最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

溶銑運搬列車制御プログラム事件(控訴審)

知財高裁平成24.1.25平成21(ネ)10024著作権確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      井上泰人
裁判官      荒井章光

*裁判所サイト公表 2012.2.27
*キーワード:プログラム著作物、創作性

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■事案

溶融状態の銑鉄を運搬する列車のブレーキ制御プログラムの著作物性が争われた事案の控訴審

控訴人兼被控訴人(一審原告):通信機器製造販売会社
被控訴人権控訴人(一審被告):鉄鋼会社、物流会社

プログラム目録:
トレックス−PB装置(混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置)のうち、ディーゼル機関車(DHL車)及び貨車(TC車)の各制御装置に格納されたプログラム一式

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■結論

一審被告敗訴部分取消し

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2

1 本件プログラムの著作物性
2 本件使用料支払契約の成否

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■事案の概要

『本件は,1審原告において,1審被告スチールが使用している「混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置」(以下「本件装置」という。)に組み込まれた別紙プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」という。)の複製物について,1審原告が湯浅通信機工業株式会社(以下「湯浅通信機」という。)から当該プログラムの著作権を譲渡されるなどして本件プログラムの著作権を取得したところ,1審被告スチールが本件装置を使用するに当たり,1審被告らとの間で,相当額の本件プログラムの使用料を支払う旨の合意があった,仮に合意がなかったとしても,1審被告スチールは本件プログラムの使用により不当に利得しているとして,これを争う1審被告らに対し,(1)本件プログラムの著作権が1審原告に帰属することの確認,(2)本件プログラムの使用料支払契約(1審被告らに対する主位的請求及び1審被告スチールに対する予備的請求1)ないし不当利得(1審被告スチールに対する予備的請求2)に基づき,連帯して,使用料ないし不当利得相当額15億円の支払(平成11年1月1日から平成16年12月31日まで6年間分合計18億円のうちの10億円及び平成17年1月1日から平成20年12月31日までの4年間分合計12億円のうちの5億円の一部請求。なお,遅延損害金は,1審被告スチールについては,平成11年1月1日から平成16年12月31日までの6年間分18億円のうち5億円につき訴状送達の日の翌日である平成17年4月12日から,うち5億円につき平成18年4月13日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同年3月16日から,平成17年1月1日から平成20年12月31日までの4年間分12億円のうち5億円につき平成21年9月3日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同年11月19日から,1審被告物流については平成11年1月1日から平成16年12月31日までの6年間分18億円のうち10億円につき平成19年3月16日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同月17日から,平成17年1月1日から平成20年12月31日までの4年間分12億円のうち5億円につき平成21年9月3日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である同年11月19日から各支払済みまで年5分の割合)を求める事案である。』
『原判決は,本件装置における車両の連結・解放・ブレーキ操作の方法・装置は,特許を取得する程度に新規なものであったことから,これに対応する本件プログラムも新規な内容のものであるということができ,しかも,本件プログラムは,その分量も多く,選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものということができるから,その表現には全体として作成者の個性が表れているものと推認することができるところ,本件プログラムの著作権は,著作権者である湯浅通信機から1審原告に遅くとも平成11年ころまでには譲渡されたものと認められるとして,上記(1)の本件プログラムの著作権に係る確認請求を認容した。
 しかし,(2)の本件プログラムの著作権に係る金銭請求については,本件プログラムの使用料支払契約に係る合意が成立したとは認められず,また,1審被告スチールは適法に複製された本件プログラムの複製物を本件装置において使用しているにすぎない以上,1審原告には何らの損失が生じたものということはできないから,不当利得も成立しないとして,これを棄却した。
 1審原告及び1審被告らは,原判決を不服として,それぞれ控訴に及んだ』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件プログラムの著作物性

製鉄所で溶融状態の銑鉄を運搬する列車(動力車、貨車)の「混銑車自動停留ブレーキ及び連結解放装置」(本件装置)に組込まれた制御プログラムの著作物性について、ありふれたものかどうかが争点となりました。
この点について、原審では、『本件プログラムは,DHL車の部分及びTC車の部分を併せた全体として新規な表現であり,しかも,その分量(ソースリストでみると,DHL車の部分は1300行以上,TC車の部分は約1000行)も多く,選択配列の幅が十分にある中から選択配列されたものということができるから,その表現には全体として作成者の個性が表れているものと推認することができる。』(39頁以下)としてその著作物性をソースコード自体の検討をすることなく肯定していました。
しかし、控訴審では、原審では開示されなかった本件プログラム全体のソースコードの検討が必要であることが示された上で、弁論準備手続期日における受命裁判官の求釈明により、本件プログラム全体のソースコードを文書として提出するか否かについて検討し、DHL車側プログラムについては一審原告がソースコードを提出したものの、本件プログラムのいかなる箇所にプログラム制作者の個性が発揮されているのかについて具体的に主張立証していないと判断。
また、TC車側プログラムについても、当該命令部分の相当程度のソースコードが開示されていないなどとして、当該命令部分の存在が、プログラム制作者の個性、すなわち表現上の創作性が発揮されているものであることについて、これを認めるに足りる証拠はないというほかないと判断。
結論として、DHL車及びTC車いずれのプログラムについてもその創作性が否定されています(72頁以下)。

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2 本件使用料支払契約の成否

本件使用料支払契約に係る合意の成立自体についても、契約締結に至る経緯や本件装置の納入代金と使用料額との対比などが検討された上で否定されています(119頁以下)。

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■コメント

一審では本件プログラムの著作権の確認の限りでは認容されていましたが、控訴審では、その点も含め原告の全面敗訴となりました。
原審では、本件プログラムのフローチャートやソースリストの量などを勘案してプログラムの創作性を判断していましたが、控訴審ではプログラムの創作性判断にあたってはソースコードの検討がその内容の確定を含め要求されるとしてソースコードの開示を厳格に捉えた点が控訴審レベルの判断として参考になります。


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■過去のブログ記事

2009年3月5日 原審