最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

パンフレットイラスト事件

大阪地裁平成25.7.16平成24(ワ)10890損害賠償請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      松川充康
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2013.07.19
*キーワード:イラスト、許諾、改変、著作者人格権、引用、権利濫用

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■事案

岡山県のパンフレットに提供されたイラストの利用許諾内容が争点となった事案

原告:イラストレーター、ストックフォト会社
被告:岡山県、新見市、国際貢献大学校運営機構

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法19条1項、20条1項、32条1項、民法1条3項

1 原告リーブラが本件イラストの著作権を有するか等
2 許諾の有無
3 引用の成否
4 著作者人格権侵害の成否
5 権利濫用の成否

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■事案の概要

『(1)主位的請求
ア 原告リーブラの著作権侵害に係る請求
 本件掲載行為が原告リーブラの有する本件イラストの著作権(複製権,公衆送信権)を侵害するものであるとして,共同不法行為に基づき,566万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求
イ 原告P1の著作者人格権侵害に係る請求
 本件掲載行為が原告P1の有する本件イラストの著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害するものであるとして,共同不法行為に基づき,100万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求
(2)予備的請求(原告P1の著作権及び著作者人格権侵害に係る請求)
 本件掲載行為が原告P1の有する本件イラストの著作権(複製権,公衆送信権,送信可能化権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害するものであるとして,共同不法行為に基づき,666万円及びこれに対する平成15年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求』(5頁以下)

<経緯>

H08.03 岡山県が「おかやま国際化推進プラン」策定
H10.03 原告P1がコスモ社と作品使用権販売委託契約締結
H11.12 コスモ社が原告リーブラと営業権リース契約締結
H13.03 岡山県が「新おかやま国際化推進プラン」策定
        岡山県がパンフレットを印刷会社に発注
        原告会社がイラスト使用を許諾
H15.08 公設国際貢献大学校(本件大学校)のウェブページに掲載
H16.11 コスモ社が原告リーブラに営業権を譲渡
        原告P1と原告リーブラが使用権設定販売委託契約締結
H24.01 原告リーブラが被告岡山県に通知文送付
       
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■判決内容

<争点>

1 原告リーブラが本件イラストの著作権を有するか等

被告岡山県のパンフレットの表紙に使われた本件イラストの著作権の帰属について、裁判所は、本件イラストの著作者である原告P1(イラストレーター)と原告リーブラ(ストックフォト会社)との間の契約や訴外コスモ社(ライセンシングエージェント)との間の契約が、いずれも著作権譲渡を含むものではなく、単に著作権の管理に関する業務を委任したものとしか解することができないとして、原告リーブラが本件イラストの著作権者であることを否定しています(16頁以下)。
結論として、原告リーブラは本件イラストの著作者ではなく、また、本件掲載行為当時、本件イラストの著作権者でもなかったとして、原告リーブラによる著作権侵害に係る請求は認められていません。

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2 許諾の有無

公設国際貢献大学校(設置者 哲多町)が、平成15年8月に被告岡山県から許諾を受けて本件大学校のウェブページにおいて本件パンフレットの表紙の画像を掲載した行為(本件掲載行為)について、原告らは、被告岡山県とは別法人である本件大学校での利用であるとして、許諾外の行為であると主張しました(18頁以下)。
この点について、裁判所は、本件パンフレットの表紙への利用許諾の対価(5万0050円)の他に、二次利用に関する利用料(2万5480円)が別途支払われていたことから、二次利用の範囲について検討。
原告らが許諾をした二次利用の具体的な態様が必ずしも明らかではない一方で、二次利用の範囲について何らかの限定を付していたような事情がないこと、また、ウェブページ掲載の目的や態様も勘案したうえで、本件掲載行為が原告らによる二次利用に係る許諾の範囲内の行為であると判断しています。

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3 引用の成否

被告らは、本件掲載行為が引用(32条1項)に該当すると主張しましたが、裁判所はこれを認めています(20頁以下)。

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4 著作者人格権侵害の成否

本件イラストには、表紙掲載にあたって広告コピーと岡山県の所在を示すハート形が挿入されていましたが、裁判所は、これらの改変は原告P1の許諾の範囲内のものであるとして、この点に関する同一性保持権侵害性(20条1項)を認めていません(21頁以下)。
また、原告P1の氏名が表示されていなかった点についても、許諾の範囲内であるとして、氏名表示権侵害性(19条1項)を否定しています(22頁以下)。
結論として、本件イラストへ改変行為、ウェブページへの掲載行為のいずれも原告P1の著作者人格権を侵害しないと判断されています。

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5 権利濫用の成否

原告らの各請求が権利濫用に当たるとする被告らの主張が認められています(23頁以下)。

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■コメント

genkoku
原告イラスト
panf
本件パンフレット表紙

レンタルイラストの二次利用の範囲が争点となった事案です。
紙媒体のパンフレット表紙に利用されることを一次利用とした場合で、二次利用名目の利用料も別途支払われている際に、他の団体のウェブサイトでこの表紙画像を掲載させることも二次利用の範囲内になるのかどうかが争点となりました。
二次利用料が支払われているのに、その具体的な態様が明確にされていないという意味では、双方にとって曖昧な契約であったといえます。

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■参考判例

レンタルポジの契約に関連する事案として、

ドトールレンタルポジ事件(写真家対代理店、クライアント)
大阪地裁平成17.12.8?平成17(ワ)1311損害賠償等請求事件

レンタルポジ委託契約事件(写真家対レンタルポジ会社)
東京地裁平成22.3.30平成21(ワ)6604損害賠償請求事件