最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ファッションショー映像事件

東京地裁平成25.7.19平成24(ワ)16694損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      西村康夫
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2013.7.26
*キーワード:著作物性、実演、モデル、スタイリスト、ヘア、メイク、公衆送信権、放送権、実演家人格権

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■事案

ファッションモデルに施された化粧や髪型のスタイリングなどの著作物性が争点となった事案

原告:イベント企画制作会社、イベント運営業者
被告:NHK、服飾広告代理店

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、3号、23条1項、19条1項、92条1項、90条の2第1項

1 公衆送信権(23条1項)、氏名表示権(19条1項)侵害の成否
2 放送権(92条1項)、実演家としての氏名表示権(90条の2第1項)侵害の成否

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■事案の概要

『原告らが,被告日本放送協会(以下「被告NHK」という。)は,被告株式会社ワグ(以下「被告ワグ」という。)従業員を介して,原告らの開催したファッションショーの映像の提供を受け,上記映像の一部である別紙映像目録記載の映像(以下「本件映像部分」という。)をそのテレビ番組において放送し,これにより,原告有限会社マックスアヴェール(以下「原告会社」という。)の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)並びに原告A(以下「原告A」という。)の著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し,被告らに対し,著作権,著作隣接権,著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被告ワグについては使用者責任)に基づく損害賠償として,原告会社につき943万4790円,原告Aにつき110万円(附帯請求として,これらに対する平成21年6月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の連帯支払を求める事案』(2頁)

<経緯>

H21.06 原告らが本件ファッションショー開催
        株式会社JFCCが「fashion TV」で映像を放送
        NHKが「特報首都圏」において本件番組を放送

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■判決内容

<争点>

1 公衆送信権(23条1項)、氏名表示権(19条1項)侵害の成否

イベント制作会社及びディレクターである原告らは、被告NHKの本件映像部分の放送により本件ファッションショーの以下の部分の著作物の著作権(公衆送信権、原告Aの氏名表示権)が侵害された旨主張しました(13頁以下)。

(1)個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング
(2)着用する衣服の選択及び相互のコーディネート
(3)装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート
(4)舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け
(5)舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け
(6)化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート
(7)モデルの出演順序及び背景に流される映像

この点について、裁判所は、著作物性(著作権法2条1項1号)の意義について言及した上で、上記部分の著作物性を検討。

(1)個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング

化粧及び髪型はいずれも一般的なものというべき。
また、創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているとはいえない。

(2)着用する衣服の選択及び相互のコーディネート
(3)装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート

衣服及びアクセサリーはいずれも既製品であり、かつ、そのほとんどは大量販売が予定されているものであり、通常考えられるところと著しく異なる特殊な組み合わせ方をしているわけでもなく、衣服及びアクセサリーの選択及び組み合わせ方に特徴的な点はない。

(4)舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け
(5)舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け

各モデルのポーズ又は動作は、ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段、目新しいものではない。

(6)化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート

(1)から(5)の要素の組み合わせにより新たな印象が生み出されているとはいえない。

(7)モデルの出演順序及び背景に流される映像

出演順序は、便宜的な要素を考慮して決定されたものにすぎない。また、創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているとはいえない。
背景映像について、具体的内容を看取することが困難である。

以上から、本件ファッションショーのうち、本件映像部分に表れた点に著作物性は認められず、又は本件映像部分においてその創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものと認められないとして、本件映像部分を放送することが原告会社の公衆送信権又は原告Aの氏名表示権を侵害するものとは認められないと判断されています。

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2 放送権(92条1項)、実演家としての氏名表示権(90条の2第1項)侵害の成否

裁判所は、モデルの動作やポーズが本件では「著作物を・・・演ずる」(2条1項3号)に当たらないとして、実演性を否定(20頁以下)。
また、ファッションショー自体の実演性も否定しています。
結論として、本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放送することが「その実演」を公衆に提供し又は放送する場合に当たるものとは認められないとして、本件映像部分の放送が原告会社の放送権又は原告Aの実演家としての氏名表示権侵害性が否定されています。

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■コメント

ヘアやメイクの著作物性やモデルのポーズの著作物性が争点とされた事例として先例性があります。
バレエ振付(舞踏)の著作物性については先例がありますが(アダージェット事件 東京地裁平成10.11.20)、より一般的形式的な上演が想定されるファッションショーに関わる制作物等の著作物性議論として参考になります。
報道番組での映像使用ですが、引用の要件(出所明示)が揃っていれば、また違っていたのかもしれません。