最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
アンダーカバー猫写真看板事件
東京地裁平成26.5.27平成25(ワ)13369損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 高橋 彩
裁判官 植田裕紀久
*裁判所サイト公表 2014.6.05
*キーワード:写真、複製、翻案、幇助、同一性保持権、氏名表示権
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■事案
写真家撮影の猫の画像を無断複製してコラージュにして百貨店の店舗にパネル掲出した事案
原告:写真家
被告:服飾品製造販売会社、百貨店
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、27条、19条、20条、114条3項、115条
1 被告アンダーカバーによる翻案権侵害の有無
2 被告三越伊勢丹の責任の有無
3 原告の損害額
4 名誉回復措置請求の当否
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■事案の概要
『本件は,写真家である原告が,被告三越伊勢丹の店舗内に被告アンダーカバーが設置した猫の写真等を多数並べて貼り付けた看板(以下「本件看板」という。)に原告が撮影した猫の写真又はその複製物を加工したものが使用されていたことについて,被告アンダーカバーについては原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害行為があり,被告三越伊勢丹については被告アンダーカバーの上記侵害行為を幇助し,又は被告アンダーカバーに看板の設置場所を漫然と提供したことに過失があると主張して,被告らに対し,不法行為(民法709条,719条,著作権法114条3項)に基づく損害金1億2150万円及びこれに対する不法行為後の日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払並びに著作権法115条に基づく名誉回復措置を求めた事案である。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 被告アンダーカバーによる翻案権侵害の有無
前提として、被告アンダーカバーは、原告写真のコピー使用分について複製権侵害が成立することと、原告写真集の写真現物使用分及びコピー使用分のいずれについても同一性保持権及び氏名表示権の侵害が成立することを争っていません。また、原告においても写真集の写真現物使用分については複製権侵害を主張していません。
原告は、原告写真の現物又はコピーに猫の目の部分をくり抜く加工を施す行為と、これらを並べて本件各パネルを作成し、さらに本件各パネルを組み合わせて本件看板を作成する行為について、原告の翻案権を侵害する旨主張しました。
この点について、裁判所は、これらの加工はいずれも定型的で単純な行為であり、これによって新たな思想又は感情が創作的に表現されたということはできないと判断。また、本件看板に接する者が原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるといえないとして、本件各パネル又は本件看板の作成行為が原告の翻案権を侵害すると認めることもできないと判断。
いずれの行為についても翻案権侵害性を否定しています(10頁以下)。結論として、原告写真集現物使用分90枚とコピー使用分66枚の翻案権侵害性は認められていません。
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2 被告三越伊勢丹の責任の有無
テナントに店舗提供していた百貨店の責任について、裁判所は、作成行為自体に被告三越伊勢丹が関与したことをうかがわせる証拠はなく、また、本件看板を本件売場に設置し、これを訪れた買物客らに見える状態に置くことは、それ自体として原告写真についての原告の著作権又は著作者人格権の侵害となるものではない(著作権法25条参照)と判断。被告三越伊勢丹が被告アンダーカバーによる著作権等の侵害行為を幇助したと認めることはできないと判断しています(11頁以下)。
また、被告百貨店のテナントに対する管理監督をする条理上の義務違反の点も認められていません。
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3 原告の損害額
被告アンダーカバーは、コピー使用分の66枚につき原告の複製権を侵害し、現物使用分及びコピー使用分により本件看板を作成した行為について原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものであり、これらの行為につき被告アンダーカバーには少なくとも過失があるとした上で、以下の損害額を裁判所は認定しています(12頁以下)。
(1)著作権侵害(114条3項)
原告写真の使用の態様や本件看板の設置期間が約2か月といった諸事情を総合考慮の上、本件における原告写真の使用料は1枚当たり1回につき1万円と認定されています(66枚×1万円=66万円)。
(2)著作者人格権侵害
同一性を侵害された原告写真が多数に及ぶ上、その改変行為は猫の目の部分をくり抜くという嗜虐的とも解し得るものであって、その性質上、原告の意に大きく反すること、また、原告は専ら猫や犬を被写体として撮影する写真家であり精神的損害は甚大なものであるとして、慰謝料として200万円が認定されています。
(3)弁護士費用
弁護士費用相当額の損害は26万円と認定されています。
結論として、損害額合計292万円が認定されています。
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4 名誉回復措置請求の当否
本件看板を見た者が本件看板に原告写真が使用されていることを認識する可能性は極めて低いことや設置期間が2ヶ月間であること、本件看板の表面の相当部分は被告アンダーカバーの商品(被服等)で覆われ、視認することが困難であったことなどから、本件看板の設置により原告の名誉又は声望が毀損されたと認めるには足りないとして、著作者人格権侵害に基づく謝罪広告の掲載請求は認められていません(15頁)。
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■コメント
パネル看板掲出当時のアンダーカバーのカタログ表紙(あるいはチラシでしょうか)をみてみると、猫のモチーフを利用しているので、店内POPも猫のイメージで統一感を出していたのかもしれません。
事案としてはファッションメーカーの営業現場のお粗末な対応を内容とするもので双方とも複製権侵害自体は争ってはおらず、あとは損害論の前提として写真集現物の切り抜き行為やコラージュ制作が著作物の利用行為を超える翻案行為にあたるかどうかが争点として注目される点といえます。
コラージュの要素として、写真集現物の切り抜き素材を使用してパネルを作成しており翻案性が肯定されてもおかしくないですが、本件では数百枚の画像のうちの一部にすぎないとして、翻案性は認められていません。
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■参考サイト
アンダーカバー、阪急うめだ本店にウィメンズショップ出店 | Fashionsnap.com(2012年11月21日)
アンダーカバー猫写真看板事件
東京地裁平成26.5.27平成25(ワ)13369損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川浩二
裁判官 高橋 彩
裁判官 植田裕紀久
*裁判所サイト公表 2014.6.05
*キーワード:写真、複製、翻案、幇助、同一性保持権、氏名表示権
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■事案
写真家撮影の猫の画像を無断複製してコラージュにして百貨店の店舗にパネル掲出した事案
原告:写真家
被告:服飾品製造販売会社、百貨店
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、27条、19条、20条、114条3項、115条
1 被告アンダーカバーによる翻案権侵害の有無
2 被告三越伊勢丹の責任の有無
3 原告の損害額
4 名誉回復措置請求の当否
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■事案の概要
『本件は,写真家である原告が,被告三越伊勢丹の店舗内に被告アンダーカバーが設置した猫の写真等を多数並べて貼り付けた看板(以下「本件看板」という。)に原告が撮影した猫の写真又はその複製物を加工したものが使用されていたことについて,被告アンダーカバーについては原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害行為があり,被告三越伊勢丹については被告アンダーカバーの上記侵害行為を幇助し,又は被告アンダーカバーに看板の設置場所を漫然と提供したことに過失があると主張して,被告らに対し,不法行為(民法709条,719条,著作権法114条3項)に基づく損害金1億2150万円及びこれに対する不法行為後の日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払並びに著作権法115条に基づく名誉回復措置を求めた事案である。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 被告アンダーカバーによる翻案権侵害の有無
前提として、被告アンダーカバーは、原告写真のコピー使用分について複製権侵害が成立することと、原告写真集の写真現物使用分及びコピー使用分のいずれについても同一性保持権及び氏名表示権の侵害が成立することを争っていません。また、原告においても写真集の写真現物使用分については複製権侵害を主張していません。
原告は、原告写真の現物又はコピーに猫の目の部分をくり抜く加工を施す行為と、これらを並べて本件各パネルを作成し、さらに本件各パネルを組み合わせて本件看板を作成する行為について、原告の翻案権を侵害する旨主張しました。
この点について、裁判所は、これらの加工はいずれも定型的で単純な行為であり、これによって新たな思想又は感情が創作的に表現されたということはできないと判断。また、本件看板に接する者が原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるといえないとして、本件各パネル又は本件看板の作成行為が原告の翻案権を侵害すると認めることもできないと判断。
いずれの行為についても翻案権侵害性を否定しています(10頁以下)。結論として、原告写真集現物使用分90枚とコピー使用分66枚の翻案権侵害性は認められていません。
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2 被告三越伊勢丹の責任の有無
テナントに店舗提供していた百貨店の責任について、裁判所は、作成行為自体に被告三越伊勢丹が関与したことをうかがわせる証拠はなく、また、本件看板を本件売場に設置し、これを訪れた買物客らに見える状態に置くことは、それ自体として原告写真についての原告の著作権又は著作者人格権の侵害となるものではない(著作権法25条参照)と判断。被告三越伊勢丹が被告アンダーカバーによる著作権等の侵害行為を幇助したと認めることはできないと判断しています(11頁以下)。
また、被告百貨店のテナントに対する管理監督をする条理上の義務違反の点も認められていません。
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3 原告の損害額
被告アンダーカバーは、コピー使用分の66枚につき原告の複製権を侵害し、現物使用分及びコピー使用分により本件看板を作成した行為について原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものであり、これらの行為につき被告アンダーカバーには少なくとも過失があるとした上で、以下の損害額を裁判所は認定しています(12頁以下)。
(1)著作権侵害(114条3項)
原告写真の使用の態様や本件看板の設置期間が約2か月といった諸事情を総合考慮の上、本件における原告写真の使用料は1枚当たり1回につき1万円と認定されています(66枚×1万円=66万円)。
(2)著作者人格権侵害
同一性を侵害された原告写真が多数に及ぶ上、その改変行為は猫の目の部分をくり抜くという嗜虐的とも解し得るものであって、その性質上、原告の意に大きく反すること、また、原告は専ら猫や犬を被写体として撮影する写真家であり精神的損害は甚大なものであるとして、慰謝料として200万円が認定されています。
(3)弁護士費用
弁護士費用相当額の損害は26万円と認定されています。
結論として、損害額合計292万円が認定されています。
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4 名誉回復措置請求の当否
本件看板を見た者が本件看板に原告写真が使用されていることを認識する可能性は極めて低いことや設置期間が2ヶ月間であること、本件看板の表面の相当部分は被告アンダーカバーの商品(被服等)で覆われ、視認することが困難であったことなどから、本件看板の設置により原告の名誉又は声望が毀損されたと認めるには足りないとして、著作者人格権侵害に基づく謝罪広告の掲載請求は認められていません(15頁)。
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■コメント
パネル看板掲出当時のアンダーカバーのカタログ表紙(あるいはチラシでしょうか)をみてみると、猫のモチーフを利用しているので、店内POPも猫のイメージで統一感を出していたのかもしれません。
事案としてはファッションメーカーの営業現場のお粗末な対応を内容とするもので双方とも複製権侵害自体は争ってはおらず、あとは損害論の前提として写真集現物の切り抜き行為やコラージュ制作が著作物の利用行為を超える翻案行為にあたるかどうかが争点として注目される点といえます。
コラージュの要素として、写真集現物の切り抜き素材を使用してパネルを作成しており翻案性が肯定されてもおかしくないですが、本件では数百枚の画像のうちの一部にすぎないとして、翻案性は認められていません。
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■参考サイト
アンダーカバー、阪急うめだ本店にウィメンズショップ出店 | Fashionsnap.com(2012年11月21日)