最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

弁護士通知書事件

東京地裁平成25.6.28平成24(ワ)13494著作者人格権等侵害行為差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2013.7.8
*キーワード:通知書、苦情申告書、著作物性、公衆送信権、引用、公表、公表権、権利濫用

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■事案

弁護士が作成した通知書や苦情申告書を無断でブログ記事として掲載したなどとして通知書等の著作物性が争点となった事案

原告:弁護士
被告:行政書士ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、32条、4条1項、18条1項

1 原告各文書の著作物性
2 公衆送信権侵害の成否
3 公表権侵害の成否
4 原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり、又は本件訴訟が訴権の濫用に当たるか
5 原告の損害及び損害額

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■事案の概要

『別紙原告文書目録記載1ないし3の文書(以下,それぞれ「原告文書1」などといい,併せて「原告各文書」という。)の著作者及び著作権者であると主張する原告が,(1)被告Y1は,別紙ウェブサイト目録記載1のウェブサイト(以下,「被告ブログ1」という。)上の別紙掲載記事目録記載1及び2の記事(以下,それぞれ「被告記事1」「被告記事2」という。)において原告文書1を掲載し,また,別紙掲載記事目録記載4及び5の記事(以下,それぞれ「被告記事4」,「被告記事5」という。)において,原告文書3のpdfファイルを掲載した別紙URL目録記載1ないし3のURL(以下,これらを併せて「本件各URL」という。)を掲載し,(2)被告Y2は,別紙ウェブサイト目録記載2のウェブサイト(以下,「被告ブログ2」といい,被告ブログ1と併せて「被告各ブログ」という。)上の別紙掲載記事目録記載3の記事(以下「被告記事3」という。)において原告文書1及び2を掲載し,また,別紙掲載記事目録記載6の記事(以下「被告記事6」といい,被告記事1ないし6を併せて「被告各記事」という。)において原告文書3を掲載しており,これらにより,原告の著作権(公衆送信権〔送信可能化を含む。〕)及び著作者人格権(公表権)を侵害していると主張して,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告各ブログにおいて,被告各記事に含まれる原告各文書及び本件各URLを掲載して使用することの差止めを求めるとともに,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償として,各自150万円(附帯請求として,訴状送達日の翌日である平成24年6月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

H23.10 原告が被告Y1に通知書を送付、被告Y1がブログに掲載
       原告が行政書士会会長宛に苦情申告書提出
       被告Y2がブログに掲載
H23.11 被告Y1が東京弁護士会に懲戒請求、原告が答弁書提出
       被告Y1がブログに掲載
       被告Y2がブログに掲載

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■判決内容

<争点>

1 原告各文書の著作物性

(1)通知書

まず、原告である弁護士が代理人として作成、送付した通知書(原告文書1)の著作物性(著作権法2条1項1号)が争点となっています。

(通知書の内容)
・表題、日付等の記載
・通知人の代理人として通知を行う旨
・被告Y1の作成するブログ内に通知人に関し事実に反する内容の記事が掲載されている旨
・上記記事のURLを表示
・上記記事の内容が事実に反し通知人の名誉・信用を著しく害し多大な損害が発生しているものである旨
・上記記事の削除を求め、削除に応じない場合には仮処分申立てや損害賠償請求等の必要な法的措置をとらざるを得ない旨
・以後問合せは通知人本人ではなく通知人代理人にされたい旨

以上の内容を記載したもので、URL部分を含め17行の分量(URL部分を除くと13行)のものでした。

この点について、裁判所は、前提となる事実関係を簡潔に摘示した上で、これに対する法的評価及び請求の内容等を短い表現で記載したものにすぎず、内容証明郵便による通知書として一般的にみられるものであって、文章表現としてありふれたものであると判断。
思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められないとして、通知書の著作物性を否定しています(11頁以下)。

(2)苦情申告書

原告が東京都行政書士会会長宛に提出した苦情申告書(原告文書2)の著作物性について、裁判所は、苦情申告書の性質上、当然に記載すべき項目(日付、申告者等の形式的記載事項、申告すべき苦情の内容、事実関係の記載、上記事実関係の法的評価、非違行為に該当する考える理由等)を含むものであるということができるものの、

『苦情の内容,事実関係,その法的評価等に関する点については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,これらをどのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかについては,様々な可能性があるものというべきである。そうすると,原告文書2は,上記のとおり表現について様々な可能性がある中で,記載の順序や内容,文章表現を工夫したものということができるのであって,このような点に,作成者の個性の表出がみられるものというべきであり,思想又は感情を創作的に表現したものに当たる』

と判断。苦情申告書の著作物性を肯定しています(12頁以下)。

(3)答弁書

被告Y1が東京弁護士会に対して請求した原告の懲戒請求に関する、原告が東京弁護士会綱紀委員会宛に提出した答弁書(原告文書3)について、裁判所は、答弁書の性質上当然に記載すべき項目(表題、日付等の形式的記載事項、懲戒請求理由に対する認否等)を含むものであるということができるとしつつ、

『しかし,これらのうち,懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否,被調査人(原告)の主張については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,どのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかにつき様々な可能性があり得ることは原告文書2と同様であるところ,原告文書3は,これらの点について工夫がみられ,特に被調査人(原告)の主張の内容及び表現はこの種文書において一般的なものとはいい難いものというべきである。そうすると,原告文書3には,作成者の個性が表現として表れているものとみることができる。』

と判断。答弁書の著作物性を肯定しています(14頁以下)。

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2 公衆送信権侵害の成否

(1)被告Y1の行為

被告Y1が被告ブログに答弁書PDFファイルをアップロードして利用者がこれをダウンロードしている点について、裁判所は、答弁書に係る公衆送信権侵害性を肯定。被告Y1によるURLの掲載、使用の差止めが認められています(15頁以下)。

(2)被告Y2の行為

被告Y2は自身のブログ記事で苦情申告書と答弁書を掲載していました。この点について、被告Y2は、これらの文書の掲載は、引用(32条1項)にあたると反論しました。
しかし、裁判所は、いずれの文書も非公開の審理が予定された手続に提出されたものであり、「発行」(3条1項)されたといえる程度の複製物の作成及び頒布がされたものとは認められず、また、原告又はその許諾を得た者によって公衆に提示されたものとも認められないとして、「公表」(4条1項)されたものにあたらないと判断。引用の要件である「公表された著作物」(32条1項)に当たらないとして、原告の反論を認めていません(16頁以下)。

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3 公表権侵害の成否

苦情申告書、答弁書は、いずれも「まだ公表されていないもの」(18条1項)に該当するとして、被告Y1、Y2の行為の公表権侵害性が肯定されています(17頁)。

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4 原告の著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たり、又は本件訴訟が訴権の濫用に当たるか

被告らは、原告の著作権及び著作者人格権の行使は権利の濫用に当たり、また、本件訴訟は不当訴訟の典型であって、本件訴訟の提起は訴権の濫用に当たると反論しましたが、裁判所は認めていません(17頁以下)。

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5 原告の損害及び損害額

原告は慰謝料として150万円を主張しました。しかし、裁判所は、原告において被告によるインターネットでの公表を予期しており、また、これを誘引した面もあるとして、慰謝料請求の基礎となるべきような精神的苦痛が生じたものとは認められないと判断。原告の主張を認めていません(18頁以下)。

結論として、被告Y1、Y2に対するURL掲載や文書掲載の使用の差止めが認められています。

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■コメント

法的な内容の通知書の著作物性については、最近でも読売「押し紙」事件判決がありますが、非公開の審理に提出された書面の著作物性や公表性の判断については先例として参考になります。

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■過去のブログ記事

新聞社の法務部員が通知した著作権侵害警告書(催告書)の創作性が争点となった事案として、読売「押し紙」著作権事件(控訴審)参照。

知財高裁平成21.9.16平成21(ネ)10030著作権に基づく侵害差止請求控訴事件

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■参考サイト

原告ブログ ヲタク弁護士OHオタクんの日常を綴った痛いブログ

被告ブログ かなめ行政書士事務所

被告ブログ NEWS RAGTAG