最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

自炊代行サービス事件(対サンドリームほか)

東京地裁平成25.9.30平成24(ワ)33525著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      西村康夫

*裁判所サイト公表 2013.10.1
*キーワード:自炊、複製、スキャン、私的使用、権利濫用

   --------------------

■事案

自炊代行業者による出版物の電子ファイル化サービスの適法性が争点となった事案

原告:小説家、漫画家、漫画原作者ら7名
被告:自炊代行業者ら

   --------------------

■結論

請求一部認容

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条1項15号、21条、30条1項、112条1項、民法1項3項

1 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否
2 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害論

   --------------------

■事案の概要

『小説家・漫画家・漫画原作者である原告らが,法人被告らは,電子ファイル化の依頼があった書籍について,権利者の許諾を受けることなく,スキャナーで書籍を読み取って電子ファイルを作成し(以下,このようなスキャナーを使用して書籍を電子ファイル化する行為を「スキャン」あるいは「スキャニング」という場合がある。),その電子ファイルを依頼者に納品しているから(以下,このようなサービスの依頼者を「利用者」という場合がある。),注文を受けた書籍には,原告らが著作権を有する別紙作品目録1〜7記載の作品(以下,併せて「原告作品」という。)が多数含まれている蓋然性が高く,今後注文を受ける書籍にも含まれている蓋然性が高いとして,原告らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなどと主張し,(1)著作権法112条1項に基づく差止請求として,法人被告らそれぞれに対し,第三者から委託を受けて原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに,(2)不法行為に基づく損害賠償として,(ア)被告サンドリームらに対し,弁護士費用相当額として原告1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔被告サンドリームにつき平成24年12月2日,被告Y1につき同月4日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払,(イ)被告ドライバレッジらに対し,同様に原告1名につき21万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日〔被告ドライバレッジにつき平成24年12月2日,被告Y2につき同月7日〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H23.09 作家、出版社らがスキャン業者に対して質問書送付
H23.10 質問書における質問への回答を再度要請する通知書送付
H24.07 原告らが被告らに対して試験的発注実施

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 著作権法112条1項に基づく差止請求の成否

(1)法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあるか

(ア)複製の主体等

複製の主体性について、裁判所は、「複製の実現における枢要な行為をした者は誰かという見地から検討するのが相当であり,枢要な行為及びその主体については,個々の事案において,複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して判断するのが相当である」として、最高裁ロクラク2事件判決に言及した上で本件について検討を加えています(21頁以下)。
この点について、裁判所は、電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容、程度等をみると、複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが、その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり、利用者は同作業には全く関与していないとして、本件における複製は、書籍を電子ファイル化するという点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為というべきであるところ、その枢要な行為をしているのは法人被告らであって、利用者ではないと判断。
複製の主体は、法人被告らであると認めるのが相当であるとしています。

これに対して被告らは、あくまで書籍の所有者である利用者が複製の主体であると反論しましたが、電子ファイル化における作業の具体的内容からすれば、有形的再製の中核を為す電子ファイル化の作業は法人被告らの管理下にあるとみられるとして、裁判所はその主張を認めていません。

(イ)著作権を侵害するおそれ

法人被告らによる著作権侵害のおそれがあり、裁判所は差止めの必要があると判断しています(24頁以下)。

(2)法人被告らのスキャニングが私的使用のための複製の補助として適法といえるか

被告らは、法人被告らのスキャニングについて、そのスキャン事業の利用者が複製の主体であって法人被告らはそれを補助したものであるから、30条1項の私的使用のための複製の補助として法人被告ら行為は適法である旨主張しました(26頁以下)。
しかし、裁判所は、本件における書籍の複製の主体は法人被告らであって利用者ではなく、30条1項適用の前提を欠くとしてその主張を認めていません。
また、原告らの差止請求は権利濫用に当たるとの反論についても裁判所はこれを認めていません。

   --------------------

2 不法行為に基づく損害賠償請求の成否及び損害論

原告らは訴訟追行にあたり弁護士に委任せざるを得なかったとして不法行為に基づく損害賠償請求の成立を認め、弁護士費用相当額の損害として原告1名につき10万円が認定されています(27頁以下)。

   --------------------

■コメント

書籍を送付して電子データ化してもらうタイプの自炊代行事業が裁判上明白に違法であることが示されました。
裁判をすれば、シロクロはっきりする訳ですが、一方では蔵書の電子化のニーズを踏まえ、こうした事態を憂慮して話し合いによる妥協点、ルール作りを模索する動きがあり、権利者団体関係者の皆様等がその調整のために日々尽力をされておいでです(後掲MYブック変換協議会サイト及び日本蔵書電子化事業者協会サイト参照)。

   --------------------

■参考サイト

MYブック変換協議会

日本蔵書電子化事業者協会

スキャポン運営事務局 プレスリリース「自炊代行訴訟判決を受けて」

  --------------------

■参考判例

ロクラク2事件 最高裁平成23.1.20平成21(受)788著作権侵害差止等請求事件判決PDF

  --------------------

■追記(2013/11/8)

別件訴訟(対ユープランニング事件 最高裁判所サイト公表日11/8)
東京地裁平成25.10.30平成24(ワ)33533 著作権侵害差止等請求事件

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 東海林保
裁判官      今井弘晃
裁判官      実本 滋