最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
山野草DVD事件(控訴審)
知財高裁平成26.4.23平成25(ネ)10080損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求控訴事件、同附帯控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官 中村 恭
裁判官 中武由紀
*裁判所サイト公表 2014.5.15
*キーワード:映像製作契約、著作権譲渡、写真家、解除、衡平、合理的解釈
--------------------
■事案
山野草や高山植物の動画DVDの製作契約について紛争となった事案の控訴審
控訴人・附帯被控訴人(原告・反訴被告):フリーカメラマン
被控訴人・附帯控訴人(被告・反訴原告):デジタルコンテンツ制作販売会社
--------------------
■結論
本件控訴一部取消し、本件附帯控訴一部取消し
--------------------
■争点
条文 著作権法21条、26条、112条2項、114条3項
1 本件風景映像動画利用の許諾の有無
2 本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性
3 本件契約の解除の効力発生の有無
--------------------
■事案の概要
『(1)原審請求の要旨
本件は,原審における本訴として,控訴人が被控訴人に対し,(1)被控訴人が販売する後記「本件作品」中の後記「本件風景映像動画」部分が控訴人の著作権(複製権)を侵害するとして,不法行為に基づいて,損害賠償金225万円及び附帯金の支払と,(2)本件風景映像動画の著作権(複製権)に基づいて,本件作品から本件風景映像動画を削除(廃棄)することを求め,同反訴として,被控訴人が,控訴人に対し,(3)控訴人が販売する後記「本件映像動画1」及び「本件映像動画2」は録音録画物製作委託契約である後記「本件契約」に基づき被控訴人が著作権を取得したとして,著作権に基づいて,本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権確認と,(4)本件契約に基づいて,本件映像動画1及び本件映像動画2の映像素材の引渡しと,(5)本件契約の解除に基づいて,既払金153万6465円の返還及び附帯金の支払とを求めた事案である。』
『(2)原審の判断
原審は,上記(1)(1)の本訴損害賠償請求について,損害賠償金23万5935円及びこれに対する不法行為日(本件作品を収録したDVDの発売日)である平成24年3月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第1項),その余の請求を棄却し(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分),同(2)の本訴廃棄請求について,控訴人が前提となる差止請求をしていないとしてこれを却下し(原判決主文第5項のうち訴え却下部分),同(3)の反訴著作権確認及び同(4)の反訴原板引渡請求について,全部認容し(原判決主文第2項及び第3項),同(5)の既払金返還請求について,153万6465円及びこれに対する催告の日の翌日である平成25年5月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第4項),その余の請求を棄却した(原判決主文第6項)。
なお,原判決主文第1項及び第4項には,仮執行宣言が付されている。 』
『(3)不服申立て及び当審請求
控訴人は,本訴について,原判決が控訴人の上記(1)(1)の請求を棄却した部分のうち(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分),132万4065円(新たな算定方法による総損害額156万円から原審が認容した23万5935円を控除した額)及びこれに対する附帯金の支払を求める限度で不服を申し立て(申立て1(1)ウ),反訴について,原判決が被控訴人の上記(1) (3)(4)(5)の各請求を認容した部分(原判決主文第2項から第4項まで)の取消しを求めるとともに(申立て1(1)ア,イ),当審における新たな請求として,本件作品を収録したDVD等の販売等の差止めと本件作品を収録したDVD等の廃棄を求めた(申立て1(2))。
被控訴人は,本訴について,原判決が本訴損害賠償請求を一部認容した部分(原判決主文第1項)の取消しを求めた(申立て2(1)(2))。』(3頁以下)
--------------------
■判決内容
<争点>
1 本件風景映像動画利用の許諾の有無
1.許諾の有無及び範囲
山野草の映像動画のほかに、風景の映像動画がどの範囲まで納入対象に含まれるのかが争点となっていましたが、メールのやりとりや本件作品の担当者Aの陳述書記載の内容などから、本件契約には風景の映像動画を納入することも含まれていたと裁判所は判断しています(17頁以下)。
2.許諾の点数
控訴人は、風景の映像動画として使用を許諾した点数を問題としましたが、裁判所は、風景の映像動画と風景の映像動画以外の映像動画とが明瞭に区分けできているものではなく、本件契約の当事者間において風景の映像動画として使用を許諾される映像動画の数量を明確に取り決めたと認めることはできないと判断。
結論として、控訴人は本件風景映像動画を複製、頒布することの許諾をしたものと認めるのが相当であるとしています(18頁以下)。
--------------------
2 本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性
同一の機会に撮影され、控訴人が動画素材販売サイトを通じて販売した映像動画(本件映像動画1及び本件映像動画2)について、裁判所は、控訴人が撮影場所において目的物を録音録画行為をする過程で生じた未だ編集されない状態の映像素材のすべてが本件成果物に該当することは、契約書面から明らかであるとした上で、本件映像動画1及び本件映像動画2は、これに対応する本件納品映像動画の撮影と同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影したものであるとして、本件映像動画1及び本件映像動画2は、本件契約書の条項上、本件成果物に該当するといえると判断しています(19頁以下)。
--------------------
3 本件契約の解除の効力発生の有無
1.本件契約の解除の有効性
本件映像動画1及び本件映像動画2が本件成果物に該当するところ、控訴人は期限を経過してもこれを納品しておらず、被控訴人が本件映像動画1の引渡しの催告をし、催告期間経過後に本件契約を解除する意思表示をしたことで本契約の解除の効力は有効に発生していると判断しています(20頁以下)。
2.本件契約の解除の効果
裁判所は、本件契約第10条が、被控訴人による解約により契約が終了した場合には被控訴人が控訴人に対して既払金の返還を求めることができるとする定めを置く一方で(1項)、本件契約によって控訴人から被控訴人が取得した著作権及び本件成果物の素材の所有権を失わないとする特則を規定しているとして(2項)、「被控訴人に片面的に有利な規定となっている」と分析した上で、9条各号の解除事由(10号を除く)については、
「委託者が契約を解約したときには,委託者が既に支払済みの金銭を回収するとともに,責めのない委託者が将来的な著作権等の権利をめぐる紛争に巻き込まれる懸念をなくし,あるいは,契約違反をした受託者への制裁又は違反の予防として,受託者から委託者に納入された映像素材の著作権等の権利を引き続き委託者が保有し続けるとしてもやむを得ない」
という場合であり、
「本件契約第10条に定める契約解約後の権利関係の調整規定が全面的に適用されるのは,そのような場合に限られると解される。しかしながら,逆に,本件契約第10条が念頭においていないような場合については,同条の定める契約解除後の権利関係の調整をそのまま適用する前提を欠くことになり,これを当事者間の利害調整や衡平の観点から適宜調整の上適用することが,本件契約の合理的解釈といえる。」
として、適用場面を限定。その上で本件を検討すると、
(1)DVDは販売されている
(2)対価は本件作品の作成のために費消された
(3)映像動画1、2の引渡未了や公衆送信化により損害が生じれば別途損害賠償請求が可能
(4)引き渡されなかった映像数が納入された映像数に比して格段に少ない
といった点から、
「本件は,本件契約第10条が本来的に想定する事例とは異なるものであり,契約の合理的解釈として,同条(2)に基づく権利等の維持の効果を認める必要性は高く,その適用はあると解されるものの,同条(1)に基づく既払金の返還の効果は,これを認める必要性は低いだけでなく,その時機も逸していて殊更に大きな負担を控訴人に強いるのであるから,その適用はないと解するのが相当である。」
として、本件では10条1項の適用はないと判断。
結論として、本件契約の解約の結果、被控訴人は控訴人に対して本件作品を返還する必要はなく、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権等の取得も継続されるが、既払金の返還を求めることはできないと判断しています。
以上、まとめとして、以下の通りとなりました。
(1)控訴人は本件風景映像動画を複製、頒布することを被控訴人に許諾をしたものであるから、控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。
(2)本件映像動画1及び2は本件成果物に該当するから、被控訴人は本件映像動画1及び2の著作権を取得し、本件契約に基づいて本件映像動画1及び2の引渡しを求めることができる。
(3)本件契約の解約は有効であるものの、被控訴人は本件契約の解約に基づいて既払金の返還を求めることはできない。
(4)被控訴人の反訴請求は、本件映像動画1及び本件映像動画2について被控訴人が著作権を有することを確認し、これらを収録した映像素材の引渡しを求める限度で理由がある。
--------------------
■コメント
著作権侵害性の判断については、原審と控訴審で事実認定で判断が分かれました。
また、原審ではクリエーター側の帰責事由を理由とする映像製作契約解除の効果として、契約書規定通りの既払い報酬の返還が求められましたが、知財高裁では当該規定の適用を制限して、報酬の返還は不要と判断しています。
実務的には以下の2点が重要かと思われます。
1.同一機会の撮影素材
同一の機会に撮影された素材の取り扱いについて、「ロケの費用を出したのだからロケ中の撮影物の権利はすべて発注元に」、というのも発注元の立場からすればそうかもしれませんが、せっかくのロケの機会ですし、同じ機会に別の用途のために素材を撮りためておく、ということもクリエーターとしてはあるかと思います。契約書の文言通り厳密にすべて発注元に権利移転するという解釈をしてしまって良いのかどうかは、報酬額や素材内容、用途などを含めより細かく検討する余地があるものと思われます。
契約書面的には、あまり細かいところでやりとりをする訳にはいかないのが現実かとは思いますが、受託者であるクリエーター側も素材の流用については、商品の市場での競合を含め十分留意する必要があるかと思います。
2.解除の効果
解除(解約)後の権利関係として、受託者側に解除事由がある場合に、譲渡した著作権はそのまま発注者側に帰属し、また、支払われた報酬も返還しなければならないという規定振りの契約書は多いわけですが、知財高裁が衡平の観点から合理的解釈を行い、報酬返還規定について適用場面を限定しました。
クリエーター側に一方的に不利益にならない配慮が働いたものとして、解除後の事後処理条項に関する知財高裁の合理解釈として重要な指針となります。
--------------------
■過去のブログ記事
原審記事
山野草DVD事件(控訴審)
知財高裁平成26.4.23平成25(ネ)10080損害賠償本訴、著作権確認等反訴請求控訴事件、同附帯控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節
裁判官 中村 恭
裁判官 中武由紀
*裁判所サイト公表 2014.5.15
*キーワード:映像製作契約、著作権譲渡、写真家、解除、衡平、合理的解釈
--------------------
■事案
山野草や高山植物の動画DVDの製作契約について紛争となった事案の控訴審
控訴人・附帯被控訴人(原告・反訴被告):フリーカメラマン
被控訴人・附帯控訴人(被告・反訴原告):デジタルコンテンツ制作販売会社
--------------------
■結論
本件控訴一部取消し、本件附帯控訴一部取消し
--------------------
■争点
条文 著作権法21条、26条、112条2項、114条3項
1 本件風景映像動画利用の許諾の有無
2 本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性
3 本件契約の解除の効力発生の有無
--------------------
■事案の概要
『(1)原審請求の要旨
本件は,原審における本訴として,控訴人が被控訴人に対し,(1)被控訴人が販売する後記「本件作品」中の後記「本件風景映像動画」部分が控訴人の著作権(複製権)を侵害するとして,不法行為に基づいて,損害賠償金225万円及び附帯金の支払と,(2)本件風景映像動画の著作権(複製権)に基づいて,本件作品から本件風景映像動画を削除(廃棄)することを求め,同反訴として,被控訴人が,控訴人に対し,(3)控訴人が販売する後記「本件映像動画1」及び「本件映像動画2」は録音録画物製作委託契約である後記「本件契約」に基づき被控訴人が著作権を取得したとして,著作権に基づいて,本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権確認と,(4)本件契約に基づいて,本件映像動画1及び本件映像動画2の映像素材の引渡しと,(5)本件契約の解除に基づいて,既払金153万6465円の返還及び附帯金の支払とを求めた事案である。』
『(2)原審の判断
原審は,上記(1)(1)の本訴損害賠償請求について,損害賠償金23万5935円及びこれに対する不法行為日(本件作品を収録したDVDの発売日)である平成24年3月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第1項),その余の請求を棄却し(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分),同(2)の本訴廃棄請求について,控訴人が前提となる差止請求をしていないとしてこれを却下し(原判決主文第5項のうち訴え却下部分),同(3)の反訴著作権確認及び同(4)の反訴原板引渡請求について,全部認容し(原判決主文第2項及び第3項),同(5)の既払金返還請求について,153万6465円及びこれに対する催告の日の翌日である平成25年5月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し(原判決主文第4項),その余の請求を棄却した(原判決主文第6項)。
なお,原判決主文第1項及び第4項には,仮執行宣言が付されている。 』
『(3)不服申立て及び当審請求
控訴人は,本訴について,原判決が控訴人の上記(1)(1)の請求を棄却した部分のうち(原判決主文第5項のうち損害賠償請求棄却部分),132万4065円(新たな算定方法による総損害額156万円から原審が認容した23万5935円を控除した額)及びこれに対する附帯金の支払を求める限度で不服を申し立て(申立て1(1)ウ),反訴について,原判決が被控訴人の上記(1) (3)(4)(5)の各請求を認容した部分(原判決主文第2項から第4項まで)の取消しを求めるとともに(申立て1(1)ア,イ),当審における新たな請求として,本件作品を収録したDVD等の販売等の差止めと本件作品を収録したDVD等の廃棄を求めた(申立て1(2))。
被控訴人は,本訴について,原判決が本訴損害賠償請求を一部認容した部分(原判決主文第1項)の取消しを求めた(申立て2(1)(2))。』(3頁以下)
--------------------
■判決内容
<争点>
1 本件風景映像動画利用の許諾の有無
1.許諾の有無及び範囲
山野草の映像動画のほかに、風景の映像動画がどの範囲まで納入対象に含まれるのかが争点となっていましたが、メールのやりとりや本件作品の担当者Aの陳述書記載の内容などから、本件契約には風景の映像動画を納入することも含まれていたと裁判所は判断しています(17頁以下)。
2.許諾の点数
控訴人は、風景の映像動画として使用を許諾した点数を問題としましたが、裁判所は、風景の映像動画と風景の映像動画以外の映像動画とが明瞭に区分けできているものではなく、本件契約の当事者間において風景の映像動画として使用を許諾される映像動画の数量を明確に取り決めたと認めることはできないと判断。
結論として、控訴人は本件風景映像動画を複製、頒布することの許諾をしたものと認めるのが相当であるとしています(18頁以下)。
--------------------
2 本件映像動画1及び本件映像動画2の本件成果物該当性
同一の機会に撮影され、控訴人が動画素材販売サイトを通じて販売した映像動画(本件映像動画1及び本件映像動画2)について、裁判所は、控訴人が撮影場所において目的物を録音録画行為をする過程で生じた未だ編集されない状態の映像素材のすべてが本件成果物に該当することは、契約書面から明らかであるとした上で、本件映像動画1及び本件映像動画2は、これに対応する本件納品映像動画の撮影と同一の機会に撮影の角度や画角を変えて撮影したものであるとして、本件映像動画1及び本件映像動画2は、本件契約書の条項上、本件成果物に該当するといえると判断しています(19頁以下)。
--------------------
3 本件契約の解除の効力発生の有無
1.本件契約の解除の有効性
本件映像動画1及び本件映像動画2が本件成果物に該当するところ、控訴人は期限を経過してもこれを納品しておらず、被控訴人が本件映像動画1の引渡しの催告をし、催告期間経過後に本件契約を解除する意思表示をしたことで本契約の解除の効力は有効に発生していると判断しています(20頁以下)。
2.本件契約の解除の効果
裁判所は、本件契約第10条が、被控訴人による解約により契約が終了した場合には被控訴人が控訴人に対して既払金の返還を求めることができるとする定めを置く一方で(1項)、本件契約によって控訴人から被控訴人が取得した著作権及び本件成果物の素材の所有権を失わないとする特則を規定しているとして(2項)、「被控訴人に片面的に有利な規定となっている」と分析した上で、9条各号の解除事由(10号を除く)については、
「委託者が契約を解約したときには,委託者が既に支払済みの金銭を回収するとともに,責めのない委託者が将来的な著作権等の権利をめぐる紛争に巻き込まれる懸念をなくし,あるいは,契約違反をした受託者への制裁又は違反の予防として,受託者から委託者に納入された映像素材の著作権等の権利を引き続き委託者が保有し続けるとしてもやむを得ない」
という場合であり、
「本件契約第10条に定める契約解約後の権利関係の調整規定が全面的に適用されるのは,そのような場合に限られると解される。しかしながら,逆に,本件契約第10条が念頭においていないような場合については,同条の定める契約解除後の権利関係の調整をそのまま適用する前提を欠くことになり,これを当事者間の利害調整や衡平の観点から適宜調整の上適用することが,本件契約の合理的解釈といえる。」
として、適用場面を限定。その上で本件を検討すると、
(1)DVDは販売されている
(2)対価は本件作品の作成のために費消された
(3)映像動画1、2の引渡未了や公衆送信化により損害が生じれば別途損害賠償請求が可能
(4)引き渡されなかった映像数が納入された映像数に比して格段に少ない
といった点から、
「本件は,本件契約第10条が本来的に想定する事例とは異なるものであり,契約の合理的解釈として,同条(2)に基づく権利等の維持の効果を認める必要性は高く,その適用はあると解されるものの,同条(1)に基づく既払金の返還の効果は,これを認める必要性は低いだけでなく,その時機も逸していて殊更に大きな負担を控訴人に強いるのであるから,その適用はないと解するのが相当である。」
として、本件では10条1項の適用はないと判断。
結論として、本件契約の解約の結果、被控訴人は控訴人に対して本件作品を返還する必要はなく、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権等の取得も継続されるが、既払金の返還を求めることはできないと判断しています。
以上、まとめとして、以下の通りとなりました。
(1)控訴人は本件風景映像動画を複製、頒布することを被控訴人に許諾をしたものであるから、控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。
(2)本件映像動画1及び2は本件成果物に該当するから、被控訴人は本件映像動画1及び2の著作権を取得し、本件契約に基づいて本件映像動画1及び2の引渡しを求めることができる。
(3)本件契約の解約は有効であるものの、被控訴人は本件契約の解約に基づいて既払金の返還を求めることはできない。
(4)被控訴人の反訴請求は、本件映像動画1及び本件映像動画2について被控訴人が著作権を有することを確認し、これらを収録した映像素材の引渡しを求める限度で理由がある。
--------------------
■コメント
著作権侵害性の判断については、原審と控訴審で事実認定で判断が分かれました。
また、原審ではクリエーター側の帰責事由を理由とする映像製作契約解除の効果として、契約書規定通りの既払い報酬の返還が求められましたが、知財高裁では当該規定の適用を制限して、報酬の返還は不要と判断しています。
実務的には以下の2点が重要かと思われます。
1.同一機会の撮影素材
同一の機会に撮影された素材の取り扱いについて、「ロケの費用を出したのだからロケ中の撮影物の権利はすべて発注元に」、というのも発注元の立場からすればそうかもしれませんが、せっかくのロケの機会ですし、同じ機会に別の用途のために素材を撮りためておく、ということもクリエーターとしてはあるかと思います。契約書の文言通り厳密にすべて発注元に権利移転するという解釈をしてしまって良いのかどうかは、報酬額や素材内容、用途などを含めより細かく検討する余地があるものと思われます。
契約書面的には、あまり細かいところでやりとりをする訳にはいかないのが現実かとは思いますが、受託者であるクリエーター側も素材の流用については、商品の市場での競合を含め十分留意する必要があるかと思います。
2.解除の効果
解除(解約)後の権利関係として、受託者側に解除事由がある場合に、譲渡した著作権はそのまま発注者側に帰属し、また、支払われた報酬も返還しなければならないという規定振りの契約書は多いわけですが、知財高裁が衡平の観点から合理的解釈を行い、報酬返還規定について適用場面を限定しました。
クリエーター側に一方的に不利益にならない配慮が働いたものとして、解除後の事後処理条項に関する知財高裁の合理解釈として重要な指針となります。
--------------------
■過去のブログ記事
原審記事