最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

キャバクラピアノ演奏音楽使用料事件

東京地裁平成26.6.26平成24(ワ)32339著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      宇野遥子

*裁判所サイト公表 2014.7.7
*キーワード:使用料、生演奏、カラオケ、演奏権、侵害主体性

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■事案

キャバクラでのピアノ生演奏やカラオケで使用されたジャスラック管理楽曲の使用料を巡る事案

原告:ジャスラック
被告:キャバクラなど4社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法22条、民法719条1項

1 本件各店舗における原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏等による著作権侵害の成否
2 被告トゥエンティーワンコミュニティによる著作権侵害の成否
3 差止めの必要性の有無
4 原告の受けた損害又は損失の額
5 時効消滅の有無

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■事案の概要

『本件は,音楽著作権等管理事業者である原告が,(1)被告有限会社銀座クラブチック(以下「被告銀座クラブチック」という。)及び被告株式会社トゥエンティーワンコミュニティ(以下「被告トゥエンティーワンコミュニティ」という。)に対し,同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏して原告の著作権を侵害していると主張して,著作権法112条に基づく上記楽曲のピアノを使用しての生演奏の差止めを求めるとともに,上記著作権の侵害により損害を受けた,又は同被告らが上記店舗内で上記楽曲をピアノ演奏して著作権使用料相当の利益を得た反面,同額の損失を被ったと主張して,主位的に民法719条1項に基づく損害金511万5040円(使用料相当損害金426万2470円と弁護士費用相当損害金85万2570円の合計額)及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払,予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金426万2470円及びこれに対する訴状送達により支払を催告した日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,(2)被告有限会社チック(以下「被告チック」という。)及び被告トゥエンティーワンコミュニティに対し,同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏し,また,カラオケ装置を使用して歌唱するなどして原告の著作権を侵害していると主張して,著作権法112条に基づく上記楽曲のピアノを使用しての生演奏の差止め,カラオケ装置を使用しての演奏及び上映の差止めとその撤去を求めるとともに,上記著作権の侵害により損害を受けた,又は同被告らが上記店舗内で上記楽曲をピアノ演奏し,また,カラオケ装置を使用して歌唱するなどして著作権使用料相当の利益を得た反面,同額の損失を被ったと主張して,主位的に民法719条1項に基づく損害金715万3380円(使用料相当損害金596万1060円と弁護士費用相当損害金119万2320円の合計額)及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払,予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金596万1060円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払を求め,(3)被告有限会社グラン(以下「被告グラン」という。)及び被告トゥエンティーワンコミュニティに対し,同被告らが経営するキャバクラの店舗内で原告が著作権を管理する楽曲をピアノ演奏して原告の著作権を侵害し,これにより損害を受けた,又は同被告らが著作権使用料相当の利益を得た反面,同額の損失を被ったと主張して,主位的に民法719条1項に基づく損害金693万0110円(使用料相当損害金577万5000円と弁護士費用相当損害金115万5110円の合計額)及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払,予備的に民法703条に基づく使用料相当の利得金577万5000円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求める事案である。』(4頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件各店舗における原告管理楽曲のピアノを使用した生演奏等による著作権侵害の成否

被告トゥエンティーワンコミュニティを親会社とする被告3社が、各店舗においてその営業のために不特定多数の客に直接聞かせる目的で業者から派遣されたピアニストに原告管理楽曲などをピアノで演奏させていたことから、これにより原告の著作権を侵害したことが裁判所に認定されています。
また、被告チックにおいては、カラオケ装置により原告管理楽曲を公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として演奏し、また、公に上映したものであるとして、原告の著作権(演奏権及び上映権)を侵害したと認められています(15頁以下)。

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2 被告トゥエンティーワンコミュニティによる著作権侵害の成否

被告3社の親会社である被告トゥエンティーワンコミュニティの著作権侵害主体性について、裁判所は、同被告が本件各店舗におけるピアノ演奏や本件カラオケ装置等を利用した演奏及び上映に関して、これを管理、支配し、また、これによって利益を得ていたと認めるに足りる証拠はないと判断。同被告がこれらの行為の主体であるとは認められないとしています(17頁以下)。

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3 差止めの必要性の有無

本件店舗(1)を経営する被告銀座クラブチック及び本件店舗(2)を経営する被告チックがピアノ演奏や本件カラオケ装置等による著作権侵害を今後も継続するおそれがあるとして、被告銀座クラブチックに対しピアノ演奏の差止め、被告チックに対しピアノ演奏及びカラオケ演奏等の差止めとカラオケ装置の撤去をそれぞれ認める必要があると裁判所は判断しています(18頁以下)。

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4 原告の受けた損害又は損失の額

原告の著作権信託契約約款等に基づき以下の通りの損害額が認定されています(19頁以下)。

(1)ピアノ演奏について

・本件店舗(1):429万8700円
・本件店舗(2):507万6855円
・本件店舗(3):463万5540円

(2)カラオケについて

30万2400円

(3)弁護士費用相当損害金

被告3社(43万円、54万円、46万円)

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5 時効消滅の有無

原告は、本件各店舗にピアノが設置されたことを知って原告管理楽曲の演奏がされていないかどうか従業員に聴取するなどして調査をしていたものの、曖昧な回答ではぐらかされるなどして実態がつかめず、社交場実態調査を行って初めて著作権の侵害が発生していることを認識したといった点から、本件訴訟提起時に平成21年11月14日以前に係る損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過しているということはできないと裁判所は判断。被告らの時効消滅の主張を認めていません(22頁以下)。

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■コメント

キャバクラを経営する3社の親会社については、著作権侵害主体性が否定される結果となっています。
親会社は飲食事業も手掛けていることから店舗での音楽著作物の利用については権利処理が必要であることは当然のことながら認識していると思いますが、子会社の経営にどの程度関与しているのか、単純な資本関係だけだったのか、興味を引く部分ではあります。