最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「北朝鮮の極秘文書」損害賠償請求事件(控訴審)

知財高裁平成24.9.10平成24(ネ)10022損害賠償請求、謝罪広告掲載等反訴請求控訴、同附帯控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      池下 朗
裁判官      古谷健二郎

*裁判所サイト公表 2012.9.28
*キーワード:編集著作物性、複製権、翻案権、譲渡権、侵害みなし行為、消滅時効、名誉毀損

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■事案

朝鮮史資料集の無断掲載書籍の著作権侵害性や名誉毀損の成否が争点となった事案の控訴審

控訴人兼附帯被控訴人:作家
被控訴人兼附帯控訴人:出版社、出版社元代表取締役

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■結論

本訴一部変更・反訴棄却、附帯控訴棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項、27条、26条の2、19条、20条、113条1項2号、民法724条

1 原告書籍収録文書の編集著作物該当性、翻案権侵害の有無、著作者人格権侵害の有無
2 被告らが韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか
3 被告らが著作権等侵害の「情を知って」韓国書籍を販売したか
4 消滅時効の成否
5 原告の損害
6 不当利得の有無
7 反訴請求について

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■事案の概要

『原告は,次の原告書籍につき編集著作物の著作権を有すると主張し,韓国の高麗書林名義で出版された次の韓国書籍について,原告に無断で原告書籍の一部を掲載したものであり,被告らが韓国の高麗書林と共謀して同書籍を製作・販売したことにより著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)が侵害されたなどと主張して,被告会社と,韓国書籍が出版された当時の被告会社の代表取締役であった被告 Y に対し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得返還を請求する(本訴事件)。』

『これに対し,被告らは,原告の執筆した日刊・大阪日日新聞の記事や,原告が朝鮮史研究会の会場において来場者に配布したビラ等に,被告らが原告書籍を無断で盗用し,著作権侵害の海賊版(韓国書籍)を製作・販売したかのような内容が記載されていることによって,名誉及び信用を毀損されたと主張して,謝罪広告の掲載と不法行為に基づく損害賠償を求めている(反訴事件)。』

『原判決は,本訴につき,多数の文書を収録した部分(原告書籍収録文書)と原告が執筆した解説文(原告書籍解説)からなる原告書籍に関して,原告書籍収録文書が編集著作物であることと,韓国書籍の解説文が原告書籍解説の翻案であることを認めた上で,被告らには韓国書籍を販売したことについて過失があるとして譲渡権侵害の不法行為を認め,30万円の限度で請求を認容した。反訴については,記事等の内容が真実であると信ずるについて相当の理由があったとはいえないとして,損害賠償請求を各33万円の限度で認容し,謝罪広告請求はその必要がないとして棄却した。』(3頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 原告書籍収録文書の編集著作物該当性、翻案権侵害の有無、著作者人格権侵害の有無

控訴審でも、原告書籍収録文書は編集著作物であって韓国書籍収録文書は原告書籍収録文書の複製物に当たり、また、韓国書籍解説は原告書籍解説の翻案権、さらに著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するものと判断しています(7頁)。

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2 被告らが韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか

被告らと韓国高麗書林との深い関係を示す多数の間接事実が認められるとしながらも、被告らが韓国書籍の製作について、韓国高麗書林と共謀、共同、協力等をしたことに関する具体的な事実を認定するに足りる証拠はないとして、原審同様、控訴審は被告らが共謀して韓国書籍を製作したことを原因としては原告の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したと認めていません(7頁以下)。

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3 被告らが著作権等侵害の「情を知って」韓国書籍を販売したか

韓国書籍について、韓国高麗書林が他人の著作権及び著作者人格権を侵害する行為によって作成した物であることを被告らは認識した上で、これを輸入・販売していたと認めるべきであるとして、控訴審は、韓国書籍の輸入・販売に係る著作権法113条1項2号(侵害みなし行為)に基づく権利侵害を認めています(11頁以下)。

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4 消滅時効の成否

消滅時効の成否について、控訴審は、著作権法113条1項2号に関しては、単に侵害品を販売したというだけでは侵害とみなされず、「情を知って」販売した場合に初めて侵害とみなされるのであるから、単に侵害品が販売されている事実を認識しただけで権利行使が可能になったということはできないと説示。そして、被告らの主張する平成14年4月4日以後の時点において、被告らが「情を知って」販売したことまで原告が認識し得たことを認めるに足りる証拠はないとして、消滅時効の成立を否定しています(13頁)。

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5 原告の損害

(1)著作権侵害による損害
(ア)逸失利益 312万3759円(114条1項)
(イ)実損、慰謝料 否定
(ウ)弁護士費用 31万円
(2)著作者人格権侵害による慰謝料 20万円

以上の合計として、363万3759円が損害額として認定されています(13頁以下)。

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6 不当利得の有無

原審同様、不当利得の主張は認められていません(15頁)。

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7 反訴請求について

原審同様、控訴審でも本件新聞記事及び本件ビラ等が被告らの名誉ないし信用を毀損するものと判断されています。
もっとも、その内容が真実であると信ずるについて相当の理由があったとして、違法性がないと判断。反訴請求は認められていません(15頁以下)。

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■コメント

原審では、本訴請求について113条1項2号の侵害みなし行為性が否定されて譲渡権侵害性の限りで侵害性が肯定されていましたが、控訴審では侵害みなし行為性が肯定されて著作権侵害だけでなく著作者人格権侵害も肯定されています(なお、控訴審では、譲渡権侵害の請求については、選択的併合関係にあるとして判断されていません)。
また、名誉・信用毀損を争点とする反訴請求についても、原審の判断とは異なりその成立が否定されています。

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■過去のブログ記事

2012年2月23日記事 原審