最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ブログ「嘘を暴く快感!!嘘を見逃すな!!」発信者情報開示請求事件

東京地裁平成26.1.27平成25(ワ)18124発信者情報開示請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2014.2.12
*キーワード:著作物性、複製権、公衆送信権、引用、発信者情報開示、明白性、正当な理由

   --------------------

■事案

ブログへの記事転載が著作権侵害等にあたるとして発信者情報開示を請求した事案

原告:芸能人
被告:プロバイダ

   --------------------

■結論

請求認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、23条、32条、プロバイダ責任制限法4条

1 著作権侵害の明白性の有無
2 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

   --------------------

■事案の概要

『本件は,原告が,インターネット上に開設されたウェブログ(ブログ)中に投稿された別紙投稿記事目録記載のURL,タイトル及び内容の記事(以下「本件記事」という。)により,原告の名誉感情及び著作権(複製権,公衆送信権)が侵害されたことが明らかであって,本件記事の投稿者に対する損害賠償請求権の行使のためには,上記投稿者に係る発信者情報の開示を受ける正当な理由があると主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,いわゆる経由プロバイダである被告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める事案である。』(1頁以下)

<経緯>

H23.4 原告がブログに記事1掲載
H24.3 原告がブログに記事2掲載
H25.1 「嘘を暴く快感!!嘘を見逃すな!!」ブログに本件記事掲載

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 著作権侵害の明白性の有無

(1)著作物性

原告が開設したブログに掲載された本件原告記事1、2は、いずれも原告が作成したもので、本件ブログの本件転載部分1、2は、本件原告記事1、2を転載したものであって、原告の個性が表出されているものと裁判所は認定。
本件転載部分のうち、文字によって記載された部分はいずれも原告の思想又は感情を創作的に表現したものであると認められ、言語の著作物(著作権法10条1項1号)として著作物性を有し、原告はその作成者としてその著作権(複製権、公衆送信権)を有するものと認められています(8頁以下)。

(2)引用の成否

裁判所は、本件記事は、本件原告記事1及び2における、原告が当選した舞台公演のチケットを他人に譲ったとの内容が虚偽であることを示して批判することを意図したものであり、上記批判に用いることを目的として本件転載部分1及び2を掲載したものであると認められるものの、本件記事においては、文字部分の大半を本件転載部分が占めている上、本件転載部分のうち、本件記事の投稿者が批判のために用いている部分は、「誰の名前かいてありましたか???」との部分と、「帝劇枠当たった唯一の他人の証人だったんだけどね」との部分のみにとどまるものであり、本件記事において本件原告記事1の全文(本件転載部分2)や本件原告記事2のうち、24行に及ぶ部分(本件転載部分1)を引用する必要性があるとは認められないと判断。
結論として、本件記事における本件転載部分の掲載は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認められず、適法な引用(著作権法32条1項)には当たらないとされています。

(3)著作権侵害性

裁判所は、本件記事を本件ブログ上に投稿する行為は、本件転載部分(文字によって記載された部分)に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するものと認められるとして、写真の著作権侵害又は名誉感情侵害の明白性について検討するまでもなく本件記事の投稿により原告の権利が侵害されたことは明らかであると判断しています。

   --------------------

2 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

裁判所は、原告が本件記事の発信者に対して著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する意向を示しており、上記損害賠償請求権の行使のためには被告の保有する本件発信者情報の開示を受けることが必要であると認めています(11頁)。

結論として、被告に対する別紙発信者情報目録記載の各情報の開示請求が認められています。

   --------------------

■コメント

経由プロバイダに対する発信者情報開示請求の当否の判断にあたって、ブログ掲載記事の引用の成否が検討されています。
結論としては、著作権法上の引用とは認められていません。