最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
毎日オークションカタログ事件
東京地裁平成25.12.20平成24(ワ)268損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官 小川雅敏
裁判官 西村康夫
*裁判所サイト公表 2014.2.10
*キーワード:準拠法、当事者適格、美術カタログ、オークション、複製権、引用、小冊子、権利濫用
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■事案
オークション用カタログに掲載された美術作品画像の複製権侵害性が争点となった事案
原告:美術著作権管理団体(フランス法人)、作家相続人(スイス)
被告:オークション会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法32条、47条、47条の2、114条3項、法適用通則法7条、13条、民法1条3項
1 原告X1の当事者適格の有無
2 著作権移転の有無
3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額
4 利用許諾の有無
5 本件カタログが展示に伴う小冊子に当たるか
6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか
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■事案の概要
『本件は,(1)フランス共和国法人である原告協会が,その会員(著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受け,著作権者として著作権を管理し,(2)原告X1が,亡P(以下単に「P」という。)の美術作品(以下「P作品」という。)の著作権について,フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって,訴訟当事者として裁判上において,同財産を代表する権限を有すると主張した上で,原告らが,被告に対し,被告は,被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(以下「本件オークション」という。)のために被告が作成したオークション用のカタログ(以下「本件カタログ」という。)に,原告らの利用許諾を得ることなく,会員作品及びP作品の写真を掲載しているから,原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求(又は不当利得に基づく利得金返還請求)として,(ア)原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円(附帯請求として最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,(イ)原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円(附帯請求として最終の侵害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。』(2頁)
<経緯>
H22 原告協会と被告が東京地裁平成22.9.21平成21(ワ)232について和解
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■判決内容
<争点>
1 原告X1の当事者適格の有無
亡Pの相続人のひとりでPの著作権の管理者(代表者)ある原告X1の当事者適格(法定訴訟担当)について、裁判所は、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無を判断するとした上で、原告X1の権限は相続人間の合意によるもので実体的な法律関係から派生し、当該合意は法律行為に基づくことから、法の適用に関する通則法7条によりフランス法により判断するのが相当であると説示。結論として、原告X1は訴訟上の当事者として、本件訴訟について当事者適格を有するとされています(44頁以下)。
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2 著作権移転の有無
(1)準拠法について
原告協会が会員の美術作品の著作権を管理している点に関して、著作権の移転について適用されるべき準拠法の決定については、裁判所は、著作権移転の原因関係である契約等の債権行為に適用されるべき準拠法は通則法7条によりフランス法によると判断。
次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法については、通則法13条により我が国の法令によると判断しています。(45頁以下)。
(2)著作権移転契約について
原告協会と会員との著作権移転に関する契約について、原告協会の会員は、原告協会に加入することによりその著作権が移転することを同意していたものと認められるとして、結論として原告協会に著作権の移転があったと認められるとしています(46頁以下)。
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3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額
(1)被告の複製権侵害の態様について
裁判所は、著作権法114条3項の損害額を算定するについては、一般社団法人美術著作権協会(SPDA)の使用料規程に基づくのが相当であると判断、複製の態様の判断が損害額の算定と結び付くものであることに鑑み、複製の態様の認定においてもSPDAの基準に基づいて複製の態様を認定するのが相当であると説示。SPDAの色及びサイズの判断基準を検討した上で会員作品及びP作品を検討。著作権法47条の2の適用があると認められる複製以外は複製権侵害性が肯定されています(48頁以下)。
(2)原告らの損害額について
結論として、以下の損害額が算定されています(67頁以下)。
・使用料相当損害額
原告協会 合計3724万4350円
原告X1 合計 401万7000円
・弁護士費用相当額
原告協会 370万円
原告X1 40万円
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4 利用許諾の有無
被告は、ABの作品の著作権管理を行う株式会社ギャルリーためながから許諾を受けてAB作品を本件カタログに複製していたと主張しましたが、裁判所は認めていません(70頁)。
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5 本件カタログが展示に伴う小冊子に当たるか
本件カタログへの著作権法47条の適否について、裁判所は、「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布されるものは「小冊子」に当たらないと解するのが相当であると説示。その上で、本件カタログは、本件オークションや下見会の参加にかかわらず被告の会員に配布されるものであるから、著作権法47条にいう「小冊子」には当たるとは認められないと判断しています(70頁以下)。
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6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか
被告は、本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たる旨主張しました。
この点について裁判所は、他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が報道、批評、研究等の引用するための各目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要であると説示。
その上で、本件カタログには、美術作品の写真に合わせてロット番号、作家名、作品名、予想落札価格、作品の情報等が掲載されるが、実際の本件カタログをみても写真の大きさの方が上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く、上記の情報等に眼目が置かれているとは解し難い。また、本件カタログの配布とは別に、出品された美術作品を確認できる下見会が行われていることなどに照らすと上記の情報等と合わせて美術作品の写真を掲載する必然性は見出せないと判断。
本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様は、本件オークションにおける売買という目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められないとして、被告の主張を認めていません。(71頁以下)。
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7 原告らの請求が権利濫用に当たるか
被告は、本件訴訟における原告の著作権の行使は著作権法改正前にオークションのために行われた複製について、法律が明確でなかったことを幸いとして、譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので、著作権法47条の2が新設された趣旨からすると著作権の濫用に該当するなどと主張しました。
しかし、裁判所は、被告の主張を認めていません(72頁以下)。
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■コメント
原告協会と被告との間で別の複数の作家については平成22年当時、和解により使用料相当額を支払うことが合意されていましたが、その他の作家については、協議を行うことのみの合意に留まっていました。
なお、オークションカタログへの作品画像の掲載を巡る最近の紛争としては、村上隆さんほかの作家さんの事案があります。控訴審で和解しましたが(知財高裁平成21(ネ)10079(訴訟上の和解))、美術作家の経済的利益を保護する追及権を先取りした和解内容として大家重夫先生がその意義を指摘されておいでです(後掲文献232頁以下参照)。
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■過去のブログ記事
東京地裁平成21.11.26平成21(ワ)31480損害賠償請求事件
オークションカタログ事件
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■参考文献
福王寺一彦、大家重夫『美術作家の著作権 その現状と展望』(2014)231頁以下
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■参考判例
・藤田嗣治事件
東京高裁昭和60.10.17昭和59(ネ)2293
・レオナール・フジタ・カタログ事件
東京地裁平成1.10.6昭和62(ワ)1744
・ダリ展朝日新聞カタログ事件
東京地裁平成9.9.5平成3(ワ)3682著作権侵害差止等請求事件(判時1621号130頁)
・バーンズコレクション事件
東京地裁平成10.2.20平成6(ワ)18591
・オークションカタログ事件
東京地裁平成21.11.26平成21(ワ)31480損害賠償請求事件
・美術鑑定書事件(控訴審)
知財高裁平成22.10.13平成22(ネ)10052損害賠償請求控訴事件(記事)
毎日オークションカタログ事件
東京地裁平成25.12.20平成24(ワ)268損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官 小川雅敏
裁判官 西村康夫
*裁判所サイト公表 2014.2.10
*キーワード:準拠法、当事者適格、美術カタログ、オークション、複製権、引用、小冊子、権利濫用
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■事案
オークション用カタログに掲載された美術作品画像の複製権侵害性が争点となった事案
原告:美術著作権管理団体(フランス法人)、作家相続人(スイス)
被告:オークション会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法32条、47条、47条の2、114条3項、法適用通則法7条、13条、民法1条3項
1 原告X1の当事者適格の有無
2 著作権移転の有無
3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額
4 利用許諾の有無
5 本件カタログが展示に伴う小冊子に当たるか
6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか
7 原告らの請求が権利濫用に当たるか
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■事案の概要
『本件は,(1)フランス共和国法人である原告協会が,その会員(著作者又は著作権承継者)から美術作品(以下「会員作品」という。)の著作権の移転を受け,著作権者として著作権を管理し,(2)原告X1が,亡P(以下単に「P」という。)の美術作品(以下「P作品」という。)の著作権について,フランス民法1873条の6に基づく不分割共同財産の管理者であって,訴訟当事者として裁判上において,同財産を代表する権限を有すると主張した上で,原告らが,被告に対し,被告は,被告主催の「毎日オークション」という名称のオークション(以下「本件オークション」という。)のために被告が作成したオークション用のカタログ(以下「本件カタログ」という。)に,原告らの利用許諾を得ることなく,会員作品及びP作品の写真を掲載しているから,原告らの著作権(複製権)を侵害しているなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求(又は不当利得に基づく利得金返還請求)として,(ア)原告協会につき1億5564万1860円の一部請求として8650万円(附帯請求として最終の侵害行為の日の後である平成22年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払,(イ)原告X1につき1696万1560円の一部請求として850万円(附帯請求として最終の侵害行為の日の後である同年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。』(2頁)
<経緯>
H22 原告協会と被告が東京地裁平成22.9.21平成21(ワ)232について和解
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■判決内容
<争点>
1 原告X1の当事者適格の有無
亡Pの相続人のひとりでPの著作権の管理者(代表者)ある原告X1の当事者適格(法定訴訟担当)について、裁判所は、被担当者と担当者の実体的法律関係に適用される準拠法により訴訟担当権限の有無を判断するとした上で、原告X1の権限は相続人間の合意によるもので実体的な法律関係から派生し、当該合意は法律行為に基づくことから、法の適用に関する通則法7条によりフランス法により判断するのが相当であると説示。結論として、原告X1は訴訟上の当事者として、本件訴訟について当事者適格を有するとされています(44頁以下)。
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2 著作権移転の有無
(1)準拠法について
原告協会が会員の美術作品の著作権を管理している点に関して、著作権の移転について適用されるべき準拠法の決定については、裁判所は、著作権移転の原因関係である契約等の債権行為に適用されるべき準拠法は通則法7条によりフランス法によると判断。
次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法については、通則法13条により我が国の法令によると判断しています。(45頁以下)。
(2)著作権移転契約について
原告協会と会員との著作権移転に関する契約について、原告協会の会員は、原告協会に加入することによりその著作権が移転することを同意していたものと認められるとして、結論として原告協会に著作権の移転があったと認められるとしています(46頁以下)。
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3 被告の複製権侵害の態様と原告らの損害額
(1)被告の複製権侵害の態様について
裁判所は、著作権法114条3項の損害額を算定するについては、一般社団法人美術著作権協会(SPDA)の使用料規程に基づくのが相当であると判断、複製の態様の判断が損害額の算定と結び付くものであることに鑑み、複製の態様の認定においてもSPDAの基準に基づいて複製の態様を認定するのが相当であると説示。SPDAの色及びサイズの判断基準を検討した上で会員作品及びP作品を検討。著作権法47条の2の適用があると認められる複製以外は複製権侵害性が肯定されています(48頁以下)。
(2)原告らの損害額について
結論として、以下の損害額が算定されています(67頁以下)。
・使用料相当損害額
原告協会 合計3724万4350円
原告X1 合計 401万7000円
・弁護士費用相当額
原告協会 370万円
原告X1 40万円
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4 利用許諾の有無
被告は、ABの作品の著作権管理を行う株式会社ギャルリーためながから許諾を受けてAB作品を本件カタログに複製していたと主張しましたが、裁判所は認めていません(70頁)。
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5 本件カタログが展示に伴う小冊子に当たるか
本件カタログへの著作権法47条の適否について、裁判所は、「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布されるものは「小冊子」に当たらないと解するのが相当であると説示。その上で、本件カタログは、本件オークションや下見会の参加にかかわらず被告の会員に配布されるものであるから、著作権法47条にいう「小冊子」には当たるとは認められないと判断しています(70頁以下)。
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6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用に当たるか
被告は、本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たる旨主張しました。
この点について裁判所は、他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が報道、批評、研究等の引用するための各目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要であると説示。
その上で、本件カタログには、美術作品の写真に合わせてロット番号、作家名、作品名、予想落札価格、作品の情報等が掲載されるが、実際の本件カタログをみても写真の大きさの方が上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く、上記の情報等に眼目が置かれているとは解し難い。また、本件カタログの配布とは別に、出品された美術作品を確認できる下見会が行われていることなどに照らすと上記の情報等と合わせて美術作品の写真を掲載する必然性は見出せないと判断。
本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様は、本件オークションにおける売買という目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また、公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められないとして、被告の主張を認めていません。(71頁以下)。
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7 原告らの請求が権利濫用に当たるか
被告は、本件訴訟における原告の著作権の行使は著作権法改正前にオークションのために行われた複製について、法律が明確でなかったことを幸いとして、譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので、著作権法47条の2が新設された趣旨からすると著作権の濫用に該当するなどと主張しました。
しかし、裁判所は、被告の主張を認めていません(72頁以下)。
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■コメント
原告協会と被告との間で別の複数の作家については平成22年当時、和解により使用料相当額を支払うことが合意されていましたが、その他の作家については、協議を行うことのみの合意に留まっていました。
なお、オークションカタログへの作品画像の掲載を巡る最近の紛争としては、村上隆さんほかの作家さんの事案があります。控訴審で和解しましたが(知財高裁平成21(ネ)10079(訴訟上の和解))、美術作家の経済的利益を保護する追及権を先取りした和解内容として大家重夫先生がその意義を指摘されておいでです(後掲文献232頁以下参照)。
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■過去のブログ記事
東京地裁平成21.11.26平成21(ワ)31480損害賠償請求事件
オークションカタログ事件
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■参考文献
福王寺一彦、大家重夫『美術作家の著作権 その現状と展望』(2014)231頁以下
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■参考判例
・藤田嗣治事件
東京高裁昭和60.10.17昭和59(ネ)2293
・レオナール・フジタ・カタログ事件
東京地裁平成1.10.6昭和62(ワ)1744
・ダリ展朝日新聞カタログ事件
東京地裁平成9.9.5平成3(ワ)3682著作権侵害差止等請求事件(判時1621号130頁)
・バーンズコレクション事件
東京地裁平成10.2.20平成6(ワ)18591
・オークションカタログ事件
東京地裁平成21.11.26平成21(ワ)31480損害賠償請求事件
・美術鑑定書事件(控訴審)
知財高裁平成22.10.13平成22(ネ)10052損害賠償請求控訴事件(記事)