最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
テレビCM原版事件(控訴審)
知財高裁平成24.10.25平成24(ネ)10008各損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 八木貴美子
裁判官 小田真治
*裁判所サイト公表 2012.10.30
*キーワード:映画の著作物、著作者、映画製作者、著作権の帰属、黙示の合意、慣習
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■事案
テレビCM原版の著作権の帰属などが争点となった事案の控訴審
原告(控訴人) :映像企画制作会社
被告(被控訴人):広告代理店、原告元取締役Y
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法21条、2条3項、16条、2条1項10号、29条
1 本件各CM原版の著作権の帰属等
2 黙示の合意又は慣習法に基づく権利の侵害
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■事案の概要
『原告は,被告アドックに対し,株式会社ケーズホールディングス(旧商号はギガスケーズデンキ株式会社。以下「デーズデンキ」という。)の新店舗告知の本件ケーズCM原版及びこれを使用した本件ケーズ旧CM原版を制作したことにより,本件ケーズCM原版の著作権を取得したと主張して,被告アドックの以下の行為,すなわち,本件ケーズCM原版を使用して新たに本件ケーズ新CM原版を制作し,そのプリント(CM原版のコピー)を作成した行為,及び本件ケーズ旧CM原版のプリントを作成した行為が,原告の有する著作権(複製権)を侵害するとして,不法行為に基づく損害賠償金604万5500円及びこれに対する内金134万3000円に対する不法行為の後の日である平成20年11月1日から,内金470万2500円に対する不法行為の後の日である平成21年1月23日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め』るなどした。
『原審は,原告が本件各CM原版の著作権を有しないとして,原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも棄却し,また,被告Yに原告主張の善管注意義務・忠実義務違反があったとはいえないとして,被告Yに対する債務不履行に基づく損害賠償請求を棄却した。
原告は,これを不服として,控訴を提起した。また,原告は,当審において,原告と株式会社電通(以下「電通」という。)間の黙示の合意又は慣習法に基づく原告の「プリント業務を独占的に受注できる権利」を被告らが不当に侵害した行為が被告らの不法行為及び被告Yの債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義務違反)に該当するとの主張を追加した 』事案(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件各CM原版の著作権の帰属等
(1)本件ケーズCM原版
本件ケーズCM原版の著作権の帰属について、裁判所は、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるケーズデンキであると認めるのが相当であるとして、映画製作者は広告主であると認定しています(10頁以下)。
なお、原告が広告映像と劇場用映画の相違から、本件ケーズ原版について著作権法29条1項の適用は排除されると主張した点について、裁判所は、本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上、その製作目的が商品の販売促進等であることを理由として、同CM原版について同法29条1項の適用が排除されるとする原告の主張は、その主張自体失当であり、採用の余地はないと判断。
また、具体的な製作目的、製作経緯等を検討しても、
『本件ケーズCM原版についてみると,同原版は,15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること(乙2,3,12),他方,製作者たる広告主は,原告及び被告アドックに対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮するならば,同CM原版について同法29条1項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が,劇場用映画とは,利用期間,利用方法等が異なるとしても,そのことから,広告映像につき同法29条1項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。 』
として、29条1項の規定の適用を排除すべき格別の理由はないとしています。
さらに、原告が、本件のような広告映像の場合、制作会社がCM原版のプリント(複製)を受注し、その収益により制作費の不足分を補うという商習慣が確立しており、本件ケーズCM原版に係る複製権は原告に帰属する旨主張した点について、裁判所は、制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても、本件において、原告が、当然にそのプリント代で制作費の填補を受ける権利を有していると認定することはできないと判断しています。
(2)本件ブルボンCM原版
本件ブルボンCM原版の著作権の帰属について、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるブルボンであると認めるのが相当であるとして、映画製作者は広告主であると認定しています(12頁以下)。
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2 黙示の合意又は慣習法に基づく権利の侵害
原告は、控訴審で、
『プリント業務は当該CMを制作した制作会社に発注するのが,CM業界の一般的な慣習である。電通では,特段の事情のない限り,プリント業務は制作会社に発注することになっており,電通と原告は,本件各CM原版の制作に関する契約においても,プリント業務は原告に発注することを黙示に合意していた。仮に,個別の合意が認められないとしても,原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在している。
したがって,原告は,電通との間の合意又は慣習法により,電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していた。しかるに,被告アドックは,電通ないし電通の部長であるE及び被告Yと共謀して,電通からプリント業務を受注し,よって,原告の上記権利を侵害した。この行為は,共同不法行為に該当する。』旨追加して主張しました(8頁)。
しかし、裁判所は、制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても、本件において電通と原告間に本件各CM原版のプリント業務について、原告に独占的に発注する旨の黙示の合意が成立していたと認めるに足りる証拠はなく、また、原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在すると認めるに足りる証拠もないと判断。原告が電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたとは認められないとしています(13頁)。
結論として、原審同様、本件各CM原版の著作権は原告にはなく、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求は認められていません。
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■コメント
業界慣行が法的保護に値する権利や利益を有するものとして裁判所に認定されるには、高いハードがあることがよく分かる事案です。
いわゆる動画であれば、ゲームコンテンツであっても著作権法上、映画の著作物として取り扱われるので、沿革的に劇場用映画を想定して独特の規定を置く著作権法の規定の適用があることに異業界が違和感を持ってもおかしくないところではあります。
なお、広告制作においてスチルカメラマンや制作会社、エージェントは、スチルからムービーへと取り扱う業務内容が変化してきているので、新規分野の広告制作業務にあたっては、権利処理について注意が必要になります。
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■過去のブログ記事
2012年2月1日記事 原審
テレビCM原版事件(控訴審)
知財高裁平成24.10.25平成24(ネ)10008各損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 八木貴美子
裁判官 小田真治
*裁判所サイト公表 2012.10.30
*キーワード:映画の著作物、著作者、映画製作者、著作権の帰属、黙示の合意、慣習
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■事案
テレビCM原版の著作権の帰属などが争点となった事案の控訴審
原告(控訴人) :映像企画制作会社
被告(被控訴人):広告代理店、原告元取締役Y
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法21条、2条3項、16条、2条1項10号、29条
1 本件各CM原版の著作権の帰属等
2 黙示の合意又は慣習法に基づく権利の侵害
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■事案の概要
『原告は,被告アドックに対し,株式会社ケーズホールディングス(旧商号はギガスケーズデンキ株式会社。以下「デーズデンキ」という。)の新店舗告知の本件ケーズCM原版及びこれを使用した本件ケーズ旧CM原版を制作したことにより,本件ケーズCM原版の著作権を取得したと主張して,被告アドックの以下の行為,すなわち,本件ケーズCM原版を使用して新たに本件ケーズ新CM原版を制作し,そのプリント(CM原版のコピー)を作成した行為,及び本件ケーズ旧CM原版のプリントを作成した行為が,原告の有する著作権(複製権)を侵害するとして,不法行為に基づく損害賠償金604万5500円及びこれに対する内金134万3000円に対する不法行為の後の日である平成20年11月1日から,内金470万2500円に対する不法行為の後の日である平成21年1月23日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め』るなどした。
『原審は,原告が本件各CM原版の著作権を有しないとして,原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも棄却し,また,被告Yに原告主張の善管注意義務・忠実義務違反があったとはいえないとして,被告Yに対する債務不履行に基づく損害賠償請求を棄却した。
原告は,これを不服として,控訴を提起した。また,原告は,当審において,原告と株式会社電通(以下「電通」という。)間の黙示の合意又は慣習法に基づく原告の「プリント業務を独占的に受注できる権利」を被告らが不当に侵害した行為が被告らの不法行為及び被告Yの債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義務違反)に該当するとの主張を追加した 』事案(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件各CM原版の著作権の帰属等
(1)本件ケーズCM原版
本件ケーズCM原版の著作権の帰属について、裁判所は、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるケーズデンキであると認めるのが相当であるとして、映画製作者は広告主であると認定しています(10頁以下)。
なお、原告が広告映像と劇場用映画の相違から、本件ケーズ原版について著作権法29条1項の適用は排除されると主張した点について、裁判所は、本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上、その製作目的が商品の販売促進等であることを理由として、同CM原版について同法29条1項の適用が排除されるとする原告の主張は、その主張自体失当であり、採用の余地はないと判断。
また、具体的な製作目的、製作経緯等を検討しても、
『本件ケーズCM原版についてみると,同原版は,15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること(乙2,3,12),他方,製作者たる広告主は,原告及び被告アドックに対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮するならば,同CM原版について同法29条1項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が,劇場用映画とは,利用期間,利用方法等が異なるとしても,そのことから,広告映像につき同法29条1項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。 』
として、29条1項の規定の適用を排除すべき格別の理由はないとしています。
さらに、原告が、本件のような広告映像の場合、制作会社がCM原版のプリント(複製)を受注し、その収益により制作費の不足分を補うという商習慣が確立しており、本件ケーズCM原版に係る複製権は原告に帰属する旨主張した点について、裁判所は、制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても、本件において、原告が、当然にそのプリント代で制作費の填補を受ける権利を有していると認定することはできないと判断しています。
(2)本件ブルボンCM原版
本件ブルボンCM原版の著作権の帰属について、これを製作する意思を有し、当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり、かつ、当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては、広告主であるブルボンであると認めるのが相当であるとして、映画製作者は広告主であると認定しています(12頁以下)。
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2 黙示の合意又は慣習法に基づく権利の侵害
原告は、控訴審で、
『プリント業務は当該CMを制作した制作会社に発注するのが,CM業界の一般的な慣習である。電通では,特段の事情のない限り,プリント業務は制作会社に発注することになっており,電通と原告は,本件各CM原版の制作に関する契約においても,プリント業務は原告に発注することを黙示に合意していた。仮に,個別の合意が認められないとしても,原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在している。
したがって,原告は,電通との間の合意又は慣習法により,電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していた。しかるに,被告アドックは,電通ないし電通の部長であるE及び被告Yと共謀して,電通からプリント業務を受注し,よって,原告の上記権利を侵害した。この行為は,共同不法行為に該当する。』旨追加して主張しました(8頁)。
しかし、裁判所は、制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても、本件において電通と原告間に本件各CM原版のプリント業務について、原告に独占的に発注する旨の黙示の合意が成立していたと認めるに足りる証拠はなく、また、原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在すると認めるに足りる証拠もないと判断。原告が電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたとは認められないとしています(13頁)。
結論として、原審同様、本件各CM原版の著作権は原告にはなく、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求は認められていません。
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■コメント
業界慣行が法的保護に値する権利や利益を有するものとして裁判所に認定されるには、高いハードがあることがよく分かる事案です。
いわゆる動画であれば、ゲームコンテンツであっても著作権法上、映画の著作物として取り扱われるので、沿革的に劇場用映画を想定して独特の規定を置く著作権法の規定の適用があることに異業界が違和感を持ってもおかしくないところではあります。
なお、広告制作においてスチルカメラマンや制作会社、エージェントは、スチルからムービーへと取り扱う業務内容が変化してきているので、新規分野の広告制作業務にあたっては、権利処理について注意が必要になります。
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■過去のブログ記事
2012年2月1日記事 原審