最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

大道芸研究会ウェブサイト事件

東京地裁平成24.12.27平成22(ワ)47569著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      高橋 彩
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2013.01.07
*キーワード:ウェブサイト、画面構成、ソースコード、著作物性、一般不法行為論

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■事案

ウェブサイトのレイアウトの著作物性が争点となった事案

原告:研究会元会員
被告:研究会会員

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項9号、民法709条

1 同一性保持権侵害の成否
2 本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の成否
3 一般不法行為の成否

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■事案の概要

『「大道芸研究会」と称する団体(以下,単に「大道芸研究会」という。)の元会員である原告が,原告が開設し,管理していた「大道芸研究会」と題するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)の別紙原告画面目録1ないし7記載の各画面(以下「本件各画面」と総称し,それぞれを「本件画面1」,「本件画面2」などという。)及びそのソースコード(HTMLソースコード)は,原告を著作者とする著作物であり,大道芸研究会の会員である被告が,別紙被告画面目録1ないし7記載の各画面(以下「被告各画面」と総称し,それぞれを「被告画面1」,「被告画面2」などという。)を作成し,自己の管理するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)に掲載した行為は,上記著作物について原告が保有する同一性保持権(著作権法20条1項)を侵害する行為に該当し,仮にそうでないとしても,被告の上記掲載に至る一連の行為は原告の法的保護に値する利益を侵害する一般不法行為を構成する旨主張して,被告に対し,損害賠償の支払を求めた事案』(1頁以下)

<経緯>

H12    原告が研究会ウェブサイトを開設
H22.01 原告が研究会副会長辞任、休会を表明
H22.02 被告が研究会ウェブサイトを開設

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■判決内容

<争点>

1 同一性保持権侵害の成否

原告がMS社のフロントページエクスプレスで作成した研究会ウェブサイトの7点の画面のデザインレイアウトについて、被告が被告作成の研究会ウェブサイトで無断で改変利用したとして同一性保持権侵害を争点としました(9頁以下)。
この点について、裁判所は、まず、著作権法で保護される著作物(2条1項1号)の意義に触れ、問題となった研究会のような団体のウェブサイトの性質について以下のように言及しています。
『団体に関する各種の情報を掲載し,広報等の目的で開設された団体のウェブサイトのホームページ(ウェブページ)の画面構成においては,(1)団体名を画面の上に太文字で配置すること,(2)各ページの掲載内容を示すタイトル欄をページごとに設けること,(3)各記載内容にタイトルを設けること,(4)タイトルを枠や図形の中に配置すること,(5)画面上に,各種の大きさの枠を設けてその中に,あるいは枠を設けずに,更新内容,団体の連絡先,団体の説明,団体の活動内容及び入会に関する情報等の団体のホームページとして必要な内容を掲載すること,(6)写真を中央に大きく掲載したり,小さめの写真複数枚を並べて掲載すること,(7)写真に近接して写真の説明等を配置すること,(8)画面内に他のページへのリンクの案内ボタンを複数並べて配列し,あるいは,単独で配置すること,(9)図柄の背景や単色の背景を使用すること,(10)文字・枠・背景に各種の色や柄を用いることは,いずれも一般的に行われていることであり(乙11ないし15,弁論の全趣旨),ありふれた表現であるといえる』(11頁)
その上で、各画面について検討していますが、いずれも上記諸点のいくつかに該当するもので、一般的なものであってありふれたものであり、表現上の創作性があるものと認めることができないと判断しています。
結論として、本件各画面は原告の著作物と認められず、原告の同一性保持権侵害の主張は認められていません。

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2 本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の成否

原告は、各画面のソースコードが原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、全体として原告を著作者とするプログラムの著作物(著作権法10条1項9号)に該当する旨主張しました(19頁以下)。
この点について裁判所は、プログラムを著作権法上の著作物として保護するためにはプログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され、その作成者の個性が表れていることが必要であると示した上で、本件ソースコードは、原告がフロントページエクスプレスを使用して本件各画面を作成するに伴ってそのソフトウェアの機能により自動的に生成されたHTMLソースコードであって、原告自らが本件ソースコードそれ自体を記述したものではないことからすると、本件ソースコードの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現され、その個性が表れているものとは認められないと判断。
原告の本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の主張の点も認めていません。

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3 一般不法行為の成否

原告は、ウェブサイト画面等の作成に多大な時間と労力を費やしており、被告が本件各画面及び本件ソースコードをコピーして利用する行為は他人の労力へのただ乗り行為であること、また、大道芸研究会で生じた内紛で対立関係にあった被告には原告はデータを一切使われたくないと強く思っていた点を踏まえ、一般不法行為の成立を主張しました(20頁以下)。
この点について、裁判所は、
『著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしていることに照らすならば,同法所定の著作物に該当しないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の独占的な利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である』
として、北朝鮮映画事件最高裁判決(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決)を踏まえた上で検討を加えています。
原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益は、著作権法が規律の対象とする独占的な利用の利益をいうものにほかならず、原告が多大な時間と労力を費やして本件各画面及び本件ソースコードを作成したとしても、被告の上記一連の行為は原告に対する不法行為を構成するものとみることはできないと判断。
また、仮に原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益が法的保護に値する利益であるとしても、被告が原告に代わって本件ウェブサイトの管理を引き継いだ経緯などからすれば、被告の一連の行為が社会的に許容される限度を超える違法な行為であると認めることはできない、としています。
結論として、一般不法行為の成立についても否定しています。

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■コメント

問題となった研究会のサイトと思われる画面を拝見すると、全体として単純なデザイン、構成で個々のコンテンツの著作権を問題にするのであればともかく、サイトデザイン自体の著作物性を争うには困難であった事案という印象です。

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■過去のブログ記事

ウェブサイト上のタブメニュー配置や広告用文章の無断複製等が争点となった事案について、
SOSデータ事件 知財高裁平成23.5.26平成23(ネ)10006損害賠償等請求控訴事件
2011年06月03日記事