最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」小道具事件

東京地裁平成25.3.28平成22(ワ)31759損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官      三井大有
裁判官      小川卓逸

*裁判所サイト公表 2013.4.1
*キーワード:対抗要件、背信的悪意者、展示権、複製権

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■事案

被告らが登録しなければ著作権譲渡を対抗することができない第三者に当たるかどうかが争点となった事案

原告:韓国企業
被告:日本放送協会ら

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法77条

1 被告らが本件小道具等の著作権の移転登録の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない第三者に当たるか

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■事案の概要

『原告が,被告らが韓国のテレビドラマの展覧会を開催して小道具や衣装,ドラマセット等を展示し,関連グッズを販売して,原告の上記小道具等の著作権(展示権及び複製権)を侵害したと主張して,被告らに対し,民法709条,719条に基づく損害賠償金2億4918万1942円の一部である1億円及びこれに対する不法行為の日である平成19年8月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案』(1頁)

<経緯>

H15 MBCがドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」を制作、放映
H16 被告NHKが放送
H16 被告NEPとMBCがマスターライセンス契約締結
H17 原告がMBCAとの間で共同事業契約締結
H17 被告NEPがファン・ミーティング開催
H18 被告らとMBCAとの間で展覧会開催協約締結

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■判決内容

<争点>

1 被告らが本件小道具等の著作権の移転登録の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない第三者に当たるか

韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」の美術や小物のデザイン、著作権等の権利譲渡を制作会社から受けたとする原告が、被告らに対してドラマの展覧会を開催して小道具や衣装等を展示したり、関連グッズを販売したとして小道具等の著作権(展示権、複製権)を侵害したと主張しました(10頁以下)。
この点について裁判所は、著作権の移転では第三者との関係で登録による対抗要件具備が必要であるところ(著作権法77条)、原告は登録を経ていないことから、登録を経ることなく対抗できる、いわゆる背信的悪意者に被告らが当たるかどうかをまず検討しています。
結論として、被告らと制作会社MBCA(MBCの子会社で美術制作等を担当)との間の本件協約締結の時点において、原告がMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたことを被告らが認識していたことを認めるに足りる証拠はなく、原告の著作権の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があることも窺えない、として被告らが背信的悪意者に当たるということはできないと判断しています。
原告は、本件小道具等の著作権の移転登録を経由しておらず、これを被告らに対抗することができないことから、そのほかの争点を検討するまでもなく原告の請求は容れらていません。

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■コメント

著作権等の権利変動については、取引の安全から公示制度として不動産物権変動登記と同様の登録制度が設けられています(著作権法77条以下)。そして、譲渡等での対抗関係に立つ第三者の範囲については、旧法時代から判例(脚本版権屋事件 大審院大正4年3月8日判決)、学説(たとえば、榛村専一「著作権法概論」(1932)152頁以下)ともに民法177条の解釈論が採られ、いわゆる制限説のもとで不法行為者は排除されていました。民法での背信的悪意者排除論は、最判昭和43年8月2日民集22巻8号1571頁で確立し、著作権法77条での解釈でも背信的悪意者排除論が踏襲されていますが(後掲判例等参照)、本判決も同様となります。

韓国MBCの制作子会社MBCAがどのような経緯で原告と共同事業契約を締結したのか、また、MBCAが既存の契約関係に影響を及ぼさないように何故共同事業契約上配慮できなかったのか、原告とMBCAが係争中ということで、背景事情が良く分からないところです。

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■参考判例

・ダリ展事件 東京高裁平成15年5月28日平成12(ネ)4720 判決文
・キューピー事件 大阪高裁平成17年2月15日平成16(ネ)1797
判決文
・ヴォンダッチ二重譲渡事件 知財高裁平成20年3月27日平成19(ネ)10095 判決文