最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「北朝鮮の極秘文書」損害賠償請求事件
東京地裁平成24.1.31平成20(ワ)20337損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門 優
裁判官 志賀 勝
*裁判所サイト公表 2012.2.15
*キーワード:編集著作物性、複製権、翻案権、譲渡権、消滅時効、名誉毀損
--------------------
■事案
朝鮮史資料集の無断掲載書籍の著作権侵害性や名誉毀損の成否が争点となった事案
原告:作家
被告:出版社、出版社代表取締役ら
--------------------
■結論
本訴一部認容、反訴一部認容
--------------------
■争点
条文 著作権法12条1項、27条、26条の2、113条1項2号、民法724条
1 原告書籍収録文書は、編集著作物か
2 韓国書籍解説は、原告書籍解説に係る原告の著作権(翻案権)を侵害するか
3 被告らは、韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか
4 被告らは、韓国書籍が原告書籍に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることの「情を知って」韓国書籍を販売したものか
5 被告らは、韓国書籍を販売することにより原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)を侵害したか
6 消滅時効の成否
7 原告の損害
8 被告らの不当利得の有無
9 本件新聞記事及び本件ビラ等は、被告両名の名誉ないし信用を毀損するものか(反訴)
10 本件新聞記事及び本件ビラ等に掲載された事実は真実か等(反訴)
11 被告両名の損害について(反訴)
12 謝罪広告の要否(反訴)
--------------------
■事案の概要
『本訴事件は,後記原告書籍について著作権を有すると主張する原告が,後記韓国書籍は原告に無断で原告書籍の一部を掲載したものであり,同書籍を製作し販売した被告高麗書林は,原告書籍に係る原告の著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害したなどと主張して,被告高麗書林,上記韓国書籍が出版された当時の同社の代表取締役であった被告B,及び被告Bの子で上記出版の当時から現在まで同社の代表取締役である被告Cに対し,不法行為に基づく損害賠償等として,3687万2000円(著作権侵害の損害として3187万2000円,著作者人格権侵害の損害として500万円)及びこれに対する不法行為の日(上記韓国書籍が出版された日)である平成10年6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める事案である。
反訴事件は,被告高麗書林及び被告B(以下「被告両名」という。)が,被告両名は,原告が執筆し日刊・大阪日日新聞に掲載された後記新聞記事,及び原告が朝鮮史研究会の会場において来場者に配布した後記ビラなどに,被告両名が上記原告書籍を無断で盗用し,著作権侵害の海賊版(上記韓国書籍)を製作・販売したかのような内容が記載されていることによって,被告両名の名誉及び信用を毀損されたと主張して,原告に対し,謝罪広告並びに,不法行為に基づく損害賠償として,それぞれ1375万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成20年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(3頁以下)
<経緯>
H08.02「米国・国立公文書館所蔵 北朝鮮の極秘文書(1945年8月ー1951年6月)」(原告書籍)出版
H10.06韓国高麗書林が「美國・國立公文書館所蔵 北韓解放直後極秘資料(1945年8月ー1951年6月)」出版
H20.07原告が新聞記事を寄稿
H20.10原告がビラを配布
--------------------
■判決内容
<争点>
1 原告書籍収録文書は、編集著作物か
まず、原告書籍収録文書の編集著作物性(著作権法12条1項)が争点となっています(35頁以下)。
被告らは、原告書籍収録文書では米軍押収文書から出版物を作成する場合にとられる標準的な素材の選択又は配列であって、創作性がないと反論しました。
この点について、裁判所は、単に米軍押収文書を時系列に従って並べたり、既に分類されていたものの中から特定の項目のものを選択したりしたというものではなく、原告が、未整理の状態で保存されていた160万ページにも及ぶ米軍押収文書の中から南北朝鮮のどちらが先に朝鮮戦争を仕掛け、戦争を主導したかを明らかにする文書という一定の視点から約1500ページ分を選択し、これを原告の設定したテーマごとに分類して配列したものといえると判断。
原告書籍収録文書は、全体として素材である原資料の選択及び配列に編者の個性が顕れているものと認められるものであり、編集著作物に当たるというべきである、としています。
------------------------------------
2 韓国書籍解説は、原告書籍解説に係る原告の著作権(翻案権)を侵害するか
韓国書籍の冒頭に韓国語(ハングル)で書かれた解説文が、原告書籍解説に係る原告の翻案権を侵害するかどうかについて、裁判所は、収録文書や資料の掲載順序が原告書籍収録文書と同じであることなどから、依拠性と日本語から韓国語への翻訳する変更の翻案行為性が認められています(39頁以下)。
------------------------------------
3 被告らは、韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか
被告らが、韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したかどうかについて、結論としては、認められていません(40頁以下)。
------------------------------------
4 被告らは、韓国書籍が原告書籍に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることの「情を知って」韓国書籍を販売したものか
原告は、被告らが韓国高麗書林のDと共謀して原告書籍に基づき韓国書籍を製作し、これを日本で販売していたとして侵害みなし行為(113条1項2号)に該当すると主張しましたが、裁判所は、被告らの製作関与の事実が認められないこと、また、販売の際に侵害の認識を有していたとも認めるに足りる証拠もないとして113条1項2号該当性を否定しています(46頁以下)。
------------------------------------
5 被告らは、韓国書籍を販売することにより原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)を侵害したか
原告の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権の侵害の事実は認められませんでしたが、さらに譲渡権(26条の2)の侵害性が争点となっています。
この点について、裁判所は、被告Bないし被告高麗書林は、韓国書籍収録文書が原告書籍収録文書を複製したものであること及び韓国書籍解説が原告書籍解説を翻案したものであることを認識し得たにもかかわらず、このような調査を行うことなく韓国書籍を販売したものであるとして、原告が平成14年4月4日に被告高麗書林を訪問して被告Bとやりとりをした後の被告高麗書林による韓国書籍の販売による原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)侵害については、被告高麗書林及び被告Bに過失があったというべきであるとして、両者の譲渡権侵害が認定されています(47頁)。
------------------------------------
6 消滅時効の成否
被告らは、消滅時効の抗弁を主張しましたが(民法724条)、被告高麗書林が平成14年4月4日以降も韓国書籍の販売を継続していたことの認識が原告にあったとは認定できないとして、裁判所は被告らの主張を認めていません(48頁)。
------------------------------------
7 原告の損害
原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)侵害について、逸失利益として27万円(10セットの販売。1セット当たり2万7000円の許諾料として算定)、弁護士費用として3万円の合計30万円が損害額として認定されています(48頁以下)。
------------------------------------
8 被告らの不当利得の有無
被告らによる不当利得の有無について、裁判所は原告の主張を認めていません(51頁)。
------------------------------------
9 本件新聞記事及び本件ビラ等は、被告両名の名誉ないし信用を毀損するものか(反訴)
謝罪広告掲載などを求めた反訴請求について、まず、本件新聞記事やビラに掲載された内容が、被告らの社会的評価を低下させるものであることが認定されています(51頁以下)。
------------------------------------
10 本件新聞記事及び本件ビラ等に掲載された事実は真実か等(反訴)
次に、掲載事実の真実性や真実であると信ずるについて相当の理由があったかどうかが検討されていますが、いずれも認められていません(53頁以下)。
------------------------------------
11 被告両名の損害について(反訴)
被告両名の名誉ないし信用を毀損した行為について、被告高麗書林が受けた無形の損害及び被告Bが受けた精神的損害についてそれぞれ30万円、また、弁護士費用についてはそれぞれ3万円が損害額として認定されています(54頁)。
------------------------------------
12 謝罪広告の要否(反訴)
被告らが求めた新聞への謝罪広告掲載の必要は、認められていません(54頁以下)。
--------------------
■コメント
「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件の判決文でも触れられていた別件訴訟である損害賠償請求事件となります。
被告出版社らの韓国語翻訳版侵害書籍製作への直接の関与は認められなかったものの、侵害書籍販売の点で過失が認められています。
--------------------
■過去のブログ記事
2009年03月21日記事(不二出版訴訟)
復刻版歴史資料事件
2010年04月10日記事
「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件
2010年08月17日記事
「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(控訴審)
「北朝鮮の極秘文書」損害賠償請求事件
東京地裁平成24.1.31平成20(ワ)20337損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門 優
裁判官 志賀 勝
*裁判所サイト公表 2012.2.15
*キーワード:編集著作物性、複製権、翻案権、譲渡権、消滅時効、名誉毀損
--------------------
■事案
朝鮮史資料集の無断掲載書籍の著作権侵害性や名誉毀損の成否が争点となった事案
原告:作家
被告:出版社、出版社代表取締役ら
--------------------
■結論
本訴一部認容、反訴一部認容
--------------------
■争点
条文 著作権法12条1項、27条、26条の2、113条1項2号、民法724条
1 原告書籍収録文書は、編集著作物か
2 韓国書籍解説は、原告書籍解説に係る原告の著作権(翻案権)を侵害するか
3 被告らは、韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか
4 被告らは、韓国書籍が原告書籍に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることの「情を知って」韓国書籍を販売したものか
5 被告らは、韓国書籍を販売することにより原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)を侵害したか
6 消滅時効の成否
7 原告の損害
8 被告らの不当利得の有無
9 本件新聞記事及び本件ビラ等は、被告両名の名誉ないし信用を毀損するものか(反訴)
10 本件新聞記事及び本件ビラ等に掲載された事実は真実か等(反訴)
11 被告両名の損害について(反訴)
12 謝罪広告の要否(反訴)
--------------------
■事案の概要
『本訴事件は,後記原告書籍について著作権を有すると主張する原告が,後記韓国書籍は原告に無断で原告書籍の一部を掲載したものであり,同書籍を製作し販売した被告高麗書林は,原告書籍に係る原告の著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害したなどと主張して,被告高麗書林,上記韓国書籍が出版された当時の同社の代表取締役であった被告B,及び被告Bの子で上記出版の当時から現在まで同社の代表取締役である被告Cに対し,不法行為に基づく損害賠償等として,3687万2000円(著作権侵害の損害として3187万2000円,著作者人格権侵害の損害として500万円)及びこれに対する不法行為の日(上記韓国書籍が出版された日)である平成10年6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める事案である。
反訴事件は,被告高麗書林及び被告B(以下「被告両名」という。)が,被告両名は,原告が執筆し日刊・大阪日日新聞に掲載された後記新聞記事,及び原告が朝鮮史研究会の会場において来場者に配布した後記ビラなどに,被告両名が上記原告書籍を無断で盗用し,著作権侵害の海賊版(上記韓国書籍)を製作・販売したかのような内容が記載されていることによって,被告両名の名誉及び信用を毀損されたと主張して,原告に対し,謝罪広告並びに,不法行為に基づく損害賠償として,それぞれ1375万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成20年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。』(3頁以下)
<経緯>
H08.02「米国・国立公文書館所蔵 北朝鮮の極秘文書(1945年8月ー1951年6月)」(原告書籍)出版
H10.06韓国高麗書林が「美國・國立公文書館所蔵 北韓解放直後極秘資料(1945年8月ー1951年6月)」出版
H20.07原告が新聞記事を寄稿
H20.10原告がビラを配布
--------------------
■判決内容
<争点>
1 原告書籍収録文書は、編集著作物か
まず、原告書籍収録文書の編集著作物性(著作権法12条1項)が争点となっています(35頁以下)。
被告らは、原告書籍収録文書では米軍押収文書から出版物を作成する場合にとられる標準的な素材の選択又は配列であって、創作性がないと反論しました。
この点について、裁判所は、単に米軍押収文書を時系列に従って並べたり、既に分類されていたものの中から特定の項目のものを選択したりしたというものではなく、原告が、未整理の状態で保存されていた160万ページにも及ぶ米軍押収文書の中から南北朝鮮のどちらが先に朝鮮戦争を仕掛け、戦争を主導したかを明らかにする文書という一定の視点から約1500ページ分を選択し、これを原告の設定したテーマごとに分類して配列したものといえると判断。
原告書籍収録文書は、全体として素材である原資料の選択及び配列に編者の個性が顕れているものと認められるものであり、編集著作物に当たるというべきである、としています。
------------------------------------
2 韓国書籍解説は、原告書籍解説に係る原告の著作権(翻案権)を侵害するか
韓国書籍の冒頭に韓国語(ハングル)で書かれた解説文が、原告書籍解説に係る原告の翻案権を侵害するかどうかについて、裁判所は、収録文書や資料の掲載順序が原告書籍収録文書と同じであることなどから、依拠性と日本語から韓国語への翻訳する変更の翻案行為性が認められています(39頁以下)。
------------------------------------
3 被告らは、韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したか
被告らが、韓国高麗書林と共謀して韓国書籍を製作したかどうかについて、結論としては、認められていません(40頁以下)。
------------------------------------
4 被告らは、韓国書籍が原告書籍に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものであることの「情を知って」韓国書籍を販売したものか
原告は、被告らが韓国高麗書林のDと共謀して原告書籍に基づき韓国書籍を製作し、これを日本で販売していたとして侵害みなし行為(113条1項2号)に該当すると主張しましたが、裁判所は、被告らの製作関与の事実が認められないこと、また、販売の際に侵害の認識を有していたとも認めるに足りる証拠もないとして113条1項2号該当性を否定しています(46頁以下)。
------------------------------------
5 被告らは、韓国書籍を販売することにより原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)を侵害したか
原告の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権の侵害の事実は認められませんでしたが、さらに譲渡権(26条の2)の侵害性が争点となっています。
この点について、裁判所は、被告Bないし被告高麗書林は、韓国書籍収録文書が原告書籍収録文書を複製したものであること及び韓国書籍解説が原告書籍解説を翻案したものであることを認識し得たにもかかわらず、このような調査を行うことなく韓国書籍を販売したものであるとして、原告が平成14年4月4日に被告高麗書林を訪問して被告Bとやりとりをした後の被告高麗書林による韓国書籍の販売による原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)侵害については、被告高麗書林及び被告Bに過失があったというべきであるとして、両者の譲渡権侵害が認定されています(47頁)。
------------------------------------
6 消滅時効の成否
被告らは、消滅時効の抗弁を主張しましたが(民法724条)、被告高麗書林が平成14年4月4日以降も韓国書籍の販売を継続していたことの認識が原告にあったとは認定できないとして、裁判所は被告らの主張を認めていません(48頁)。
------------------------------------
7 原告の損害
原告書籍に係る原告の著作権(譲渡権)侵害について、逸失利益として27万円(10セットの販売。1セット当たり2万7000円の許諾料として算定)、弁護士費用として3万円の合計30万円が損害額として認定されています(48頁以下)。
------------------------------------
8 被告らの不当利得の有無
被告らによる不当利得の有無について、裁判所は原告の主張を認めていません(51頁)。
------------------------------------
9 本件新聞記事及び本件ビラ等は、被告両名の名誉ないし信用を毀損するものか(反訴)
謝罪広告掲載などを求めた反訴請求について、まず、本件新聞記事やビラに掲載された内容が、被告らの社会的評価を低下させるものであることが認定されています(51頁以下)。
------------------------------------
10 本件新聞記事及び本件ビラ等に掲載された事実は真実か等(反訴)
次に、掲載事実の真実性や真実であると信ずるについて相当の理由があったかどうかが検討されていますが、いずれも認められていません(53頁以下)。
------------------------------------
11 被告両名の損害について(反訴)
被告両名の名誉ないし信用を毀損した行為について、被告高麗書林が受けた無形の損害及び被告Bが受けた精神的損害についてそれぞれ30万円、また、弁護士費用についてはそれぞれ3万円が損害額として認定されています(54頁)。
------------------------------------
12 謝罪広告の要否(反訴)
被告らが求めた新聞への謝罪広告掲載の必要は、認められていません(54頁以下)。
--------------------
■コメント
「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件の判決文でも触れられていた別件訴訟である損害賠償請求事件となります。
被告出版社らの韓国語翻訳版侵害書籍製作への直接の関与は認められなかったものの、侵害書籍販売の点で過失が認められています。
--------------------
■過去のブログ記事
2009年03月21日記事(不二出版訴訟)
復刻版歴史資料事件
2010年04月10日記事
「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件
2010年08月17日記事
「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件(控訴審)