最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ジャスCD原盤製作契約事件(控訴審)

知財高裁平成26.4.18平成25(ネ)10115著作権確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設楽隆一
裁判官      田中正哉
裁判官      神谷厚毅

*裁判所サイト公表 2014.4.28
*キーワード:レコード製作者の権利、著作隣接権、原盤製作契約、マスターCD、所有権、時機に後れた攻撃防御方法

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■事案

製作されたCDについてレコード製作者の権利の帰属などが争点となった事案の控訴審

控訴人(一審被告) :レコード製作販売会社
被控訴人(一審原告):ジャス歌手

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民事訴訟法157条1項、著作権法2条1項6号

1 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて
2 被控訴人の請求について

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■事案の概要

『本件は,ジャズ歌手である被控訴人が,レコード製作等を業とする会社である控訴人に対し,(1)被控訴人の歌唱を録音したCDについて被控訴人がレコード製作者の権利を有することの確認,(2)レコード製作者の権利又は所有権に基づくマスターCDの引渡し,(3)被控訴人が立替払した伴奏代金として20万円及びこれに対する遅延損害金の支払,を求める事案である。
 原審は,(1)被控訴人が控訴人に上記CDの製作費を交付し,その際,レコード製作者の権利は被控訴人に帰属させるとの合意があったから,被控訴人がレコード製作者の権利の全部を原始的に取得した,(2)マスターCDの所有権は,特段の合意がない限りレコード製作者に原始的に帰属する,(3)被控訴人は,控訴人が負担していた未払演奏料債務を立替払した,として,被控訴人の請求をいずれも認容したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。』(1頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて

被控訴人は、控訴人が平成26年3月11日の本件口頭弁論期日において陳述した同年1月23日付け控訴理由書における、本件CDの製作実費は少なくとも391万4506円であるとの主張及びこれに関する立証は、いずれも時機に後れた攻撃防御方法に当たるから却下すべきであると申し立てました。
この点について、控訴審裁判所は、これらの主張及び立証に対する被控訴人の認否や反論は、被控訴人が上記口頭弁論期日において陳述した同年3月11日付け第1準備書面においてされており、これらの主張及び立証の審理のために新たな期日を指定する必要はなかったとして、これにより本件訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないと判断。
被控訴人の上記申立ては理由がないとして却下しています(3頁)。

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2 被控訴人の請求について

(1)レコード製作者の権利の確認請求
(2)本件マスターCDの引渡請求
(3)立替金請求

原審の各争点について、控訴審でも一審原告であるジャス歌手にレコード製作者の権利が帰属しているなどとした原審の判断を維持しています(3頁以下)。

結論として、控訴人の主張を容れず、控訴を棄却しています。

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■コメント

控訴審でも原審の判断を維持しています。
レコード製作者の権利の帰属について、「THE BOOM対SME」事件判決(東京地裁平成19年1月19日判決 判時2003号111頁以下)では、
(1)「レコード製作者」は、物理的な録音行為の従事者ではなく、自己の計算と責任において録音する者、通常は、原盤制作時の費用負担者が該当する。
(2)「レコード製作者」は、原盤制作と同時に原始的に決定されるべきものであり、原盤制作後の後発的な費用負担の変更等によって、レコード製作者たる地位そのものが変わることはない。

と説示していました。

この判決を踏まえた原審の判断を控訴審も維持しており、少なくとも上記(1)に関わる部分、レコード製作者の権利の帰属を製作費負担者と異なる者に帰属させる場合は、特段の合意の存在が認められない限り、原盤製作時における費用の負担者がレコード製作者の権利を取得することとなると控訴審が説示した点は、高裁レベルの判断として原盤製作実務上も重要な部分であると考えられます。

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■過去のブログ記事

ジャスCD原盤製作契約事件
原審記事