最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「旅行業システムSP」データベース事件
東京地裁平成26.3.14平成21(ワ)16019著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官 今井弘晃
裁判官 足立拓人
*裁判所サイト公表 2014.3.31
*キーワード:データベース、著作物性、複製、翻案、一般不法行為、限界利益
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■事案
退職従業員による旅行業者向けシステムのデータベースの複製、翻案などが争点になった事案
原告:コンピュータソフトウェア開発会社
被告:コンピュータシステム開発会社、被告会社代表取締役、退職従業員ら5名
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項10号の3、12条の2、21条、27条、114条1項、民法709条
1 原告CDDBの著作物性及び被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか
2 被告らによる著作権侵害についての共同不法行為の成否
3 一般不法行為の成否
4 原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無
5 被告らの損害賠償義務の有無及び原告の損害額
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■事案の概要
『本件は,原告に吸収合併される前の訴外株式会社ブロードリーフ(以下「旧原告会社」という。なお,原告は,旧原告会社を平成22年1月1日に吸収合併するとともに商号を旧原告会社と同名に変更したものである。)が,訴外翼システム株式会社(以下「翼システム」という。)から営業譲渡に伴い著作権等の譲渡を受けた,別紙原告物件目録記載のデータベース部分(以下「原告CDDB」という。なお,「CDDB」はCDで提供されるマスターテーブルによるデータベースの趣旨である。)を含む旅行業者向けシステム「旅行業システムSP」(旧製品名「スーパーフロントマン 旅行業システム」。以下,この旧製品名のものも併せて「原告システム」という。)につき,その開発,営業等を担当していた旧原告会社の社員であった被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6らが,旧原告会社を退職した後,被告Y1らと共に被告アゼスタを設立し,あるいは同社に入社して,別紙被告物件目録記載1ないし22の各検索及び行程作成業務用データベース(以下,これらデータベースを総称して「被告CDDB」という。)を含む旅行業者向けシステム「旅 nesPro」(以下「被告システム」という。)を制作し,顧客らに販売するに当たり,被告システムに含まれる被告CDDBを複製・頒布等する行為について,(1)原告CDDBについて原告が有する著作権(複製権,翻案権,譲渡権,貸与権,公衆送信権)を侵害するものであるとして,著作権法112条1項に基づき,被告らに対し,被告CDDBの複製,翻案,頒布,公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め(請求の趣旨1項),(2)著作権法112条2項に基づき,被告らに対し,被告CDDBを格納したCD−ROM等の記録媒体の廃棄とその記録内容の消去(請求の趣旨2項),(3)損害賠償として,被告らに対し,連帯して,主位的に,著作権法114条1項,民法709条に基づき,予備的に一般不法行為として民法709条に基づき,9億1037万0978円及びうち5億5349万6000円につき訴状送達の日の翌日以降の日である平成21年5月28日から,うち1億1859万3600円につき平成23年10月7日付け訴えの変更の申立書送達の日の翌日である平成23年11月2日から,うち2億3828万1378円につき平成25年1月28日付け訴えの変更の申立書送達の日の翌日である平成25年1月31日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨3項),をそれぞれ求めたものである。』(3頁以下)
<経緯>
H08.01 翼システムが「スーパーフロントマン旅行業システム」制作、販売
H17.10 被告会社設立
H17.12 旧原告会社が翼システムから営業譲渡、著作権譲渡
被告Y1を除く個人被告らが翼システムから旧原告会社へ移籍
H18.02 被告Y2らが旧原告会社を退社
H18.06 被告システム販売
H21.05 本件提訴
H21.06 被告システム(Ver.2.94)販売
H21.09 原告設立、旧原告会社を吸収合併
H23.02 被告システム(Ver.3.1)販売
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■判決内容
<争点>
1 原告CDDBの著作物性及び被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか
裁判所はまず、データベースの著作物性(著作権法2条1項10号の3、12条の2)と複製(2条1項15号)、翻案(27条)の意義について言及した上で、被告CDDB(当初版・2006年版)、被告CDDB(現行版)、被告CDDB(新版)に関してそれぞれ検討しています(128頁以下)。
・体系的構成の共通性
・体系的構成の複製又は翻案性
・情報の選択の共通性
・情報の選択の複製又は翻案性
・依拠性
の諸点について検討、結論としては、当初版・2006年版と現行版については、被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物であるとされました。
もっとも、新版については、体系的構成、情報の選択いずれにおいても複製ないし翻案にあたらないと判断されています。
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2 被告らによる著作権侵害についての共同不法行為の成否
被告アゼスタに対する被告CDDB(当初版・2006年版)、被告CDDB(現行版)に関する別紙被告物件目録1ないし21記載の物件について、複製、頒布、公衆送信(送信可能化を含む)の差止めが認められています(112条1項)(240頁以下)。
個人被告らに対する複製等の差止めは認められていません。
また、被告アゼスタに対する廃棄等の請求(112条2項)が認められています。
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3 一般不法行為の成否
著作権侵害が否定された被告CDDB(新版)について、一般不法行為の成否が検討されていますが、裁判所は、北朝鮮映画事件最高裁判決(最高裁平成23年12月8日最判平成21(受)602、603)に言及した上で検討をしています。新版においても原告CDDBから流用したものと推認されるレコードが存在するものの、総レコード数からみた場合のこれら流用レコードの割合は相当低いなどとして、結論としては一般不法行為の成立は否定されています(242頁以下)。
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4 原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無
被告らは、原告システム及び被告システムのような旅行業向けシステムを開発販売している業者が原告と被告アゼスタの2社のみであり、寡占状況となっているとすれば、原告の本訴提起による被告CDDBの差止請求及び損害賠償請求は、原告1社による市場独占を企図するものと考えられ、公共の利益に反し一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであるとして、独占禁止法2条5項、3条に違反している可能性があり、原告の請求はこの点から速やかに棄却されるべきものである旨主張しましたが、裁判所は認めていません(245頁以下)。
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5 被告らの損害賠償義務の有無及び原告の損害額
個人被告らにも少なくとも過失があるとして損害賠償義務を肯定。著作権法114条1項に基づく損害額として、限界利益率33%、寄与率50%、販売価格170万円(1本)、販売本数382本として、1億0715万1000円、弁護士費用500万円が認定されています(246頁以下)。
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■コメント
国内旅行の旅行行程表、見積書作成のために必要な観光施設、宿泊施設、道路、時刻表などの各種データをデータベース化し、パソコンを用いて効率よく行程表、見積書等を作成することを可能とする旅行業者用システムの検索及び行程作成業務用データベースの著作物性や複製性などが争点となった事案です。
原告CDDBは、データベースの情報の単位であるレコードを別のレコードと関連付ける処理機能を持ついわゆるリレーショナル・データベースで、情報の選択又は体系的な構成によってデータベースの著作物と評価することができるための重要な要素は、情報が格納される表であるテーブルの内容(種類及び数)、各テーブルに存在するフィールド項目の内容(種類及び数)、各テーブル間の関連付けのあり方の点にありました(129頁参照)。
退職従業員らによる被告製品のリリースが開発期間が短いことからしても、原告製品の複製、依拠が強く疑われるところですが、なぜこのようなすぐに複製と疑われるような製品をリリースしたのか。データベース保護が旅行業者向けサービスの寡占状態を追認する側面があるとしても、フリーライドが許されるわけでもないところです。
「旅行業システムSP」データベース事件
東京地裁平成26.3.14平成21(ワ)16019著作権侵害差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官 今井弘晃
裁判官 足立拓人
*裁判所サイト公表 2014.3.31
*キーワード:データベース、著作物性、複製、翻案、一般不法行為、限界利益
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■事案
退職従業員による旅行業者向けシステムのデータベースの複製、翻案などが争点になった事案
原告:コンピュータソフトウェア開発会社
被告:コンピュータシステム開発会社、被告会社代表取締役、退職従業員ら5名
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項10号の3、12条の2、21条、27条、114条1項、民法709条
1 原告CDDBの著作物性及び被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか
2 被告らによる著作権侵害についての共同不法行為の成否
3 一般不法行為の成否
4 原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無
5 被告らの損害賠償義務の有無及び原告の損害額
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■事案の概要
『本件は,原告に吸収合併される前の訴外株式会社ブロードリーフ(以下「旧原告会社」という。なお,原告は,旧原告会社を平成22年1月1日に吸収合併するとともに商号を旧原告会社と同名に変更したものである。)が,訴外翼システム株式会社(以下「翼システム」という。)から営業譲渡に伴い著作権等の譲渡を受けた,別紙原告物件目録記載のデータベース部分(以下「原告CDDB」という。なお,「CDDB」はCDで提供されるマスターテーブルによるデータベースの趣旨である。)を含む旅行業者向けシステム「旅行業システムSP」(旧製品名「スーパーフロントマン 旅行業システム」。以下,この旧製品名のものも併せて「原告システム」という。)につき,その開発,営業等を担当していた旧原告会社の社員であった被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6らが,旧原告会社を退職した後,被告Y1らと共に被告アゼスタを設立し,あるいは同社に入社して,別紙被告物件目録記載1ないし22の各検索及び行程作成業務用データベース(以下,これらデータベースを総称して「被告CDDB」という。)を含む旅行業者向けシステム「旅 nesPro」(以下「被告システム」という。)を制作し,顧客らに販売するに当たり,被告システムに含まれる被告CDDBを複製・頒布等する行為について,(1)原告CDDBについて原告が有する著作権(複製権,翻案権,譲渡権,貸与権,公衆送信権)を侵害するものであるとして,著作権法112条1項に基づき,被告らに対し,被告CDDBの複製,翻案,頒布,公衆送信(送信可能化を含む。)の差止め(請求の趣旨1項),(2)著作権法112条2項に基づき,被告らに対し,被告CDDBを格納したCD−ROM等の記録媒体の廃棄とその記録内容の消去(請求の趣旨2項),(3)損害賠償として,被告らに対し,連帯して,主位的に,著作権法114条1項,民法709条に基づき,予備的に一般不法行為として民法709条に基づき,9億1037万0978円及びうち5億5349万6000円につき訴状送達の日の翌日以降の日である平成21年5月28日から,うち1億1859万3600円につき平成23年10月7日付け訴えの変更の申立書送達の日の翌日である平成23年11月2日から,うち2億3828万1378円につき平成25年1月28日付け訴えの変更の申立書送達の日の翌日である平成25年1月31日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨3項),をそれぞれ求めたものである。』(3頁以下)
<経緯>
H08.01 翼システムが「スーパーフロントマン旅行業システム」制作、販売
H17.10 被告会社設立
H17.12 旧原告会社が翼システムから営業譲渡、著作権譲渡
被告Y1を除く個人被告らが翼システムから旧原告会社へ移籍
H18.02 被告Y2らが旧原告会社を退社
H18.06 被告システム販売
H21.05 本件提訴
H21.06 被告システム(Ver.2.94)販売
H21.09 原告設立、旧原告会社を吸収合併
H23.02 被告システム(Ver.3.1)販売
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■判決内容
<争点>
1 原告CDDBの著作物性及び被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか
裁判所はまず、データベースの著作物性(著作権法2条1項10号の3、12条の2)と複製(2条1項15号)、翻案(27条)の意義について言及した上で、被告CDDB(当初版・2006年版)、被告CDDB(現行版)、被告CDDB(新版)に関してそれぞれ検討しています(128頁以下)。
・体系的構成の共通性
・体系的構成の複製又は翻案性
・情報の選択の共通性
・情報の選択の複製又は翻案性
・依拠性
の諸点について検討、結論としては、当初版・2006年版と現行版については、被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物であるとされました。
もっとも、新版については、体系的構成、情報の選択いずれにおいても複製ないし翻案にあたらないと判断されています。
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2 被告らによる著作権侵害についての共同不法行為の成否
被告アゼスタに対する被告CDDB(当初版・2006年版)、被告CDDB(現行版)に関する別紙被告物件目録1ないし21記載の物件について、複製、頒布、公衆送信(送信可能化を含む)の差止めが認められています(112条1項)(240頁以下)。
個人被告らに対する複製等の差止めは認められていません。
また、被告アゼスタに対する廃棄等の請求(112条2項)が認められています。
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3 一般不法行為の成否
著作権侵害が否定された被告CDDB(新版)について、一般不法行為の成否が検討されていますが、裁判所は、北朝鮮映画事件最高裁判決(最高裁平成23年12月8日最判平成21(受)602、603)に言及した上で検討をしています。新版においても原告CDDBから流用したものと推認されるレコードが存在するものの、総レコード数からみた場合のこれら流用レコードの割合は相当低いなどとして、結論としては一般不法行為の成立は否定されています(242頁以下)。
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4 原告の行為の独占禁止法違反の可能性の有無
被告らは、原告システム及び被告システムのような旅行業向けシステムを開発販売している業者が原告と被告アゼスタの2社のみであり、寡占状況となっているとすれば、原告の本訴提起による被告CDDBの差止請求及び損害賠償請求は、原告1社による市場独占を企図するものと考えられ、公共の利益に反し一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであるとして、独占禁止法2条5項、3条に違反している可能性があり、原告の請求はこの点から速やかに棄却されるべきものである旨主張しましたが、裁判所は認めていません(245頁以下)。
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5 被告らの損害賠償義務の有無及び原告の損害額
個人被告らにも少なくとも過失があるとして損害賠償義務を肯定。著作権法114条1項に基づく損害額として、限界利益率33%、寄与率50%、販売価格170万円(1本)、販売本数382本として、1億0715万1000円、弁護士費用500万円が認定されています(246頁以下)。
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■コメント
国内旅行の旅行行程表、見積書作成のために必要な観光施設、宿泊施設、道路、時刻表などの各種データをデータベース化し、パソコンを用いて効率よく行程表、見積書等を作成することを可能とする旅行業者用システムの検索及び行程作成業務用データベースの著作物性や複製性などが争点となった事案です。
原告CDDBは、データベースの情報の単位であるレコードを別のレコードと関連付ける処理機能を持ついわゆるリレーショナル・データベースで、情報の選択又は体系的な構成によってデータベースの著作物と評価することができるための重要な要素は、情報が格納される表であるテーブルの内容(種類及び数)、各テーブルに存在するフィールド項目の内容(種類及び数)、各テーブル間の関連付けのあり方の点にありました(129頁参照)。
退職従業員らによる被告製品のリリースが開発期間が短いことからしても、原告製品の複製、依拠が強く疑われるところですが、なぜこのようなすぐに複製と疑われるような製品をリリースしたのか。データベース保護が旅行業者向けサービスの寡占状態を追認する側面があるとしても、フリーライドが許されるわけでもないところです。