最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

漢字能力検定対策問題集事件

大阪地裁平成24.2.16平成21(ワ)18463著作権確認等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2012.2.24
*キーワード:編集著作権、著作者の推定、法人著作、営業誹謗行為

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■事案

漢字能力検定対策問題集の編集著作権の帰属や営業誹謗行為性が争点となった事案

原告:漢字検定実施財団法人
被告:教材制作会社、代表者P1

本件書籍1ないし11:過去問題集
本件書籍12ないし21:ステップシリーズ
本件書籍22ないし27:分野別シリーズ
本件書籍28ないし33:ハンディシリーズ

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法12条、14条、15条1項、不正競争防止法2条1項14号

1 本件対策問題集の編集著作権の帰属
2 不正競争防止法に基づく請求

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■事案の概要

『原告は,本件各書籍の編集著作権は原告に帰属しており,被告らの前記1(7)の各行為は不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為にあたるとして,被告らに対し,(1)本件書籍12ないし33(以下「本件対策問題集」という。)の編集著作権が原告にあることの確認を求め,(2)不正競争防止法3条1項に基づき,本件各書籍の編集著作権が被告オークに帰属する旨,及び本件各書籍を制作・販売する原告の行為が被告オークの著作権を侵害している旨の告知・流布行為の禁止を求め』た事案(5頁以下)

<経緯>

S50   被告社が日本漢字能力検定を開始
H04.6 被告P1が原告を設立
H16.1 原被告間で商品供給に関する商品売買基本契約を締結
H21.4 被告P1が原告代表を退任
H21.9 被告取締役P2が印刷会社らに侵害警告の告知
H22.4 第3回弁論準備手続期日において過去問の編集著作権認諾
H24.2 被告P1に背任罪有罪判決(京都地裁)

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■判決内容

<争点>

1 本件対策問題集の編集著作権の帰属

漢字能力検定の対策問題集(本件書籍12ないし33)の編集著作権の帰属について、問題集の制作、編集には原告の従業員、被告社、外部編集プロダクションが係わっていましたが、それらの関わり、経緯を踏まえた上で検討を加えています。
そして、各書籍の奥書には、

編者  被告社の事業部門名
監修  原告名
発行者 P1
発行所 原告名

との記載があることから、編集著作者は被告社であると推定される(14条)ものの、推定を覆す事実として原告に法人著作(15条1項)が成立するかどうかを検討しています。
この点について、ステップ毎の大問(出題形式)や小問(具体的な問題)などの素材の選択、配列について創作性のある作業を行ったのは、原告の編集方針に従い、原告の最終的な決定権限に基づき具体的な関与を行った原告の従業員であるなどとして、本件対策問題集の編集著作者は15条1項により原告であると認められています(13頁以下)。
なお、外部編集プロダクションが独自に編集著作権を取得するかどうかについて、裁判所は、編集プロダクションは原告の方針に反して選択・配列に創作性を発揮することが許されない立場にあり、いわば原告の手足であったと認定。被告社と編集プロダクションとの間で締結された業務委託契約書上の著作権譲渡規定を根拠に被告社が編集著作権を取得することはないと判断されています(29頁以下)。
また、被告社の編集への具体的な関与も認定されていません(32頁以下)。

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2 不正競争防止法に基づく請求

本件対策問題集の編集著作権は原告に帰属し、被告社には帰属しないと認められたことから、被告らが第三者に対してその編集著作権が被告社に帰属する旨及び同書籍を制作販売する原告の行為が、被告社の著作権を侵害している旨を告知、流布することは、教材の制作・販売等において競争関係にあると認められる原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知、流布(2条1項14号)となると判断されています(36頁以下)。

以上から、本件対策問題集の編集著作権の確認と営業誹謗行為の差止めが認められています。

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■コメント

漢字検定については、理事長らによる協会の私物化が問題になり、平成16年から自身や親族が役員を務める広告会社や調査研究会社に「年間プロモーション企画費」などの名目で計42回、架空の業務を発注し損害を与えたとして刑事事件化、平成24年2月29日に背任罪で元理事長親子に京都地裁で有罪判決が下されています。

事件の発覚後、協会は組織の改革に取り組んでおり、本件はその流れのなかでの提訴の一部と位置付けられます。

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■参考サイト

平成24年2月29日 財団法人 日本漢字能力検定協会リリース
2012/02/29 弊協会の元理事長・副理事長に対する刑事裁判の判決について