最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「合格!行政書士 南無刺青観世音」入れ墨事件(控訴審)

知財高裁平成24.1.31平成23(ネ)10052損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      池下 朗
裁判官      武宮英子

*裁判所サイト公表 2012.2.3
*キーワード:著作物性、著作者人格権、出版社の責任、人格権、プライバシー権

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■事案

自らの左大腿部に施した十一面観音立像の入れ墨の画像を彫り師に無断で自著の書籍やホームページに掲載するなどしたとして著作者人格権侵害性が争点となった事案の控訴審

控訴人 (一審被告):出版社、執筆者
被控訴人(一審原告):彫り師

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■結論

一部変更

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■争点

条文 2条1項1号、18条、19条、20条

1 本件入れ墨の著作物性
2 著作者人格権侵害の成否
3 人格権及びプライバシー権侵害の成否
4 損害及びその額

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■事案の概要

『(1)原審の事案の概要
 当事者の表記については,被控訴人を原告,控訴人Xを被告X,控訴人株式会社本の泉社を被告本の泉社という。
 原審の経緯は,以下のとおりである。
 被告Xは,「合格!行政書士 南無刺青観世音」と題する書籍(平成19年7月1日初版第1刷発行。以下「本件書籍」という。)を執筆し,被告本の泉社は,これを発行,販売した。本件書籍の発行,販売等に関して,原告は,被告らに対して,以下の各請求をした。
ア 原審「第1の1の請求」
(ア)被告らが原告の許諾を得ずに原告が被告Xの左大腿部に施した十一面観音立像の入れ墨(以下「本件入れ墨」という。)を撮影した写真の陰影を反転させ,セピア色の単色に変更した画像(以下「本件画像」という。)を本件書籍の表紙カバー(別紙の1。以下「本件表紙カバー」という。)及び扉(別紙の2。以下「本件扉」という。)の2か所に掲載したことは,原告の有する本件入れ墨の著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害すると主張して,被告らに対し,連帯して,著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償金77万円(慰謝料70万円,弁護士費用7万円)及びうち70万円に対する不法行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,
(イ)原告の人格,名誉を傷付ける記述及び原告のプライバシーに関する記述がされており,これらの記述は原告の人格権及びプライバシー権を侵害すると主張して,被告らに対し,連帯して,人格権及びプライバシー権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償金33万円(慰謝料30万円,弁護士費用3万円)及びうち30万円に対する前同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた。
イ 原審「第1の2の請求」
 原告は,被告Xが平成19年7月1日以降インターネット上の自己のホームページ(以下「本件ホームページ1」という。)に本件表紙カバーの写真を掲載していることは,原告の有する本件入れ墨の著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害するとして,被告Xに対し,著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償金35万円(慰謝料30万円,弁護士費用5万円)及びうち30万円に対する不法行為の後の日である平成21年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
ウ 原審「第1の3の請求」
 原告は,被告本の泉社が平成19年7月1日以降インターネット上の自社のホームページ(本件ホームページ1と併せて「本件各ホームページ」という。)に本件表紙カバーの写真を掲載していることは,原告の有する本件入れ墨の著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害するとして,被告本の泉社に対し,著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償金35万円(慰謝料30万円,弁護士費用5万円)及びうち30万円に対する不法行為の後の日である平成22年2月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 なお,原告は,本件訴訟において,本件入れ墨の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権〔送信可能化権を含む。〕)侵害に基づく損害賠償は請求しない旨を明らかにしている。
(2)原判決の概要等
 原審は,(1)本件入れ墨は,著作物性を有する,(2)被告らの本件画像及び本件各ホームページを掲載する被告らの行為は,氏名表示権及び同一性保持権を侵害すると判断して,原告の被告らに対する損害賠償金の支払請求の一部を認容し,その余の請求を棄却した。
 これに対して,被告らは,原判決中の敗訴部分を不服として本件控訴を提起した』事案(2頁以下)

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■判決内容

<争点>

1 本件入れ墨の著作物性
2 著作者人格権侵害の成否
3 人格権及びプライバシー権侵害の成否
4 損害及びその額

争点1ないし3について原審の判断を維持しています。但し、損害額については、半額に減額されています(6頁以下)。

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■コメント

入れ墨の著作物性が争点となった最初の事例として注目されていましたが、控訴審でも本件入れ墨について、墨の濃淡等によって仏像の表情の特徴や立体感を表すための工夫等がされている点等を総合して著作物性が認められています。
なお、出版社の責任についても、原審同様、肯定されています。

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■過去のブログ記事

2011.8.4記事 原審