最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
書籍「いのちを語る」翻案事件(控訴審)
知財高裁平成25.9.10平成25(ネ)10039出版差止等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 中村 恭
裁判官 中武由紀
*裁判所サイト公表 2013.9.24
*キーワード:翻案権、複製権、名誉声望毀損行為、一般不法行為
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■事案
映画のインタビュー部分を意図しない内容で書籍に掲載されたとして翻案権侵害性、一般不法行為論などが争点となった事案の控訴審
控訴人(一審原告) :ドキュメンタリー映画等製作者
被控訴人(一審被告):大学元教授
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法27条、21条、113条6項、民法709条
1 翻案権侵害ないし複製権侵害
2 名誉声望毀損行為の成否
3 著作権に基づかない人格的利益侵害による不法行為の成否
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■事案の概要
『「A Man of Light」(「光の人」)は,控訴人の修士課程卒業制作作品である(本件映画)。「いのちを語る」と題する原判決別紙書籍目録記載の書籍(被告書籍)は,被控訴人がその著者の一人である。控訴人は,本件映画中の20:00(20分)から21:05(21分5秒)までの原判決別紙1記載の本件インタビュー部分に関する被告書籍の原判決別紙2の記述(被告記述部分)が,控訴人の著作権(翻案権)又は著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,被控訴人に対し,(1)著作権法112条1項に基づく被告書籍の印刷などの差止めを求めるとともに,(2)著作権侵害,著作者人格権侵害に基づき,損害賠償110万円及び遅延損害金の支払を求め,合わせて(3)著作権法115条に基づく名誉回復等の措置としての謝罪広告を求めた。原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
当審において,控訴人は,侵害された著作権として,翻案権に加え複製権を主張し,さらに,著作者人格権に関し,著作権法113条6項によるみなし侵害の主張を追加するとともに,予備的に,創作活動の内容を第三者によって無断で改変されないことに関する人格的利益侵害の不法行為に基づく損害賠償請求を追加した。』(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 翻案権侵害ないし複製権侵害
準拠法、著作権の帰属に関する争点に関して、裁判所は原審の判断を維持した上で、翻案権侵害ないし複製権侵害について判断しています。
控訴人製作による本件映画の本件インタビュー部分と被告(被控訴人)書籍の記述部分の比較検討について、裁判所は、複製、翻案の意義に関する最高裁判例(ワン・レイニ―・ナイト・イン・トーキョー事件、江差追分事件)に言及した上で、
(1)本件ナレーション(質問)部分
被告記述部分のうちの控訴人の質問紹介部分とは表現において共通する部分はなく、別個の創作的表現となっている。
(2)本件字幕部分
両者はその訳文としての具体的表現において大きく異なっている。
(3)博士回答部分
博士回答部分を英語で紹介する記載はなく、博士回答部分についての日本語による紹介部分は被控訴人独自の記述表現である。
(4)総体
被告記述部分を総体としてみた場合も本件インタビュー部分を要約して紹介する記述表現となっている。
として、いずれの点においても控訴人の表現上の本質的な特徴を感得することはできないと判断、被告記述部分の作成による本件インタビュー部分の翻案権ないし複製権侵害性を否定しています(6頁以下)。
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2 名誉声望毀損行為の成否
名誉声望毀損行為(著作権法113条6項)の成否について、裁判所は、被告記述部分が控訴人の著作物を利用したとはいえないこと、また、控訴人の社会的評価を低下させるものが含まれているということはできないとしてその成立を否定しています(8頁以下)。
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3 著作権に基づかない人格的利益侵害による不法行為の成否
著作権に基づかない人格的利益侵害を根拠とする一般不法行為論からの控訴人の主張について、裁判所は北朝鮮映画事件最高裁判決に言及した上で、結論として不法行為の成立を認めていません(8頁以下)。
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■コメント
控訴審でも原審の結論が維持されています。
不適切な要約引用について、一般不法行為論上の社会的相当性の観点からしてもこれを欠くものではないと判断されています。
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■過去のブログ記事
原審記事
書籍「いのちを語る」翻案事件(控訴審)
知財高裁平成25.9.10平成25(ネ)10039出版差止等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 中村 恭
裁判官 中武由紀
*裁判所サイト公表 2013.9.24
*キーワード:翻案権、複製権、名誉声望毀損行為、一般不法行為
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■事案
映画のインタビュー部分を意図しない内容で書籍に掲載されたとして翻案権侵害性、一般不法行為論などが争点となった事案の控訴審
控訴人(一審原告) :ドキュメンタリー映画等製作者
被控訴人(一審被告):大学元教授
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法27条、21条、113条6項、民法709条
1 翻案権侵害ないし複製権侵害
2 名誉声望毀損行為の成否
3 著作権に基づかない人格的利益侵害による不法行為の成否
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■事案の概要
『「A Man of Light」(「光の人」)は,控訴人の修士課程卒業制作作品である(本件映画)。「いのちを語る」と題する原判決別紙書籍目録記載の書籍(被告書籍)は,被控訴人がその著者の一人である。控訴人は,本件映画中の20:00(20分)から21:05(21分5秒)までの原判決別紙1記載の本件インタビュー部分に関する被告書籍の原判決別紙2の記述(被告記述部分)が,控訴人の著作権(翻案権)又は著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,被控訴人に対し,(1)著作権法112条1項に基づく被告書籍の印刷などの差止めを求めるとともに,(2)著作権侵害,著作者人格権侵害に基づき,損害賠償110万円及び遅延損害金の支払を求め,合わせて(3)著作権法115条に基づく名誉回復等の措置としての謝罪広告を求めた。原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
当審において,控訴人は,侵害された著作権として,翻案権に加え複製権を主張し,さらに,著作者人格権に関し,著作権法113条6項によるみなし侵害の主張を追加するとともに,予備的に,創作活動の内容を第三者によって無断で改変されないことに関する人格的利益侵害の不法行為に基づく損害賠償請求を追加した。』(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 翻案権侵害ないし複製権侵害
準拠法、著作権の帰属に関する争点に関して、裁判所は原審の判断を維持した上で、翻案権侵害ないし複製権侵害について判断しています。
控訴人製作による本件映画の本件インタビュー部分と被告(被控訴人)書籍の記述部分の比較検討について、裁判所は、複製、翻案の意義に関する最高裁判例(ワン・レイニ―・ナイト・イン・トーキョー事件、江差追分事件)に言及した上で、
(1)本件ナレーション(質問)部分
被告記述部分のうちの控訴人の質問紹介部分とは表現において共通する部分はなく、別個の創作的表現となっている。
(2)本件字幕部分
両者はその訳文としての具体的表現において大きく異なっている。
(3)博士回答部分
博士回答部分を英語で紹介する記載はなく、博士回答部分についての日本語による紹介部分は被控訴人独自の記述表現である。
(4)総体
被告記述部分を総体としてみた場合も本件インタビュー部分を要約して紹介する記述表現となっている。
として、いずれの点においても控訴人の表現上の本質的な特徴を感得することはできないと判断、被告記述部分の作成による本件インタビュー部分の翻案権ないし複製権侵害性を否定しています(6頁以下)。
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2 名誉声望毀損行為の成否
名誉声望毀損行為(著作権法113条6項)の成否について、裁判所は、被告記述部分が控訴人の著作物を利用したとはいえないこと、また、控訴人の社会的評価を低下させるものが含まれているということはできないとしてその成立を否定しています(8頁以下)。
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3 著作権に基づかない人格的利益侵害による不法行為の成否
著作権に基づかない人格的利益侵害を根拠とする一般不法行為論からの控訴人の主張について、裁判所は北朝鮮映画事件最高裁判決に言及した上で、結論として不法行為の成立を認めていません(8頁以下)。
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■コメント
控訴審でも原審の結論が維持されています。
不適切な要約引用について、一般不法行為論上の社会的相当性の観点からしてもこれを欠くものではないと判断されています。
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原審記事