最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ホームページ制作不正競業事件

東京地裁平成24.3.28損害賠償請求事件平成21(ワ)5848PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本 岳
裁判官      坂本康博
裁判官      寺田利彦

*裁判所サイト公表 2012.04.02
*キーワード:営業秘密、秘密保持契約、著作物性

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■事案

銀行融資の際の事業計画書などの著作物性が争点となった事案

原告:経営コンサルティング会社、原告代表取締役
被告:原告元従業員、元従業員親族、元アルバイト、外国為替取引業会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、不正競争防止法2条1項4号、7号、8号、9号、6項

1 不正競業、兼職
2 横領、背任
3 営業妨害、業務懈怠
4 情報管理義務違反
5 著作権侵害
6 営業秘密の侵害
7 原告らの被害回復に対する妨害行為
8 契約の不当破棄に該当する行為
9 無形損害

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■事案の概要

『本件は,被告らが,(1)不正競業,兼職,(2)横領,背任,(3)営業妨害,業務懈怠,(4)情報管理義務違反,(5)著作権侵害,(6)営業秘密の侵害,(7)原告らの被害回復に対する妨害行為,(8)契約の不当破棄に該当する行為を行ったとして,
(1)原告らが,被告Y1(以下「被告Y1」という。),被告Y3(以下「被告Y3」という。),被告Y4(以下「被告Y4」という。),被告マネースクウェア・ジャパン(以下「被告会社」という。)に対し,上記(1),(3),(4),(7)の行為が同被告らの共同不法行為に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償金,
(2)原告イーグルワンエンタープライズ(以下「原告会社」という。)が,被告Y1,被告Y4に対し,上記(2)の行為が同被告らの共同不法行為に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償金,
(3)原告会社が,被告Y1,被告Y4に対し,上記(1),(2),(3),(4),(7)の行為が債務不履行に当たるとして,債務不履行に基づく損害賠償金(この請求と上記(1),(2)の被告Y1,被告Y4に対する請求は選択的併合の関係にある。),
(4)原告会社が,被告会社に対し,上記(8)の行為が不法行為又は債務不履行に当たるとして,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償金(両請求は選択的併合の関係にある。),
(5)原告会社が,被告Y1,被告Y3,被告Y4,被告会社に対し,上記(5),(6)の行為が不法行為に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償金,
(6)原告会社が,被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し,身元保証契約に基づく保証債務の履行としての損害賠償金,
及び上記(1)−(6)の各損害賠償金に対する平成20年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案』(4頁以下)

<経緯>

H18.5 被告Y4が焼肉店でアルバイト
H18.6 被告Y1が原告会社の業務に従事
H19.12原告会社と被告会社がコンサル契約

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■判決内容

<争点>

1 不正競業、兼職

ホームページ制作業務などに係わる不正競業や兼職禁止違反に関して、まず、被告Y1については、裁判所は、(1)原告会社との間の本件秘密保持の合意違反の有無が問題となるのは平成18年6月頃より後の行為であり、(2)競業避止義務違反、兼職禁止義務違反の有無が問題となるのは、原告会社との雇用契約締結(平成19年12月21日頃)後の行為であると認定した上で、結論的には不法行為又は債務不履行を構成する具体的な事実が明らかではないと判断されています。

また、アルバイトに係る業務とは別に個別の請負契約に基づいて原告会社が経営する飲食店の制作物やホームページ制作を行っていた被告Y4についても、原告会社に対して競業避止義務、兼職禁止義務、秘密保持義務を負うと認めることはできず、原告らの被告Y4の不正競業行為、兼職行為に基づく請求は、いずれもその前提を欠き、理由がないと判断されています(31頁以下)。

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2 横領、背任

被告Y1、Y4の横領、背任の事実は認められていません(35頁以下)。

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3 営業妨害、業務懈怠

原告らは、被告Y1が原告会社が経営する飲食店が利用する「ぐるなび」の上位検索PRキャンペーンについて、営業妨害を行ったなどと主張しましたが、いずれも認められていません(36頁以下)。

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4 情報管理義務違反

被告Y1が被告Y4に原告会社のウェブに関する管理IDとパスワードを教えたことなどが本件秘密保持の合意に反するものと認められたものの、具体的な損害が生じたと認められず、その他の点も含め情報管理義務違反に基づく不法行為責任、債務不履行責任の成立は認められていません(41頁以下)。

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5 著作権侵害

原告らは、原告X2らが作成した文書の無断複製、翻案による著作権侵害性を争点としました。しかし、裁判所は、

・原告会社のウェブサイトのリニューアル作業に係るプレゼン資料の被告会社への提供については、複製、翻案について原告会社の包括的な合意があった。

・無料ディレクトリ登録サイト、携帯サイト向け検索エンジン、キーワード等をリスト化文書の被告会社への提供については、それが表現上の創作性を有するものとも、素材の選択、配列に創作性を有するものとも認めることはできない。また、情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものということもできないため、データベースの著作物に当たるということもできないとして、著作物性を否定。

・業務上の課題、改善事項等を箇条書きした文書については、一般的な表現で箇条書きしたものにすぎない。文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「経営面」、「運営面」、「季節飾りつけ」、「ビラ撒きマニュアル」等の項目やタイトルなどであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。

・ディレクトリ登録向けの単語、キーワード、キーワードを使用して一定の文字制限内でまとめられた一般的な紹介文案、対象店舗のURLやメールアドレスなどについては、一般的な表現で箇条書きされたものにすぎない。また、文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「タイトル」、「15文字まで」、「長文(150まで)〜中文(80文字)」、「キーワード」等の項目やタイトル、キーワードを使用して一定の文字制限内でまとめられた一般的な紹介文案などであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。

・銀行への融資のために作成された事業計画書については、一般的な事業計画書にすぎず、表現上の創作性を有するものということはできない。また、文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「基本事項」、「計画因子」、「客単価」、「売上」、「初期投資内訳」等の項目やタイトル、表の形式や書式などであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。

・店舗の開業までにやるべきことを箇条書きでまとめたリストについては、一般的なリストにすぎず、表現上の創作性を有するものということはできない。また、文書の表現と同一性、類似性を有するのは、「やること」、「コンセプト」、「メニュー確定」、「仕入先の選定」等の項目やタイトルの一部、店舗の所在地や営業時間のみであって、事実やアイデアなど表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分で共通するにすぎない。

などとして、著作権侵害に基づく原告らの主張を認めていません(43頁以下)。

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6 営業秘密の侵害

別紙D記載の各情報の営業秘密性を前提に、これを被告Y1、被告Y4が不正に取得した、又は図利加害目的で利用、開示したと原告らは主張しました。
しかし、営業秘密性その他の要件を認めるに足りる的確な証拠はないとして、裁判所は営業秘密侵害性を否定しています(49頁以下)。

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7 原告らの被害回復に対する妨害行為

原告らは、被告Y1、被告Y4、被告Y3、被告会社の代表者等が、被告らが行った不正行為に係る事実関係や責任を否定し、原告X2を愚弄して原告らの被害回復を拒否したことが不法行為に当たると主張しましたが、裁判所はこうした主張を容れていません(50頁)。

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8 契約の不当破棄に該当する行為

被告会社が、被告Y1が業務を担当することができなくなったことを理由に申し出た本件業務委託契約の解消には、正当な理由があるとして、契約の不当破棄との原告らの主張を容れていません(50頁以下)。

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9 無形損害

原告らの精神的損害に関する主張についても裁判所は認めていません(51頁)。

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■コメント

HPリニューアル業務やWebマーケティングに関するアドバイザリー業務に能力がある人材を巡っての紛争となります。
主要な論点は、秘密保持契約や営業秘密管理ですが、事業計画書の著作物性などに言及されている点が参考になります。

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■参考サイト

被告会社IR情報
株式会社 マネースクウェア・ジャパン 平成23年3月期決算短信(10頁以下)