最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

SL映像テレビ番組事件

東京地裁平成24.3.22平成22(ワ)34705損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官    山門 優
裁判官    志賀 勝

*裁判所サイト公表 2012.3.27
*キーワード:テレビ放送、映像制作、黙示の許諾、複製権、氏名表示権、過失相殺、使用料相当額

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■事案

蒸気機関車(SL)を撮影したビデオ映像放映の著作権侵害性などが争われた事案

原告:紀行作家
被告:テレビ番組制作会社、前代表取締役ら

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法21条、23条、26条、18条、19条、20条、114条3項

1 原告は被告らに対し本件ビデオ映像を編集して放送番組を制作すること及びテレビ局を通じて同番組を放送することを黙示に許諾したか
2 被告らは、本件テレビ番組に原告の氏名表示を省略すること(著作権法19条3項)ができるか
3 被告らの故意又は過失の有無
4 過失相殺の成否
5 原告の損害

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■事案の概要

『世界各地の蒸気機関車(SL)を撮影したビデオ映像の著作者及び著作権者である原告が,上記ビデオ映像が被告らによってテレビ放送用の番組に編集され,テレビ局に販売されてテレビで放映されたことにより,同ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権,頒布権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権及び公表権)が侵害されたと主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償金の内金として,各自2000万円及びこれに対する不法行為の後である平成22年10月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

H12 原告が世界各地でSLを撮影
H16 被告らが本件ビデオ映像を利用したテレビ番組制作を企画、制作、放送
H19 百円ショップでDVD販売
H22 別件訴訟に被告会社が補助参加、控訴審確定

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■判決内容

<争点>

1 原告は被告らに対し本件ビデオ映像を編集して放送番組を制作すること及びテレビ局を通じて同番組を放送することを黙示に許諾したか

原告撮影の本件ビデオ映像が編集されて放送番組が制作されること及び同番組がテレビ局を通じて放送されることについて、原告が被告に対して黙示の許諾を与えていたかどうかが争点となっています。

この点、原告が平成16年5月28日に被告企画会社の専属映像ディレクターCから本件ビデオ映像の説明書の作成を依頼された際、被告らにおいて本件ビデオ映像を利用した放送番組を制作するという企画を検討中であることが伝えられており、その時点では同企画及び本件説明書を作成することについて原告は特段異議を述べず、むしろCに対して、本件説明書を作成するために必要であるとして本件ビデオ映像のコピーを渡して欲しいと求めるなど、本件説明書の作成に応じるかのような対応をとっていたことが認められています。

しかし、裁判所は、Cが原告に対し本件ビデオ映像を利用した放送番組制作の企画を検討していることを伝えた段階では、本件ビデオ映像を使用して実際に放送番組を制作することができるか否かは、まだ判断ができない状態であって、当該企画自体が明確に確定していたわけではなく、当然、被告らにおいて、どのような方針で本件ビデオ映像を編集し、具体的にどのような内容の番組を制作するのかという点や、制作された番組を誰に対してどのような条件で販売し、いつどのような形で放送されるのかという点についても確定していなかったものであり、これらの事項について、被告らから原告に対して説明したり、原告の許諾を求めたりしたことはなく、原告においてこれらの事項を認識していたものでもなかったこと、その後に別件訴訟が提起されるまでの間に、被告らがこれらの事項を原告に説明するなどして許諾を求めたことはないと判断。

原告による黙示の許諾は認められず、結論として、被告らが原告の意に反して本件ビデオ映像を編集し、本件ビデオ映像の一部を利用して本件テレビ番組を制作したことにより、本件ビデオ映像に係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害したこと、また、本件テレビ番組がテレビで放送されることを目的として同番組をテレビ局に販売され、その後同番組がテレビで放送されたことにより本件ビデオ映像に係る原告の著作権(頒布権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び公表権)を侵害したことが認められています(22頁以下)。

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2 被告らは、本件テレビ番組に原告の氏名表示を省略すること(著作権法19条3項)ができるか

被告らは、本件ビデオ映像と本件テレビ番組の作品としての質的相違などを根拠に氏名表示省略の正当性(著作権法19条3項)を主張しましたが、裁判所は容れていません(31頁以下)。

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3 被告らの故意又は過失の有無

被告らの故意又は過失について、裁判所は、被告らが本件テレビ番組を制作したことや本件テレビ番組を販売したことにつき、少なくとも過失があったと認定しています(32頁以下)。

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4 過失相殺の成否

被告らは、原告の対応に問題があったとして過失相殺を主張しましたが、裁判所は容れていません(32頁以下)。

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5 原告の損害

原告の損害額について、使用料相当額として50万円(114条3項)、著作者人格権を侵害したことに対する慰謝料として50万円、弁護士費用相当額として10万円の合計110万円が認定されています(34頁以下)。

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■コメント

著作権侵害性が認められたものの、原告の思うような損害額が認定されない結果となっています。

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■過去のブログ記事

2010年11月15日記事 「SL世界の車窓」DVD事件(控訴審)

2010年5月14日記事 原審