、注意が必要になってきます。