最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

風力発電環境影響評価書事件(控訴審)

知財高裁平成26.5.21平成25(ネ)10082著作権及び出版権侵害差止請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 富田善範
裁判官      大鷹一郎
裁判官      田中芳樹

*裁判所サイト公表 2014.5.23
*キーワード:著作者性、著作物性、翻案、出版権、著作者人格権、意見書、名誉毀損

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■事案

大型風力発電施設建設に関する環境影響評価書へ掲載した意見書の要約が著作権侵害にあたるかどうかが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審原告) :環境保護NPO法人
被控訴人(一審被告):風力発電専門会社、福島県

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2号、19条、20条、27条、80条

1 本件意見書の著作者
2 氏名表示権及び同一性保持権侵害の成否
3 翻案権侵害の成否
4 出版権侵害の成否
5 名誉毀損行為等の成否

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■事案の概要

『本件は,控訴人は,本件意見書1ないし7の各著作者から著作権の譲渡又は管理委託を受け,出版権の設定を受け,本件意見書の原稿をまとめて出版を行い,また,本件意見書8の著作者との間で著作権管理委託及び出版権設定契約を締結したところ,原判決別紙のとおり,本件評価書の「表8.2−1(1)〜(9)準備書についての住民意見の概要及び事業者見解」の「環境保全上の見地からの意見」欄,「表8.2−2 準備書についての住民意見の概要及び事業者見解」の「その他意見」欄において,被控訴人らが,本件意見書の表現の一部を抜粋したり,表現を要約したりするなどして,本件意見書の表現を改変したことが,氏名表示権(著作権法19条),同一性保持権(20条),翻案権(27条),出版権(80条)を侵害し,著作権者の名誉を毀損(パブリックコメントにおける意見者のオリジナリティを侵害・毀損)するなどと主張して,控訴人から被控訴人らに対し,本件評価書の回収及び損害賠償として201万1311円の連帯支払を求める事案である。
 原判決は,控訴人の主張する氏名表示権,同一性保持権,翻案権及び出版権の各侵害並びに著作権者の名誉毀損(パブリックコメントにおける意見者のオリジナリティを侵害・毀損)はいずれも認められないとして,控訴人の請求を全部棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴したものである。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件意見書の著作者

(1)本件意見書1から8の作成者

裁判所は、著者表記や控訴人と各著者との間の「著作権の管理委託及び出版権設定契約書」の存在などから、本件意見書1はX、2から8はA乃至G等を作成者と認定しています(6頁以下)。

(2)本件意見書の著作物性

本件意見書の著作物性について、裁判所は、思想又は感情が創作的に表現されたものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものといえるとして、著作物(著作権法2条1項1号)であると認めています(8頁)。

(3)控訴人との共同著作物性

控訴人は、本件意見書が各著作者と控訴人との共同著作物であると主張しましたが、控訴人に著作者性が認められず、共同著作物性は否定されています(8頁以下)。

結論として、本件意見書の各作成者が、本件意見書の各著作者であると判断されています。

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2 氏名表示権及び同一性保持権侵害の成否

控訴人は著作者ではなく、氏名表示権及び同一性保持権侵害性を主張することはできないと判断されています(9頁)。

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3 翻案権侵害の成否

控訴人は著作者ではなく、また、各著作者と控訴人との間の翻案権譲渡の事実も認められないとして、翻案権侵害性についても認められていません。

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4 出版権侵害の成否

被控訴人エコ・パワーは、福島県環境影響評価条例に従って本件意見書を含む住民意見を抜粋ないし要約した記載のある本件評価書を作成し、これを福島県知事に送付するとともに、本件評価書を公告し、これを縦覧に供したものであって、被控訴人エコ・パワーは、本件評価書において原著作物である本件意見書を「頒布の目的をもって」(80条1項)複製しているものではなく、「原作のまま」複製したものでもないとして、本件評価書の作成やその縦覧のための複製に関して、本件意見書についての出版権侵害は成立しないと裁判所は判断しています(10頁以下)。

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5 名誉毀損行為等の成否

控訴人は、共同著作権又は著作権の管理権に基づき、「著作権者の名誉毀損(パブリックコメントに於ける意見者のオリジナリティ侵害・毀損行為)」に対する損害賠償を請求しましたが、控訴人は著作権や同一性保持権を有せず、また、著作権者の名誉毀損に基づく損害賠償請求権行使の一身専属性から、控訴人がその毀損による損害賠償を求めることはできないと判断されています(6頁)。

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■コメント

原審同様、知財高裁でも環境アセスメントにおける意見書の著作物性が認められましたが、原告(控訴人)の本件意見書に関する著作者性、著作権者性が否定されています。
なお、原告は控訴審で条例の適用除外を主張しましたが、容れられていません。

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■過去のブログ記事

原審記事

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■参考サイト

NPO風の谷委員会 今月の主張平成26年5月
「悲しみの風」平成26年5月1日