最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
片手鍋握り部デザイン事件
知財高裁平成24.3.22平成23(ネ)10062損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 池下 朗
裁判官 武宮英子
*裁判所サイト公表 2012.3.27
*キーワード:実用品、著作物性、応用美術、美術工芸品、意匠、設計図、商品化実施契約
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■事案
片手鍋の握り部のデザインの著作物性が争点となった事案
控訴人 (一審原告):デザイナー
被控訴人(一審被告):商品企画製造販売会社
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2項、民法709条
1 本件商品化実施契約に基づく請求
2 本件鍋シリーズに係るデザイナー表示に関連した請求
3 著作権侵害に基づく請求
4 本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が不法行為を構成することを理由とする請求
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■事案の概要
『控訴人は被控訴人に対し,被控訴人が控訴人の提案したデザインを使用した本件三徳包丁等を製造,販売した行為に関して,本件三徳包丁等が,控訴人及び被控訴人間で締結した本件商品化実施契約に係る対象商品に含まれると主張して,ロイヤルティ相当額である損害金364万8000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年1月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め』るなどした事案(1頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件商品化実施契約に基づく請求
控訴人(一審原告)提案のデザインを使用した本件三徳包丁等を被控訴人が製造、販売した行為に関して、本件三徳包丁等が、控訴人及び被控訴人間で締結した本件商品化実施契約に係る対象商品に含まれると主張して、ロイヤルティ相当額である損害金364万8000円等を控訴人は請求しました。また、被控訴人が、本件三徳包丁等のデザイナーとして、控訴人ではなく第三者(A)を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をしたことが本件商品化実施契約の付随債務に違反すると主張して、損害金100万円等を請求しました。
結論としては、控訴審は原審の判断を維持して控訴人の主張を認めていません(8頁)。
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2 本件鍋シリーズに係るデザイナー表示に関連した請求
被控訴人が、控訴人提案のデザインを使用して商品化し販売した本件鍋シリーズについて、デザイナーとして控訴人及び被控訴人担当者(B)の両名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をしたことは、本件業務委託契約の付随債務の不履行に当たると主張して、控訴人が損害金100万円等の請求をした点についても、原審の判断を維持して否定しています(8頁以下)。
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3 著作権侵害に基づく請求
著作権侵害に基づく請求として、控訴人は、
(1)本件三徳包丁等を製造、販売した被控訴人の行為は、本件デザイン1(片手鍋用のデザイン)について控訴人が有する複製権、翻案権(なお、控訴審では、譲渡権を追加)を侵害する
(2)被控訴人が、本件三徳包丁等のデザイナーとして、控訴人ではなく、第三者(A)を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をしたことは、本件デザイン1について控訴人が有する氏名表示権(著作権法19条)を侵害する
(3)被控訴人が、控訴人提案のデザインを使用して商品化し販売した本件鍋シリーズについて、デザイナーとして控訴人及び被控訴人担当者(B)の両名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をしたことは、本件デザイン1について控訴人が有する氏名表示権(著作権法19条)を侵害する
以上の諸点を主張しました(9頁以下)。
この点について、裁判所は、
『著作権法は,著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,・・・美術・・・の範囲に属するものをいう。」と規定するが,さらに「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする。」と重ねて規定する(2条1項1号,2項)。また,意匠法は,「この法律で『意匠』とは,物品・・・の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」と規定する(2条1項)。上記の規定振りなどに照らすならば,産業上利用されることを予定して製作される商品等について,その形状,模様又は色彩の選択により,美的な価値を高める効果がある場合,そのような効果があるからといって,その形状,模様又は色彩の選択は,当然には,著作権法による保護の対象となる美術の著作物に当たると解すべきではなく,その製品の目的,性質等の諸要素を総合して,美術工芸品と同視できるような美的な効果を有する限りにおいて,著作権法の保護の対象となる美術の著作物となると解すべきである。』
と説示した上で、
実用品である鍋の持ち手のデザインである本件デザイン1は、美的な観点から選択された面もあるが、実用品である鍋等の取っ手としての持ちやすさ、安定性など、機能的な観点から選択されたものであって、そのような点を勘案すると、本件デザイン1は、美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとまではいえず、著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできないと判断。
本件デザイン1が著作権法による保護の対象となるとは認められないとしています(なお、立体のデザインモデルについても同様の理由により否定)。
また、別紙原立体図面、別紙原デザイン図面、平面の製作図面についても、美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとはいえないから、著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできないなどとして原告の主張を容れていません。
結論として、原告主張の制作物に基づく著作権、著作者人格権侵害性はすべて否定されています。
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4 本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が不法行為を構成することを理由とする請求
控訴人は、「被控訴人のした本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為」及び「被控訴人のした三徳包丁等のデザイナーとして第三者の名を表示した行為」がいわゆる一般不法行為(民法709条)を構成すると主張しました。
しかし、裁判所は、特段の事情のない限り不法行為を構成しないとして、特段の事情に関する主張立証のない本件での一般不法行為の成立を否定しています(12頁)。
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■コメント
片手鍋のグリップ部分のデザインが、三徳包丁等のグリップのデザインに流用されているとして著作権侵害性などが争点となった事案です。
原審の判断が最高裁判所サイトに掲載されていないので、事案の経緯の詳細が分かりませんが、原審の棄却の判断が維持される結果となっています。
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■最近の応用美術に関連する判例
スペースチューブ事件(控訴審)
片手鍋握り部デザイン事件
知財高裁平成24.3.22平成23(ネ)10062損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 池下 朗
裁判官 武宮英子
*裁判所サイト公表 2012.3.27
*キーワード:実用品、著作物性、応用美術、美術工芸品、意匠、設計図、商品化実施契約
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■事案
片手鍋の握り部のデザインの著作物性が争点となった事案
控訴人 (一審原告):デザイナー
被控訴人(一審被告):商品企画製造販売会社
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■結論
控訴棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2項、民法709条
1 本件商品化実施契約に基づく請求
2 本件鍋シリーズに係るデザイナー表示に関連した請求
3 著作権侵害に基づく請求
4 本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が不法行為を構成することを理由とする請求
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■事案の概要
『控訴人は被控訴人に対し,被控訴人が控訴人の提案したデザインを使用した本件三徳包丁等を製造,販売した行為に関して,本件三徳包丁等が,控訴人及び被控訴人間で締結した本件商品化実施契約に係る対象商品に含まれると主張して,ロイヤルティ相当額である損害金364万8000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年1月15日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め』るなどした事案(1頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件商品化実施契約に基づく請求
控訴人(一審原告)提案のデザインを使用した本件三徳包丁等を被控訴人が製造、販売した行為に関して、本件三徳包丁等が、控訴人及び被控訴人間で締結した本件商品化実施契約に係る対象商品に含まれると主張して、ロイヤルティ相当額である損害金364万8000円等を控訴人は請求しました。また、被控訴人が、本件三徳包丁等のデザイナーとして、控訴人ではなく第三者(A)を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をしたことが本件商品化実施契約の付随債務に違反すると主張して、損害金100万円等を請求しました。
結論としては、控訴審は原審の判断を維持して控訴人の主張を認めていません(8頁)。
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2 本件鍋シリーズに係るデザイナー表示に関連した請求
被控訴人が、控訴人提案のデザインを使用して商品化し販売した本件鍋シリーズについて、デザイナーとして控訴人及び被控訴人担当者(B)の両名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をしたことは、本件業務委託契約の付随債務の不履行に当たると主張して、控訴人が損害金100万円等の請求をした点についても、原審の判断を維持して否定しています(8頁以下)。
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3 著作権侵害に基づく請求
著作権侵害に基づく請求として、控訴人は、
(1)本件三徳包丁等を製造、販売した被控訴人の行為は、本件デザイン1(片手鍋用のデザイン)について控訴人が有する複製権、翻案権(なお、控訴審では、譲渡権を追加)を侵害する
(2)被控訴人が、本件三徳包丁等のデザイナーとして、控訴人ではなく、第三者(A)を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をしたことは、本件デザイン1について控訴人が有する氏名表示権(著作権法19条)を侵害する
(3)被控訴人が、控訴人提案のデザインを使用して商品化し販売した本件鍋シリーズについて、デザイナーとして控訴人及び被控訴人担当者(B)の両名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をしたことは、本件デザイン1について控訴人が有する氏名表示権(著作権法19条)を侵害する
以上の諸点を主張しました(9頁以下)。
この点について、裁判所は、
『著作権法は,著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,・・・美術・・・の範囲に属するものをいう。」と規定するが,さらに「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする。」と重ねて規定する(2条1項1号,2項)。また,意匠法は,「この法律で『意匠』とは,物品・・・の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」と規定する(2条1項)。上記の規定振りなどに照らすならば,産業上利用されることを予定して製作される商品等について,その形状,模様又は色彩の選択により,美的な価値を高める効果がある場合,そのような効果があるからといって,その形状,模様又は色彩の選択は,当然には,著作権法による保護の対象となる美術の著作物に当たると解すべきではなく,その製品の目的,性質等の諸要素を総合して,美術工芸品と同視できるような美的な効果を有する限りにおいて,著作権法の保護の対象となる美術の著作物となると解すべきである。』
と説示した上で、
実用品である鍋の持ち手のデザインである本件デザイン1は、美的な観点から選択された面もあるが、実用品である鍋等の取っ手としての持ちやすさ、安定性など、機能的な観点から選択されたものであって、そのような点を勘案すると、本件デザイン1は、美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとまではいえず、著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできないと判断。
本件デザイン1が著作権法による保護の対象となるとは認められないとしています(なお、立体のデザインモデルについても同様の理由により否定)。
また、別紙原立体図面、別紙原デザイン図面、平面の製作図面についても、美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとはいえないから、著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできないなどとして原告の主張を容れていません。
結論として、原告主張の制作物に基づく著作権、著作者人格権侵害性はすべて否定されています。
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4 本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が不法行為を構成することを理由とする請求
控訴人は、「被控訴人のした本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為」及び「被控訴人のした三徳包丁等のデザイナーとして第三者の名を表示した行為」がいわゆる一般不法行為(民法709条)を構成すると主張しました。
しかし、裁判所は、特段の事情のない限り不法行為を構成しないとして、特段の事情に関する主張立証のない本件での一般不法行為の成立を否定しています(12頁)。
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■コメント
片手鍋のグリップ部分のデザインが、三徳包丁等のグリップのデザインに流用されているとして著作権侵害性などが争点となった事案です。
原審の判断が最高裁判所サイトに掲載されていないので、事案の経緯の詳細が分かりませんが、原審の棄却の判断が維持される結果となっています。
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■最近の応用美術に関連する判例
スペースチューブ事件(控訴審)