最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
書籍「いのちを語る」翻案事件
東京地裁平成25.3.25平成24(ワ)4766出版差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官 小川雅敏
裁判官 森川さつき
*裁判所サイト公表 2013.5.22
*キーワード:翻案権、創作性、同一性保持権
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■事案
映画のインタビュー部分を意図しない内容で書籍に掲載されたとして翻案権侵害性などが争点となった事案
原告:ドキュメンタリー映画等製作者
被告:大学元教授
--------------------
■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法27条、20条、16条、29条
1 原告は本件映画の著作者及び著作権者であるか
2 被告記述部分の作成は原告の翻案権を侵害するか
3 被告記述部分は原告の同一性保持権を侵害するものか
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■事案の概要
『原告が,被告がその著者の一人である別紙書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)中の被告執筆部分に,「A Man of Light」(「光の人」)と題する映画作品(以下「本件映画」という。)中の20:00(20分)から21:05(21分5秒)までの部分(以下「本件インタビュー部分」という。)に係る原告の著作権(翻案権)又は著作者人格権(同一性保持権)を侵害する部分が含まれていると主張し,著作権法112条1項に基づき,被告に対し,被告書籍の出版等の差止めを求めるとともに,著作権又は著作者人格権侵害の不法行為責任に基づく損害110万円(慰謝料100万円及び弁護士費用10万円)及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成24年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,著作権法115条の著作者としての名誉又は声望を回復するための適当な措置として,謝罪広告の掲載を求める事案』(2頁)
<経緯>
H13 本件映画を原告が製作
H21 被告ほか2名による被告書籍刊行
原告映画:「光の人」
被告書籍:「いのちを語る」(集英社)
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■判決内容
<争点>
1 原告は本件映画の著作者及び著作権者であるか
本件映画が日本国民である原告により米国内で製作された点に関連して、裁判所は、我が国の法律が準拠法になると言及した上で(12頁以下)、本件映画の著作者、著作権者を判断しています(13頁以下)。
結論としては、原告が本件映画の内容を具体的に構想し、脚本を作成し、映画の製作指揮を執り、演出、編集等を行っており、本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者であるとして本件映画の著作者と認定されています(16条本文)。
また、本件映画の著作権の帰属についても、原告が自己の修士卒業制作として本件映画を製作することを発案、本件映画の内容を具体的に構想し、脚本を作成し、製作に従事するスタッフを選定雇用し、これらのスタッフとの契約にかかる費用や各種経費、必要機材の購入、取材費用等を負担したものと認められるとして、原告が本件映画の製作に発意と責任を有する者に当たり、本件映画の映画製作者(2条1項10号)であると判断。
本件映画の著作者である原告が、映画製作者である原告に本件映画の製作に参加することを約束していることは明らかであるとして、本件映画の著作権はその完成時において原告に帰属していたものと認められるとしています(29条1項)。
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2 被告記述部分の作成は原告の翻案権を侵害するか
次に、被告書籍における別紙2記載の10行の記述部分の作成が、本件映画のインタビュー部分の翻案権侵害を構成するかどうかについて検討されています(15頁以下)。
1.本件インタビューの著作物性
翻案権侵害性判断の前提として裁判所は翻案の意義について言及した上で、まず、本件インタビューが著作物性を有する著作物かどうかを裁判所は検討しています。
(1)原告ナレーション部分
原告がC博士に対して質問をしたこと及びその質問の内容を短く簡潔な表現で述べたもので、思想又は感情の具体的な表現とはいえない。
(2)C博士インタビュー回答部分
C博士の発言の創作性はC博士に帰属するものであり、原告の著作物として根拠とならない。
(3)本件字幕部分
C博士回答部分を原文としてこれを日本語に翻訳したもので、その内容に係る表現はC博士回答部分に由来する。訳語及び訳文の選択において個性の表出の余地があるにとどまり、個性の表出が認められる限りにおいて、創作的表現として著作物性が認められる。
結論として、原告ナレーション部分とC博士インタビュー回答部分は原告の著作物性が認められず、本件字幕部分については、表現上の工夫を見いだすことができるとして、原告の創作的表現であるということができる点が存在すると判断されています。
2.翻案権侵害性
本件字幕部分と被告記述部分を対比すると、両者はその訳文としての具体的表現において大きく異なる、として、訳語及び訳文の選択における原告の表現上の工夫を被告記述部分から感得することはできず、両部分は、その本質的特徴を異にするものであると裁判所は判断しています(20頁以下)。
結論として、被告記述部分の作成は、本件字幕部分に係る原告の翻案権を侵害するものにあたらないとされています。
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3 被告記述部分は原告の同一性保持権を侵害するものか
翻案権侵害性が認められず、同一性保持権侵害性も認められていません(21頁以下)。
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■コメント
映画のインタビュー内容を学者が自説に有利な方向で解釈して書籍に利用したとして、原告はその不当性を著作権の観点から争点としましたが、裁判所に認められませんでした。
書籍「いのちを語る」翻案事件
東京地裁平成25.3.25平成24(ワ)4766出版差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官 小川雅敏
裁判官 森川さつき
*裁判所サイト公表 2013.5.22
*キーワード:翻案権、創作性、同一性保持権
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■事案
映画のインタビュー部分を意図しない内容で書籍に掲載されたとして翻案権侵害性などが争点となった事案
原告:ドキュメンタリー映画等製作者
被告:大学元教授
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法27条、20条、16条、29条
1 原告は本件映画の著作者及び著作権者であるか
2 被告記述部分の作成は原告の翻案権を侵害するか
3 被告記述部分は原告の同一性保持権を侵害するものか
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■事案の概要
『原告が,被告がその著者の一人である別紙書籍目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)中の被告執筆部分に,「A Man of Light」(「光の人」)と題する映画作品(以下「本件映画」という。)中の20:00(20分)から21:05(21分5秒)までの部分(以下「本件インタビュー部分」という。)に係る原告の著作権(翻案権)又は著作者人格権(同一性保持権)を侵害する部分が含まれていると主張し,著作権法112条1項に基づき,被告に対し,被告書籍の出版等の差止めを求めるとともに,著作権又は著作者人格権侵害の不法行為責任に基づく損害110万円(慰謝料100万円及び弁護士費用10万円)及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成24年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,また,著作権法115条の著作者としての名誉又は声望を回復するための適当な措置として,謝罪広告の掲載を求める事案』(2頁)
<経緯>
H13 本件映画を原告が製作
H21 被告ほか2名による被告書籍刊行
原告映画:「光の人」
被告書籍:「いのちを語る」(集英社)
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■判決内容
<争点>
1 原告は本件映画の著作者及び著作権者であるか
本件映画が日本国民である原告により米国内で製作された点に関連して、裁判所は、我が国の法律が準拠法になると言及した上で(12頁以下)、本件映画の著作者、著作権者を判断しています(13頁以下)。
結論としては、原告が本件映画の内容を具体的に構想し、脚本を作成し、映画の製作指揮を執り、演出、編集等を行っており、本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者であるとして本件映画の著作者と認定されています(16条本文)。
また、本件映画の著作権の帰属についても、原告が自己の修士卒業制作として本件映画を製作することを発案、本件映画の内容を具体的に構想し、脚本を作成し、製作に従事するスタッフを選定雇用し、これらのスタッフとの契約にかかる費用や各種経費、必要機材の購入、取材費用等を負担したものと認められるとして、原告が本件映画の製作に発意と責任を有する者に当たり、本件映画の映画製作者(2条1項10号)であると判断。
本件映画の著作者である原告が、映画製作者である原告に本件映画の製作に参加することを約束していることは明らかであるとして、本件映画の著作権はその完成時において原告に帰属していたものと認められるとしています(29条1項)。
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2 被告記述部分の作成は原告の翻案権を侵害するか
次に、被告書籍における別紙2記載の10行の記述部分の作成が、本件映画のインタビュー部分の翻案権侵害を構成するかどうかについて検討されています(15頁以下)。
1.本件インタビューの著作物性
翻案権侵害性判断の前提として裁判所は翻案の意義について言及した上で、まず、本件インタビューが著作物性を有する著作物かどうかを裁判所は検討しています。
(1)原告ナレーション部分
原告がC博士に対して質問をしたこと及びその質問の内容を短く簡潔な表現で述べたもので、思想又は感情の具体的な表現とはいえない。
(2)C博士インタビュー回答部分
C博士の発言の創作性はC博士に帰属するものであり、原告の著作物として根拠とならない。
(3)本件字幕部分
C博士回答部分を原文としてこれを日本語に翻訳したもので、その内容に係る表現はC博士回答部分に由来する。訳語及び訳文の選択において個性の表出の余地があるにとどまり、個性の表出が認められる限りにおいて、創作的表現として著作物性が認められる。
結論として、原告ナレーション部分とC博士インタビュー回答部分は原告の著作物性が認められず、本件字幕部分については、表現上の工夫を見いだすことができるとして、原告の創作的表現であるということができる点が存在すると判断されています。
2.翻案権侵害性
本件字幕部分と被告記述部分を対比すると、両者はその訳文としての具体的表現において大きく異なる、として、訳語及び訳文の選択における原告の表現上の工夫を被告記述部分から感得することはできず、両部分は、その本質的特徴を異にするものであると裁判所は判断しています(20頁以下)。
結論として、被告記述部分の作成は、本件字幕部分に係る原告の翻案権を侵害するものにあたらないとされています。
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3 被告記述部分は原告の同一性保持権を侵害するものか
翻案権侵害性が認められず、同一性保持権侵害性も認められていません(21頁以下)。
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■コメント
映画のインタビュー内容を学者が自説に有利な方向で解釈して書籍に利用したとして、原告はその不当性を著作権の観点から争点としましたが、裁判所に認められませんでした。