最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「霊言」DVD複製頒布事件

東京地裁平成24.9.28平成23(ワ)9722損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀 滋
裁判官      小川雅敏
裁判官      森川さつき

*裁判所サイト公表 2012.10.08
*キーワード:著作物性、映画の著作物、引用、時事の事件の報道、権利濫用

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■事案

宗教法人が製作した動画映像について、その複製頒布が引用等にあたるかどうかが争点となった事案

原告:宗教法人
被告:原告代表役員の配偶者

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、2条3項、16条、2条1項10号、29条1項、32条1項、41条、114条の5、民法1条3項

1 本件各霊言の著作物性の有無
2 本件各霊言の著作権が原告に帰属するか
3 本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用に当たるか
4 本件複製頒布行為が著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるか
5 原告の著作権の行使が権利濫用に当たるか
6 差止め請求の成否
7 原告の損害及び損害額

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■事案の概要

『宗教法人である原告が,その代表役員の配偶者である被告に対し,別紙著作物目録記載の各動画映像(以下,同目録記載の番号順に「本件霊言1」「本件霊言2」といい,これらを併せて「本件各霊言」という。また,本件各霊言を収録したDVDを「本件DVD」という場合がある。)について,原告の著作権(複製権,頒布権)が侵害された旨主張して,(1)著作権法112条1項に基づく差止請求として,本件DVD,その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止,(2)不法行為に基づく損害賠償請求として1028万3500円の一部である1000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成23年4月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H23.2 被告が原告らに対して名誉毀損を理由とする損害賠償請求訴訟を提起
H23.2 被告が記者会見を開催、出席者全員に本件DVDとCD−Rを送付

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■判決内容

<争点>

1 本件各霊言の著作物性の有無

被告は、本件DVDとその活字起こしのワープロソフトデータファイルが収められたCD−Rを複製し、平成23年2月26日付け書簡を同封した上で宅配便により原告代表役員らに対する名誉毀損訴訟提起の記者会見の出席者全員に対して本件DVDとCD−Rを送付して頒布しました。
原告代表役員らの宗教行為を動画撮影して物に固定した本件各霊言について、その著作物性(著作権法2条1項1号)がまず争点となっています。
裁判所は、題名、主題、列席者及び全体の構成を決定した原告代表役員の個性が表現されているとして、思想又は感情を創作的に表現したものであると認めています。
結論として、本件各霊言は、映画の著作物(2条3項)と認められています(31頁以下)。

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2 本件各霊言の著作権が原告に帰属するか

(1)本件各霊言の著作者

まず、本件各霊言の著作者について、裁判所は、本件各霊言は、原告代表役員が題名、主題、列席者及び全体の構成を決定したのであるから、原告代表役員が本件各霊言の「制作、監督、演出…を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法16条本文)であると認めています(36頁以下)。

(2)本件各霊言の映画製作者

そして、本件各霊言の映画製作者(著作権法2条1項10号)については、「映画の著作物を製作する意思を有し,当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者と解するのが相当である」(36頁)とした上で、本件各霊言を製作する意思を有し、本件各霊言の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体は、原告であると認めるのが相当であるから、原告が本件各霊言の映画製作者であると裁判所は判断しています。

(3)本件各霊言の著作権

原告代表役員は、本件各霊言の題名、主題、列席者及び全体の構成を決定し、自ら列席者と対話しているのであるから、原告代表役員が原告に対して本件各霊言の製作に「参加することを約束」(著作権法29条1項)していたと認めるのが相当であると裁判所は判断しています(36頁以下)。

結論として、本件各霊言の著作者は原告代表役員であり、本件各霊言の映画製作者は原告であり、本件各霊言の著作者である原告代表役員は、本件各霊言の映画製作者である原告に対して本件各霊言の製作に参加することを約束しており、本件各霊言の著作権は原告に帰属すると判断されています(著作権法29条1項)。

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3 本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用に当たるか

被告は、本件複製頒布行為が32条1項の引用に当たるとして、名誉毀損訴訟の提訴記者会見における説明、批判、反論等(説明資料である「訴状の概要」を含む)が引用表現であり、本件各霊言が被引用著作物であると主張しました(37頁以下)。
この点について、裁判所は、複製頒布物が1日又は数日の時間的間隔を置いて伝えられ、また伝達媒体も異なることから引用に当たらないと解する余地もあるとしながらも、「仮に」として引用の成否を判断しています。
そして、引用が目的上正当な範囲で行われたかどうかについて、裁判所は、被告が名誉毀損と主張する部分が、本件各霊言の一部にすぎないことや、名誉毀損とは関係のない内容も多数含まれていることから、本件各霊言全体を複製・頒布して利用した本件複製頒布行為について、説明、批判、反論等の目的との関係で、社会通念に照らして正当な範囲の利用であると解することはできないと判断、さらに公正な慣行にも合致しないとして引用の成立を認めていません。

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4 本件複製頒布行為が著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるか

被告は、本件各霊言による名誉毀損事件という時事の事件の当事者(被害者)として、事件報道に従事する報道機関等に対し記者会見を開催して事実関係を説明し報道を促すに当たって、当該事件を構成する著作物である本件各霊言を収録した本件DVDを提供したものであるから、自ら報道の目的上正当な範囲内において著作物を複製したものとして、著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の適用を受けると主張しました(44頁以下)。
この点について裁判所は、
『著作権法41条は,時事の事件を報道する場合には,その事件を構成する著作物を報道することが報道目的上当然に必要であり,また,その事件中に出現する著作物を報道に伴って利用する結果が避け難いことに鑑み,これらの利用を報道の目的上正当な範囲内において認めたものである。このような同条の趣旨に加え,同条は「写真,映画,放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合」と規定するのであるから,同条の適用対象は報道を行う者であって,報道の対象者は含まれないと解するのが相当である。
 そうすると,被告は,本件記者会見を行ったことが認められるものの,本件記者会見についての報道を行った者ではないから,著作権法41条の適用はないというべきである。』(44頁)
として、41条の適用を否定しています。

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5 原告の著作権の行使が権利濫用に当たるか

被告は、原告の権利主張の目的は、著作権もしくは著作権法が想定する著作物の財産的価値の維持・擁護に向けられたものではなく、もっぱら被告の正当な言論活動、原告が著作権を標榜する名誉毀損的言辞に対する反論を表面上著作権行使に名を借りて抑圧、妨害する目的に出たものであることなどを指摘して、原告の著作権の行使が権利濫用であると主張しました(45頁以下)。
しかし、裁判所は、抑圧、妨害する目的を認めるに足りる証拠もないなどとして、権利濫用の主張を認めていません。

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6 差止め請求の成否

被告による本件複製頒布行為が原告の有する著作権(複製権、頒布権)を侵害するものとされ、本件DVD、その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止を求める著作権法112条1項に基づく差止請求が認められています(46頁)。

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7 原告の損害及び損害額

原告は、被告による複製頒布行為により本件各霊言がインターネット等に流出する危惧を持ち、インターネット監視業者に監視業務を依頼して28万3500円の費用を支払った点で損害があると主張しました。
しかし、裁判所は、被告の違法行為との間に相当因果関係のある損害と認めることはできないと判断しています(47頁以下)。
そして、本件DVDが頒布を予定していなかったことから、著作権法114条の5に基づき相当な損害額として30万円を認定しています。
そのほか、弁護士費用相当額として30万円が認められています。

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■コメント

引用(32条1項)の成否について記者会見当日ではない後日の配布資料について問題となった点や時事の事件の報道(41条)の成否について報道の主体性が判断されている点が参考になる事案です。
報道の自由利用については、著作権法上、39条(時事問題に関する論説の転載等)や40条(政治上の演説等の利用)、また32条でも「報道」目的の引用が規定されていますが、ベルヌ条約や旧法を踏まえた41条の沿革からすれば、41条の自由利用は記者会見する側の者への適用場面ではないと考えられます。

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■参考文献

半田正夫、松田政行編「著作権法コンメンタール2」(2009)337頁以下
加戸守行「著作権法逐条講義五訂新版」(2006)286頁以下