最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
ロケットニュース24動画リンク名誉毀損事件
大阪地裁平成25.6.20平成23(ワ)15245損害賠償等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官 松阿彌隆
裁判官 松川充康
*裁判所サイト公表 2013.6.27
*キーワード:映画の著作物、公衆送信権、公表権、氏名表示権、リンク、幇助行為性、名誉毀損、肖像権
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■事案
第三者によってアップロードされた動画にニュースサイトにおいて無断でリンクを貼ったとして著作権侵害、名誉毀損等の成否が争点となった事案
原告:個人
被告:情報提供サービス会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法10条1項7号、2条1項9号の5、18条、19条
1 本件動画は映画の著作物に該当するか
2 公衆送信権侵害の有無
3 著作者人格権(公表権、氏名表示権)侵害の有無
4 本件動画及び本件記事の名誉毀損該当性
5 本件コメント欄記載削除義務の有無
6 肖像権侵害の有無
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■事案の概要
『原告は,被告において,原告が著作者である動画を,自社の運営する「ロケットニュース24」と称するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)に無断で掲載し,これに原告を誹謗中傷する別紙記事記載の記事(以下「本件記事」という。)を掲載し,さらに本件記事下部のコメント欄に,読者をして原告を誹謗中傷する別紙コメント欄記載の書き込み(以下「本件コメント欄記載」という。)をさせ,これを削除しなかったことが,原告の名誉を毀損するとともに,原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権)を侵害するものであるとして,被告に対し,名誉権に基づき,本件ウェブサイトに掲載された本件記事及び本件コメント欄記載の削除を求めると共に,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく名誉回復措置として別紙謝罪文1記載の謝罪文を,名誉毀損の不法行為に基づく名誉回復措置として別紙謝罪文2記載の謝罪文を,本件ウェブサイトに掲載するよう求めている。
また,あわせて原告は,主位的に,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償の一部として30万円及びこれに対する損害発生日である平成23年6月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに名誉毀損の不法行為に基づく損害賠償の一部として30万円及びこれに対する前記起算日から前記割合による遅延損害金を請求し,予備的に,被告の上記行為は,原告の肖像権を侵害するとして,被告に対し,肖像権侵害の不法行為に基づく損害賠償の一部として10万円及びこれに対する前記起算日から前記割合による遅延損害金並びに名誉毀損の不法行為に基づく損害賠償の一部として50万円及びこれに対する前記起算日から前記割合による遅延損害金を請求している。 』(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 本件動画は映画の著作物に該当するか
まず、原告自らを撮影した音声付き動画について、一定の創作性があり(著作権法2条1項1号)、また、ライブストリーミング配信であるニコニコ生放送のほかにタイムシフト機能により配信後も視聴可能であったことから、「固定」されたもの(2条3項)といえるとして、「映画の著作物」(10条1項7号)に該当し、その著作者は原告と認められています(13頁以下)。
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2 公衆送信権侵害の有無
(1)被告は本件動画を送信可能化したか
原告は、被告が本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことが本件動画の送信可能化に当たるとして、公衆送信権侵害による不法行為が成立する旨主張しました(14頁以下)。
しかし、裁判所は、被告は本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで本件動画へのリンクを貼ったにとどまり、閲覧者は本件ウェブサイトのサーバを経ずに他社が提供する「ニコニコ動画」サーバから直接閲覧者へ送信されるもので、本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であると判断。被告が本件動画を自動公衆送信(2条1項9号の4)したり、送信可能化(2条1項9号の5)したとは認められないとしています。
(2)幇助による不法行為の成否
さらに、被告によるリンクを貼る行為の公衆送信権侵害幇助行為性について、裁判所は、リンクを貼ることが直ちに違法となるとはいい難いこと、また、原告から抗議を受けた時点で直ちに本件動画へのリンクを削除しているといった事情から、違法性、故意又は過失があったとはいえないとして幇助による不法行為の成立を否定しています。
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3 著作者人格権(公表権、氏名表示権)侵害の有無
原告は、被告による本件動画へのリンクに先立ち本件生放送をライブストリーミング配信していることから「公表」(4条1項)があり、公表権侵害は成立しないと裁判所は判断しています。また、被告はリンクを貼ったにとどまり自動公衆送信などの方法で「公衆へ提供若しくは提示」(19条)したとはいえないとして、氏名表示権侵害の前提を欠いていると判断しています(15頁以下)。結論として、著作者人格権侵害性は否定されています。
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4 本件動画及び本件記事の名誉毀損該当性
本件ウェブサイトへの本件記事及び本件動画の掲載が原告の名誉を毀損するかどうかについて、裁判所は、本件記事の内容により原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものであったと見る余地があるものの、本件記事の対象について、公共の利害に関する事実に係り、かつその目的が専ら公益を図ることにあり、さらに事実の真実性もあるとして、違法性阻却を認めています(16頁以下)。
結論として、原告の名誉を違法に毀損するものではなく、本件記事の削除及び損害賠償請求等の原告の主張は認められていません。
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5 本件コメント欄記載削除義務の有無
本件ウェブサイトでは本件記事及び本件コメント欄記載と一体性のある体裁で本件動画へのリンクが貼られていましたが、原告の抗議後、リンクを削除したことから本件コメント欄記載が原告に係るものであることを特定できないようにしていること、コメント数は20ほどで、その内容は一様ではなく、明らかに原告の名誉を毀損しないものを含んでおり、また、各コメントの個別削除に応じる対応を被告がしていたといった事情から、裁判所は、被告において本件コメント欄記載の削除義務を負うものではなく、またそのような義務を怠ったことによる不法行為責任を負うものともいえないと判断しています(18頁以下)。
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6 肖像権侵害の有無
本件動画へリンクを貼ったことが原告の肖像権を侵害するかどうかについて、裁判所は、被告が本件動画を公表したわけではなく、リンクを貼ったにとどまるものであり、しかも本件動画が適法にアップロードされているかがその内容や体裁上明らかではない映像であって、少なくともそのような映像にリンクを貼ることが直ちに肖像権を違法に侵害するとは言い難いと判断。原告から抗議を受けた時点で直ちにリンクを削除している事情に照らして、違法性、故意又は過失が認められず肖像権侵害による不法行為は成立しないとしています(20頁)。
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■コメント
自撮りしてライブ配信した動画が第三者によって録画複製されニコニコ動画に無断でアップロードされて、ウェブニュースサイトでその動画へのリンクが貼られた行為の違法性が争点となった事案です。
違法にアップロードされた著作物へのリンク行為の違法性を検討する際の事例として参考になります。
なお、今回の事案とは離れますが、リンクの法的評価に関連して、いわゆるリーチサイト問題について間接侵害論と関わる部分として、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回 平成24年12月13日)などの場で議論がされています。
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■参考サイト
文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回)議事次第
ロケットニュース24動画リンク名誉毀損事件
大阪地裁平成25.6.20平成23(ワ)15245損害賠償等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官 松阿彌隆
裁判官 松川充康
*裁判所サイト公表 2013.6.27
*キーワード:映画の著作物、公衆送信権、公表権、氏名表示権、リンク、幇助行為性、名誉毀損、肖像権
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■事案
第三者によってアップロードされた動画にニュースサイトにおいて無断でリンクを貼ったとして著作権侵害、名誉毀損等の成否が争点となった事案
原告:個人
被告:情報提供サービス会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法10条1項7号、2条1項9号の5、18条、19条
1 本件動画は映画の著作物に該当するか
2 公衆送信権侵害の有無
3 著作者人格権(公表権、氏名表示権)侵害の有無
4 本件動画及び本件記事の名誉毀損該当性
5 本件コメント欄記載削除義務の有無
6 肖像権侵害の有無
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■事案の概要
『原告は,被告において,原告が著作者である動画を,自社の運営する「ロケットニュース24」と称するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)に無断で掲載し,これに原告を誹謗中傷する別紙記事記載の記事(以下「本件記事」という。)を掲載し,さらに本件記事下部のコメント欄に,読者をして原告を誹謗中傷する別紙コメント欄記載の書き込み(以下「本件コメント欄記載」という。)をさせ,これを削除しなかったことが,原告の名誉を毀損するとともに,原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権)を侵害するものであるとして,被告に対し,名誉権に基づき,本件ウェブサイトに掲載された本件記事及び本件コメント欄記載の削除を求めると共に,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく名誉回復措置として別紙謝罪文1記載の謝罪文を,名誉毀損の不法行為に基づく名誉回復措置として別紙謝罪文2記載の謝罪文を,本件ウェブサイトに掲載するよう求めている。
また,あわせて原告は,主位的に,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償の一部として30万円及びこれに対する損害発生日である平成23年6月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに名誉毀損の不法行為に基づく損害賠償の一部として30万円及びこれに対する前記起算日から前記割合による遅延損害金を請求し,予備的に,被告の上記行為は,原告の肖像権を侵害するとして,被告に対し,肖像権侵害の不法行為に基づく損害賠償の一部として10万円及びこれに対する前記起算日から前記割合による遅延損害金並びに名誉毀損の不法行為に基づく損害賠償の一部として50万円及びこれに対する前記起算日から前記割合による遅延損害金を請求している。 』(2頁)
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■判決内容
<争点>
1 本件動画は映画の著作物に該当するか
まず、原告自らを撮影した音声付き動画について、一定の創作性があり(著作権法2条1項1号)、また、ライブストリーミング配信であるニコニコ生放送のほかにタイムシフト機能により配信後も視聴可能であったことから、「固定」されたもの(2条3項)といえるとして、「映画の著作物」(10条1項7号)に該当し、その著作者は原告と認められています(13頁以下)。
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2 公衆送信権侵害の有無
(1)被告は本件動画を送信可能化したか
原告は、被告が本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことが本件動画の送信可能化に当たるとして、公衆送信権侵害による不法行為が成立する旨主張しました(14頁以下)。
しかし、裁判所は、被告は本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで本件動画へのリンクを貼ったにとどまり、閲覧者は本件ウェブサイトのサーバを経ずに他社が提供する「ニコニコ動画」サーバから直接閲覧者へ送信されるもので、本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であると判断。被告が本件動画を自動公衆送信(2条1項9号の4)したり、送信可能化(2条1項9号の5)したとは認められないとしています。
(2)幇助による不法行為の成否
さらに、被告によるリンクを貼る行為の公衆送信権侵害幇助行為性について、裁判所は、リンクを貼ることが直ちに違法となるとはいい難いこと、また、原告から抗議を受けた時点で直ちに本件動画へのリンクを削除しているといった事情から、違法性、故意又は過失があったとはいえないとして幇助による不法行為の成立を否定しています。
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3 著作者人格権(公表権、氏名表示権)侵害の有無
原告は、被告による本件動画へのリンクに先立ち本件生放送をライブストリーミング配信していることから「公表」(4条1項)があり、公表権侵害は成立しないと裁判所は判断しています。また、被告はリンクを貼ったにとどまり自動公衆送信などの方法で「公衆へ提供若しくは提示」(19条)したとはいえないとして、氏名表示権侵害の前提を欠いていると判断しています(15頁以下)。結論として、著作者人格権侵害性は否定されています。
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4 本件動画及び本件記事の名誉毀損該当性
本件ウェブサイトへの本件記事及び本件動画の掲載が原告の名誉を毀損するかどうかについて、裁判所は、本件記事の内容により原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものであったと見る余地があるものの、本件記事の対象について、公共の利害に関する事実に係り、かつその目的が専ら公益を図ることにあり、さらに事実の真実性もあるとして、違法性阻却を認めています(16頁以下)。
結論として、原告の名誉を違法に毀損するものではなく、本件記事の削除及び損害賠償請求等の原告の主張は認められていません。
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5 本件コメント欄記載削除義務の有無
本件ウェブサイトでは本件記事及び本件コメント欄記載と一体性のある体裁で本件動画へのリンクが貼られていましたが、原告の抗議後、リンクを削除したことから本件コメント欄記載が原告に係るものであることを特定できないようにしていること、コメント数は20ほどで、その内容は一様ではなく、明らかに原告の名誉を毀損しないものを含んでおり、また、各コメントの個別削除に応じる対応を被告がしていたといった事情から、裁判所は、被告において本件コメント欄記載の削除義務を負うものではなく、またそのような義務を怠ったことによる不法行為責任を負うものともいえないと判断しています(18頁以下)。
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6 肖像権侵害の有無
本件動画へリンクを貼ったことが原告の肖像権を侵害するかどうかについて、裁判所は、被告が本件動画を公表したわけではなく、リンクを貼ったにとどまるものであり、しかも本件動画が適法にアップロードされているかがその内容や体裁上明らかではない映像であって、少なくともそのような映像にリンクを貼ることが直ちに肖像権を違法に侵害するとは言い難いと判断。原告から抗議を受けた時点で直ちにリンクを削除している事情に照らして、違法性、故意又は過失が認められず肖像権侵害による不法行為は成立しないとしています(20頁)。
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■コメント
自撮りしてライブ配信した動画が第三者によって録画複製されニコニコ動画に無断でアップロードされて、ウェブニュースサイトでその動画へのリンクが貼られた行為の違法性が争点となった事案です。
違法にアップロードされた著作物へのリンク行為の違法性を検討する際の事例として参考になります。
なお、今回の事案とは離れますが、リンクの法的評価に関連して、いわゆるリーチサイト問題について間接侵害論と関わる部分として、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回 平成24年12月13日)などの場で議論がされています。
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■参考サイト
文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回)議事次第