最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

撹拌造粒装置設計図事件

大阪地裁平成24.12.6平成23(ワ)2283不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      松川充博
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2012.12.12
*キーワード:設計図面の著作物性、営業秘密性、秘密保持契約

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■事案

撹拌造粒装置設計図の著作物性や営業秘密性が争点となった事案

原告:粉体機器装置開発製造販売会社
被告:板金加工業会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、10条1項6号、不正競争防止法2条1項7号、2条6項

1 被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか
2 原告製品図面等の著作物性及び複製権又は翻案権侵害の有無
3 営業秘密性及び開示又は使用の有無
4 本件基本契約上の秘密保持義務違反

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■事案の概要

『原告は,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属することから,被告製品又はその構成部品を製造,販売することが,本件特許権を侵害するとともに,原告製品図面に係る複製権又は翻案権を侵害し,さらに被告製品には,原告から被告に示された原告製品図面中の営業秘密が,被告からフロイントに不正に開示された上,使用されており,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為に該当するとして,被告に対し,本件特許権,原告製品図面に係る著作権又は不正競争防止法3条に基づき,被告製品及びその構成部品のうち別紙物件目録2記載の部品の製造,販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,本件特許権若しくは原告製品図面に係る著作権侵害の不法行為,不正競争防止法4条又は本件基本契約上の秘密保持義務違反に基づき,1000万円の損害賠償及びこれに対する平成23年3月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている』事案(6頁)

<経緯>

S53  原告が被告に部品等の製作を委託
H16.07原被告間で取引基本契約書を締結
H21.08被告が最後の製品を納入、取引停止
H21.09被告がフロイントと製造委託契約締結
H22.06フロイントが展示会に試作品を出展、原告が試作品を目視確認
H23.04被告がフロイントから委託を受けて製造、GM−25を納入

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■判決内容

<争点>

1 被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか

原告は、攪拌造粒装置である被告製品が原告の保有する特許権(第3164600号)の技術的範囲に属することから、被告製品又はその構成部品を製造販売することが本件特許権を侵害すると主張しました。
しかし、裁判所は、被告製品は構成要件AからDのうち、Dの「攪拌羽根の先端部を基端部に対して回転方向に先行させたことを特徴とする攪拌造粒装置」の構成要件を充足しないとして本件特許発明の技術的範囲に属さないと判断。特許権侵害性を否定しています(21頁以下)。

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2 原告製品図面等の著作物性及び複製権又は翻案権侵害の有無

原告は、原告製品図面等が著作物であることを前提に、被告が原告製品図面を使用して被告製品又はその構成部品の製造販売を行っており、原告製品図面に係る原告の複製権又は翻案権を侵害する旨主張しました(27頁以下)。

(1)原告製品図面の著作物性

原告製品図面は通常の作図法に従って記載されているところ、原告は設計図面のうちどの部分が著作物性を有するのか、また、その理由について具体的な主張をしていないとして、裁判所は原告製品図面の著作物性を否定しています。

(2)原告製品図面の複製、翻案

建築物の場合(著作権法2条1項15号ロ)を除いて、学術的な性質を有する図面(10条1項6号)から製品を製造することは複製や翻案には当たらないとして、裁判所は複製権、翻案権侵害性を否定しています。

そのほか、原告は、原告製品の仕様書等の著作権侵害性を主張しましたが、著作物性の点から否定されています。

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3 営業秘密性及び開示又は使用の有無

原告は、原告製品図面に記載されたノウハウ等が原告の営業秘密に該当する旨主張しました(28頁以下)。
しかし、裁判所は、原告主張のノウハウについては、「別紙ノウハウ一覧表記載のとおり,いずれも原告製品の形状・寸法・構造に関する事項で,原告製品の現物から実測可能なものばかりである。そして,このような形状・寸法・構造を備えた原告製品は,被告がフロイントから攪拌造粒機の製造委託を受けた平成21年9月30日よりも前から,顧客に特段の守秘義務を課すことなく,長期間にわたって販売されており,さらには中古市場でも流通している」などとして、非公知性の要件を欠くと判断。営業秘密該当性(不正競争防止法2条6項)を否定しています。

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4 本件基本契約上の秘密保持義務違反

原告は、被告が原告製品図面をフロイントに開示した行為が本件基本契約35条の規定する秘密保持義務に違反するものである旨主張しました(31頁以下)。
この点について裁判所は、公知のものは明示で除外されており、また、契約終了後も5年間の秘密保持義務が課されることからすると、対象となる秘密は営業秘密の定義(不正競争防止法2条6項)に該当するものと解するのが相当であると判断。争点3と同様、営業秘密該当性が否定されることから、被告の秘密保持義務違反は認められないとしています。

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■コメント

過去に取引があった事業者間での紛争となります。平成16年7月1日に締結された取引基本契約書によると、権利の帰属関係に関して法人著作を規定したり(26条)、他社との取引を大幅に制限したり(36条)と、発注者側の強い立場が透けて見えてきます。
設計図面の著作物性の部分について詳しい主張立証がされていないため、どのような図面であったか判決文からはよく分かりません。