最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ソフトウェア提供パートナー契約事件

東京地裁平成25.9.24平成23(ワ)34126損害賠償、同中間確認各請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      志賀 勝
裁判官      藤田 壮

*裁判所サイト公表 2013.9.27
*キーワード:複製、翻案、債務不履行

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■事案

統合型業務ソフトウェアの提供契約において第三者の著作権を侵害しているソフトウェアが提供されていたかどうかが争点となった事案

原告:ソフトウェア制作会社
被告:ソフトウェア制作会社

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法21条、27条、民法415条

1 本件各プログラムが先行各プログラムを複製又は翻案したものであるか
2 原告と被告以外の第三者が先行各プログラムの著作権(複製権又は翻案権)を有するか

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■事案の概要

『原告が,被告との間のパートナー契約において,被告から提供されたソフトウェア中のプログラムにつき,著作権上の瑕疵があるとして,被告に対し,債務不履行に基づき,損害金206万5000円及びこれに対する催告の後の日である平成23年3月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,これに対し,被告が,中間確認の訴えとして,上記プログラムが他のプログラムの著作権を侵害しないことの確認を求める事案』(2頁)

<経緯>

H04    先行ソフト群をビーエスエスが順次開発
H18.04 ビーエスエスがサンライズ・テクノロジーに一部譲渡
H18.12 ビーエスエス、ソフトウェア部品開発が本件ソフト群を順次開発
H21.05 サンライズ・テクノロジーからフロンテック、日本電子計算に複製権が移転
H21.08 被告がソフトウェア部品開発の事業を譲受
H21.10 原被告間でパートナー契約締結
H23.02 原告が解除通知

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■判決内容

<争点>

1 本件各プログラムが先行各プログラムを複製又は翻案したものであるか

ソフトウェア「部品屋2007サーバー」、「部品屋2007クライアント」及び「ソフトウェア部品開発ツール」中の各プログラム(本件各プログラム)が、ソフトウェア「BSS−PACK(VAX/VMS)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」及び「部品マイスター」中の各プログラム(先行各プログラム)を複製又は翻案したものかどうかについて、「部品屋2007サーバー」、「部品屋2007クライアント」両ソフト中のプログラム「ソフトウェア部品」に関して、裁判所は、ビーエスエスとソフトウェア部品開発が平成19年までに約1500個の先行ソフトウェア部品に新たに開発した約200個のプログラム「ソフトウェア部品」を加えて約1700個の本件ソフトウェア部品を制作したことが認められると認定。
この点からビーエスエスやソフトウェア部品開発は、先行ソフトウェア部品に依拠し、これと一部が同一の本件ソフトウェア部品を制作したものと認められると判断。本件ソフトウェア部品の一部は、先行ソフトウェア部品を複製したものであると認めています(10頁以下)。

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2 原告と被告以外の第三者が先行各プログラムの著作権(複製権又は翻案権)を有するか

ビーエスエスがサンライズに対して平成18年4月7日に先行ソフトウェア部品を含む先行両ソフトの著作権を、また、同年9月27日に部品マイスターの著作権をそれぞれ譲渡したこと、さらに、先行各プログラムの著作権が平成19年9月19日には株式会社フロンテックに、また、平成21年5月22日には日本電子計算に順次譲渡されたことが認定されています。

その上で、被告は、本件契約において著作権上の瑕疵がない本件ソフト群を提供する義務を負っていたにもかかわらず、原告に対して第三者に著作権が帰属する先行各プログラムに関わる先行ソフトウェア部品を複製した本件ソフトウェア部品を含む本件ソフト群を提供したのであるから、債務の本旨に従った履行をしていないと裁判所は判断。
そして、被告が著作権者である日本電子計算から先行各プログラムの利用の許諾を得る見込みはなく給付の追完は不可能であるとして、原告は被告の債務不履行により本件契約をした目的を達することができなくなったとして、被告に支払った合計206万5000円に相当する額の損害を被ったと認定しています(11頁以下)。

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■コメント

問題となったソフトウェア「部品屋2007」シリーズは、企業の基幹業務を一元的に統合して管理するERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアに属する種類のもので、OSなどの環境の変化にも柔軟に対応するためのソフトウエア部品化構造を特徴とするものでした。
ソフトウェアの提供を受けるに際しては、第三者の権利や利益を侵害していないことをライセンサーに保証させるものの、開発経緯や事業譲渡等の経緯によっては、提供を受けたソフトウェアがオリジナルなのか、二次的著作物なのか不分明なこともあって、ライセンシー側としても慎重な対応が迫られる場面があります。